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3章 人の子の禍福
39 第一層の会見(後)
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「じゃあ改めて紹介するよ。みんな、こちらは炎の元素霊の大元となった《始まりの精霊》のひとり、サラマンディア。普段は火龍の姿が好きみたいだけど、たまにこうして人型をとって遊んでるみたい」
遠慮のない魔術師は、にこにこと一気に紹介した。
「で、こちらは……うん。それぞれの言葉で伝えた方がいいかな。うちの一番弟子と二番弟子。それに居候どのだよ」
え、僕から……? とは、賢明にもキリクは声に出さなかった。若干緊張の面持ちで、すっと一歩前に進み出ると、深く息を吸って……吐く。
閉じた瞼をぱち、とひらくと決然とした空色の瞳の色あいが冴えた。
目上の者への挨拶としては申し分のない立礼の様式。それを、キリクは淀みなく行う。
「お初にお目にかかります、世に唯一たる炎の司。僕はキリク。彫刻師だった養い親から知と技を引き継いだのち、こちらのスイに、魔術を学ぶため弟子入りしております。
このたびは、師について学術都市に住まうことになりました。若輩ではございますが精一杯つとめますので、どうぞ宜しくお願いします」
「「「……」」」
しん、と場が静まるほどの完璧さだった。
見ると、先ほどまで縦横無尽に飛び交っていた火の精までが、サラマンディアの後ろにおずおずと整列している。
奔放なかれららしくないはないが―――どうやら、品行方正な少年に気後れしたらしい。
スイは「ふっ……! ふふふふ!!」と盛大に吹き、軽快に笑い始めた。
きょとん、と目をみはるキリク。
にこにこするエメルダ。
セディオは(まぁ、いつもの流れだな)と、楽しそうな恋人に半ば呆れつつ目許を和ませている。
金の目を、ほぅ……と感心したようにみはるのは人型の炎の化身。
サラマンディアは一つ頷くと、口許に指をあてて腕を組んだ。すると、やたらと人間のように映る―――人外の美貌ではあるが。
「うぅむ。満点だなスイ、この者の養い親で彫刻師、か。……もしや?」
目配せを受けた黒髪が軽く頷く。
スイは、やさしい紫がかった眼差しで愛弟子を通した何かをじっ……と眺めたあと、ふ、と断ち切るように一つ瞬き、視線を偉丈夫へと戻した。
「そう。トーリスだよ。……覚えてる? あの活闥な男前。結局結婚はしないで晩年、しずかな人里でこの子を引き取ったんだ。
キリクを見てたら、あのひと、幸せだったんだなってわかるよね。いい子でしょう?」
「あぁ。そうだな……目に浮かぶ」
ふっと柔らかな笑みを浮かべたサラマンディアは、音もなくキリクに歩み寄る。
少年に警戒を与える間もなく、トン、と額に人差し指を当てた。
「小さきものに祝福を」と厳かな声で呟くと、ぽぅっ……と指先に温かな光が灯り、一瞬だけキリクの全身を包む。
「!! ……え、?? あ、ありがとうございます……?」
「構わんよ、トーリスの養い子。スイのもとで励むといい。
で、次はお前か? 翠の」
つい、と金の視線を巡らせた先には満面の笑みを湛えた美少女。(よーし、わたしの番……!)と言わんばかりの気合いである。
「はいはーーい! わたし、エメルダで」
「わかった。ほれ」
「?!……えっ。えぇーー?? 紹介は? ひどいっ!!」
「いらんわ。見ればわかる、賑やかな新入りめ」
既に、ふぅわりと駆け巡った光はエメルダの身の内へと吸い込まれている。
翠の少女はぶうぶう言いつつキリクの隣に戻った。突っつかれた箇所が痛かったのか、小さな両手で額を押さえ、「うぅぅ……」と呻いている。
「―――で、最後はお前だな。人の子の細工師」
「えぇ。セディオと言います、炎の司どの。あなたも、スイと俺との仲が面白くはないくちか?」
す、と胸元に手を当て、上半身をきれいに傾けたセディオの佇まいはうつくしく、まるで宮廷のようだった。……口から、ごくごく自然に溢された正直過ぎる言上を除けば。
予想済みだったのか、紅の偉丈夫は目を細め、うっすらと口の両端を上げた。
「いいや? 残念ながら人の子のいう『嫉妬』などは持ち合わせがない。スイを愛しく思うのは確かだが、それとこれとは別だ。……良いのではないか? 彼女は今、人なのだし」
そのまま、いやにゆっくり近づくと、セディオの胸ぐらを掴み上げ―――徐に、頬に唇を落とした。
「!!!」
「えっえぇぇぇぇーっ??!」
「なになに、わたしとの、この差は何なの!? ねぇサラマンディアさんったら!」
「……」
四者四様の反応が爆発する。火の精達に至っては、随分と主から距離をとってしまった。戦いている、といって過言ではない。
ちなみに、無言でにこにこと二人を見つめているのが黒髪の美女。驚愕に目をみひらき、硬直しているのが細工師の青年だ。
しずかに唇を離した偉丈夫は、にやりと悪戯な笑みを浮かべると、やたらいい声で堂々と宣った。
「ささやかだが、祝福を。……あと二人か、三人だな。がんばって了承を得るといい。言っておくが私が一番人の子には甘いぞ。あと、蛇足だが」
ぽんぽん、と固まる肩を叩いたついでのように。サラマンディアは、すっと青年に顔を寄せた。次いで、低く凄んだ声ですばやく要件を落とし込む。
「―――あれを、泣かすな。傷付けるな。一切の嘘も許さん。誠実であれ。人の世の禍に、これ以上触れさせるなよ……?」
ぞく、と。
背に言いようのない怖気が走った。
セディオは、ぐっと肚と青い目に力を込め、人外の貴き力そのものである化身に眼差しを返す。
真摯さと、あらん限りの覚悟を滲ませるように。
「―――わかった。誓う」
至近距離で、青と金の視線がかちり、と合わさる。
「よかろう」
「――はいはい。もう……いちいち大袈裟なんだよ、サラマンディアは。あと、なんで口付けたの」
ぐい、と容赦なく偉丈夫の腕を引く美女に、問われた人外の青年は嬉しげに目を細めた。
「スイが、怒るかと思ってな」
「変態」
ふふふ、と楽しげに笑うサラマンディアに、先ほどまでの威圧は欠片も見当たらない。
傍らで、一対の少年と少女が耐えきれず、ほう……と胸をなでおろし、安堵の息を洩らした。
遠慮のない魔術師は、にこにこと一気に紹介した。
「で、こちらは……うん。それぞれの言葉で伝えた方がいいかな。うちの一番弟子と二番弟子。それに居候どのだよ」
え、僕から……? とは、賢明にもキリクは声に出さなかった。若干緊張の面持ちで、すっと一歩前に進み出ると、深く息を吸って……吐く。
閉じた瞼をぱち、とひらくと決然とした空色の瞳の色あいが冴えた。
目上の者への挨拶としては申し分のない立礼の様式。それを、キリクは淀みなく行う。
「お初にお目にかかります、世に唯一たる炎の司。僕はキリク。彫刻師だった養い親から知と技を引き継いだのち、こちらのスイに、魔術を学ぶため弟子入りしております。
このたびは、師について学術都市に住まうことになりました。若輩ではございますが精一杯つとめますので、どうぞ宜しくお願いします」
「「「……」」」
しん、と場が静まるほどの完璧さだった。
見ると、先ほどまで縦横無尽に飛び交っていた火の精までが、サラマンディアの後ろにおずおずと整列している。
奔放なかれららしくないはないが―――どうやら、品行方正な少年に気後れしたらしい。
スイは「ふっ……! ふふふふ!!」と盛大に吹き、軽快に笑い始めた。
きょとん、と目をみはるキリク。
にこにこするエメルダ。
セディオは(まぁ、いつもの流れだな)と、楽しそうな恋人に半ば呆れつつ目許を和ませている。
金の目を、ほぅ……と感心したようにみはるのは人型の炎の化身。
サラマンディアは一つ頷くと、口許に指をあてて腕を組んだ。すると、やたらと人間のように映る―――人外の美貌ではあるが。
「うぅむ。満点だなスイ、この者の養い親で彫刻師、か。……もしや?」
目配せを受けた黒髪が軽く頷く。
スイは、やさしい紫がかった眼差しで愛弟子を通した何かをじっ……と眺めたあと、ふ、と断ち切るように一つ瞬き、視線を偉丈夫へと戻した。
「そう。トーリスだよ。……覚えてる? あの活闥な男前。結局結婚はしないで晩年、しずかな人里でこの子を引き取ったんだ。
キリクを見てたら、あのひと、幸せだったんだなってわかるよね。いい子でしょう?」
「あぁ。そうだな……目に浮かぶ」
ふっと柔らかな笑みを浮かべたサラマンディアは、音もなくキリクに歩み寄る。
少年に警戒を与える間もなく、トン、と額に人差し指を当てた。
「小さきものに祝福を」と厳かな声で呟くと、ぽぅっ……と指先に温かな光が灯り、一瞬だけキリクの全身を包む。
「!! ……え、?? あ、ありがとうございます……?」
「構わんよ、トーリスの養い子。スイのもとで励むといい。
で、次はお前か? 翠の」
つい、と金の視線を巡らせた先には満面の笑みを湛えた美少女。(よーし、わたしの番……!)と言わんばかりの気合いである。
「はいはーーい! わたし、エメルダで」
「わかった。ほれ」
「?!……えっ。えぇーー?? 紹介は? ひどいっ!!」
「いらんわ。見ればわかる、賑やかな新入りめ」
既に、ふぅわりと駆け巡った光はエメルダの身の内へと吸い込まれている。
翠の少女はぶうぶう言いつつキリクの隣に戻った。突っつかれた箇所が痛かったのか、小さな両手で額を押さえ、「うぅぅ……」と呻いている。
「―――で、最後はお前だな。人の子の細工師」
「えぇ。セディオと言います、炎の司どの。あなたも、スイと俺との仲が面白くはないくちか?」
す、と胸元に手を当て、上半身をきれいに傾けたセディオの佇まいはうつくしく、まるで宮廷のようだった。……口から、ごくごく自然に溢された正直過ぎる言上を除けば。
予想済みだったのか、紅の偉丈夫は目を細め、うっすらと口の両端を上げた。
「いいや? 残念ながら人の子のいう『嫉妬』などは持ち合わせがない。スイを愛しく思うのは確かだが、それとこれとは別だ。……良いのではないか? 彼女は今、人なのだし」
そのまま、いやにゆっくり近づくと、セディオの胸ぐらを掴み上げ―――徐に、頬に唇を落とした。
「!!!」
「えっえぇぇぇぇーっ??!」
「なになに、わたしとの、この差は何なの!? ねぇサラマンディアさんったら!」
「……」
四者四様の反応が爆発する。火の精達に至っては、随分と主から距離をとってしまった。戦いている、といって過言ではない。
ちなみに、無言でにこにこと二人を見つめているのが黒髪の美女。驚愕に目をみひらき、硬直しているのが細工師の青年だ。
しずかに唇を離した偉丈夫は、にやりと悪戯な笑みを浮かべると、やたらいい声で堂々と宣った。
「ささやかだが、祝福を。……あと二人か、三人だな。がんばって了承を得るといい。言っておくが私が一番人の子には甘いぞ。あと、蛇足だが」
ぽんぽん、と固まる肩を叩いたついでのように。サラマンディアは、すっと青年に顔を寄せた。次いで、低く凄んだ声ですばやく要件を落とし込む。
「―――あれを、泣かすな。傷付けるな。一切の嘘も許さん。誠実であれ。人の世の禍に、これ以上触れさせるなよ……?」
ぞく、と。
背に言いようのない怖気が走った。
セディオは、ぐっと肚と青い目に力を込め、人外の貴き力そのものである化身に眼差しを返す。
真摯さと、あらん限りの覚悟を滲ませるように。
「―――わかった。誓う」
至近距離で、青と金の視線がかちり、と合わさる。
「よかろう」
「――はいはい。もう……いちいち大袈裟なんだよ、サラマンディアは。あと、なんで口付けたの」
ぐい、と容赦なく偉丈夫の腕を引く美女に、問われた人外の青年は嬉しげに目を細めた。
「スイが、怒るかと思ってな」
「変態」
ふふふ、と楽しげに笑うサラマンディアに、先ほどまでの威圧は欠片も見当たらない。
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