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1章 原石を、宝石に
9 宝石の望み
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「そもそも、掘り出した精霊付きの原石は必ず魔術師ギルドに――なんて、馬鹿げてる。おかげで鉱夫のひと達はみんな、割高報酬目当てで目の色変えて考えなしに掘っちゃうし」
「お、おう……?」
「魔術師の連中、具体的に何してるか、知ってる? えげつないんだよ! 宝石から精霊を無理やり引き剥がして、無気力化させるんだ。そのなれの果てを今日も、細工師ギルドで見てきたけど。もう、最低!!」
「え、お師匠さまも魔術師ですよね?」
滔々と、青年を捕まえて八つ当たりよろしく胸の内を吐き出していたスイは、思わぬ方向からの不意打ちにも動じなかった。
きっ! と眦をつよめ、鮮やかな紫の瞳に弟子を映す。
「一緒にしないで。私は“学術都市の精霊魔術師”。このプレートは、その証だよ」
襟元に手を差し入れ、銀の鎖を引き出す。そのままゆっくり外すと、カチャリ、とテーブルの上に置いた。
鎖はやわらかな金属光沢の銀。菱形の縁も同様。嵌め込まれたクリスタルは綺麗に研磨され、図案化された梟と不思議な文字が刻まれていた。
それまで腰の引けていた小豆色の髪の青年が、ぐっと上半身を乗り出させる。青い双眸をすがめて――文字を読み解いた。
「【この者、純粋なる学術の徒にして世のあらゆる柵から解き放たれし精霊の魔術師】……なるほど。これがあんたの素性か」
教えなかったことを暗に咎められ、スイは反射で顔をしかめた。チャリ、と手のひらに収まる程度の小さなプレートを指先でとり、拗ねた声音で言い返す。
「……あんまり、大っぴらにしたくないんだよ。私が野良の原石を直接、細工師に持ち込んだってこと。秘密にしてくれる? “失われし言語”をあっさり解読しちゃったお兄さん」
「秘密の代価……ね、考えとく。道具は予備があるから……まぁ、あんたの協力さえあれば何とかなるだろ」
――なんだろう。今、目の前で大人のやり取りが行われた気がする。
妙に置き去りにされた感覚に首を捻りつつ、黙って緑柱石を観察していたキリクは、ふと気付き、声をあげた。
「あの。すみません……その子、なんだかお師匠さまのプレート、気に入ったみたいですよ?」
え? と、大人二人が宙で睨み合っていた視線をほどき、同時に卓上の原石を見た。
原石自身は動けないのだが、代わりに雄弁と言っていいほどの光を操っている。
ほわほわと、夢見るような翠の明かりがシャボン玉のように立ち顕れては浮かび、機嫌よさそうにスイの手のなかに収められた銀縁プレートに寄り添って、消えてゆく。消えたあとには金色の燐光が名残惜しそうに散った。
「……」
「……」
「……」
――なんだろう。この子、可愛いかも……
概ね、三人の心の声は合致した。道具を粉砕された細工師までも。
「……お兄さん、訊ねてみるけど。この子にどんな姿を宛がおうとした?」
「ん? あぁ……核が平たくて、大きい。あんたのそのプレートより一回りほど。だから難儀してたんだ。指輪じゃでかすぎる。ペンダントトップでも。冠は元手がかかりすぎ。仕方ねぇからブローチにしようか、と……――なるほど。そういうことか」
「そうみたいだね」
ほわほわと、嬉しそうな翠の丸い明かりがぱぱぱっと数を増やし、やわらかな翠の光を投げ掛けながら、三人の周囲を元気よく飛び交った。
「お、おう……?」
「魔術師の連中、具体的に何してるか、知ってる? えげつないんだよ! 宝石から精霊を無理やり引き剥がして、無気力化させるんだ。そのなれの果てを今日も、細工師ギルドで見てきたけど。もう、最低!!」
「え、お師匠さまも魔術師ですよね?」
滔々と、青年を捕まえて八つ当たりよろしく胸の内を吐き出していたスイは、思わぬ方向からの不意打ちにも動じなかった。
きっ! と眦をつよめ、鮮やかな紫の瞳に弟子を映す。
「一緒にしないで。私は“学術都市の精霊魔術師”。このプレートは、その証だよ」
襟元に手を差し入れ、銀の鎖を引き出す。そのままゆっくり外すと、カチャリ、とテーブルの上に置いた。
鎖はやわらかな金属光沢の銀。菱形の縁も同様。嵌め込まれたクリスタルは綺麗に研磨され、図案化された梟と不思議な文字が刻まれていた。
それまで腰の引けていた小豆色の髪の青年が、ぐっと上半身を乗り出させる。青い双眸をすがめて――文字を読み解いた。
「【この者、純粋なる学術の徒にして世のあらゆる柵から解き放たれし精霊の魔術師】……なるほど。これがあんたの素性か」
教えなかったことを暗に咎められ、スイは反射で顔をしかめた。チャリ、と手のひらに収まる程度の小さなプレートを指先でとり、拗ねた声音で言い返す。
「……あんまり、大っぴらにしたくないんだよ。私が野良の原石を直接、細工師に持ち込んだってこと。秘密にしてくれる? “失われし言語”をあっさり解読しちゃったお兄さん」
「秘密の代価……ね、考えとく。道具は予備があるから……まぁ、あんたの協力さえあれば何とかなるだろ」
――なんだろう。今、目の前で大人のやり取りが行われた気がする。
妙に置き去りにされた感覚に首を捻りつつ、黙って緑柱石を観察していたキリクは、ふと気付き、声をあげた。
「あの。すみません……その子、なんだかお師匠さまのプレート、気に入ったみたいですよ?」
え? と、大人二人が宙で睨み合っていた視線をほどき、同時に卓上の原石を見た。
原石自身は動けないのだが、代わりに雄弁と言っていいほどの光を操っている。
ほわほわと、夢見るような翠の明かりがシャボン玉のように立ち顕れては浮かび、機嫌よさそうにスイの手のなかに収められた銀縁プレートに寄り添って、消えてゆく。消えたあとには金色の燐光が名残惜しそうに散った。
「……」
「……」
「……」
――なんだろう。この子、可愛いかも……
概ね、三人の心の声は合致した。道具を粉砕された細工師までも。
「……お兄さん、訊ねてみるけど。この子にどんな姿を宛がおうとした?」
「ん? あぁ……核が平たくて、大きい。あんたのそのプレートより一回りほど。だから難儀してたんだ。指輪じゃでかすぎる。ペンダントトップでも。冠は元手がかかりすぎ。仕方ねぇからブローチにしようか、と……――なるほど。そういうことか」
「そうみたいだね」
ほわほわと、嬉しそうな翠の丸い明かりがぱぱぱっと数を増やし、やわらかな翠の光を投げ掛けながら、三人の周囲を元気よく飛び交った。
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