定年退職後の生活は異世界でした

青山ねこまる

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異世界到着編

生活魔法ブームの続きと雄介の周辺探索

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 私が床掃除を終えてみんなのところへ戻ると、そこには項垂れた優希と、ハル○ホーガンよろしく、人差し指を高々と上げている雄介の姿があった。

 その指先にはライターの炎の様に小さな火が灯っている。

 「お!雄介も出来たか!」

 「おう!何となくコツがわかったら出来たよ!」

 雄介が嬉しそうに指先に灯った炎を見せてくれた。

 おー!と驚きつつ、項垂れている優希をみると、オカシイわ・・・オカシイわ・・・俯いたままブツブツ言っている。
 
 何やら不穏な空気になりつつあったので、声をかけようとしたところで、ルルちゃんが優希に話かけ元気付けていた。

 健気でやさいい子だなぁ。

 そんなルルちゃんに和みつつ、今日は遅いので続きは明日ということとなり、ヘコむ優希をルルちゃんが連れて部屋へ戻っていった。

 私は台所からペットボトルのお茶を持って部屋へ向かうついでに、

「雄介、悪いが明日からこの周辺の探索を始めて欲しいんだが・・頼めるか?」と真剣な表情で話しかけた。

 そんな私をみた雄介は、真面目な顔で「了解」と頷き、自身もペットボトルを持って部屋へ戻っていった。




 「それじゃ、行ってきます」

 雄介は迷彩戦闘服に自動小銃を肩にかけ、完全武装の状態で家の裏手にある森へ向かっていった。

 私は森へ向かっていく雄介の後ろ姿を見守りつつ、本当にこれで良かったのか、自問自答を繰り返していた。

 「大丈夫よ。私とあなたの息子でしょ?雄介を信じましょ・・・」

 優希は私の背中に手を置きながら、

 「それにね、仮に日本にいても、あの子が自衛官であり続ける限り、同じ様に送り出してたと思うわ・・・」

 「そうだな・・・」

 私は、ためた息を吐いて昨日の続きをするべく、池の方へ向かった。

 ルルは、雄介の後ろ姿と洋一の後ろ姿をキョロキョロしながら、優希に「お兄ちゃん大丈夫?」心配そうに話しかけた。

 優希はそんなルルをみて、「大丈夫大丈夫、雄介はとっても強いのよ!」と言いながら笑いかけ、
 「それにトランシーバーとタブレットも持っていってるから、何時でも顔も見ることが出来るし、声も聞こえるのよ。」と心配そうにしているルルを元気付けつつ家に戻っていった。




 雄介が家の裏手から森に入って、三十分が過ぎたころ「こちら雄介。聞こえますか?」とトランシーバーから声が聞こえてきた。

 「こちら優希よ聞こえるわ。どーぞ」
 
 優希がトランシーバーに話しかける。

 「感度良好、了解。こちらはリスみたいな動物を見かけたぐらいで、特に異常なし。」

  「電波状況を確認した感じだから、もう少し奥まで行ってみるよ。どーぞ」

 「了解したわ、気をつけてね。あ!ちょっと待って・・・」

 一度トークスイッチが切れた後、直ぐに声が聞こえてきた。

 「えっこ、これに話すの? お、お兄ちゃん?・・・」

 雄介は声を掛けようとしたが、相手側が送信状態のままなので、苦笑いする。

 「え?あ?お、お兄ちゃん?聞こえてる?えっと、その、早く帰ってきてね。・・・えっコレを離・・」

 ザッとトークスイッチから手が離れた事を確認し、雄介がルルへ話しかける。

 「ルルちゃん、ありがとうね。夕方までには帰るからね。それじゃ、通信終わり」

 通話を終えた雄介は、腰掛けていた木の根から腰を上げ、森の奥へ歩き出した。

 無線の交信から少し歩いたところで、雄介はフェアで感じた、あの膜を抜けるような感覚がして辺りを見渡した。

 (ここが結界の端だな・・・)

 膜を抜ける前と今では、森の雰囲気がガラッと変わっり、薄暗い嫌な感じがして全身に鳥肌が立つ。

 雄介は、膜の端辺りの木に缶スプレーで目印を書き、此処からが本番だと自分に言い聞かせ、銃を構え直して進み始めた。




 森に入って二時間が経った頃、前方からガサガサと草を搔き分ける音と何かの鳴き声らしきものが聞こえてきたので、咄嗟に横の藪へ入り息を殺して様子を窺う。

 しばらくすると、ギャアギャアと喚きながら緑色の肌をした醜い顔の餓鬼みたいな人型のモンスターが三人?三匹?歩いてくる。

 (如何もって感じだけど、アレはゴブリンか?)

 仮称ゴブリン達は、上半身はハダカで薄汚い腰蓑を巻いている程度の格好で、手には棍棒みたいな物を持っているのと、錆びた剣を持っている奴。そして、髪を鷲掴みにして子供らしき物を引きずっている一匹が通り過ぎていった。

 (子供!? )

 雄介は奥歯を力一杯噛み締めながら、ゆっくりと静かに自動小銃の安全装置を外し、そのままの姿勢で、そっと、通り過ぎていく姿を目で追いつつ子供の状態を確認する。

 引きずられている子供は、抵抗することも無く、ダランとした手足には力が入っている様子はない。死んでいるか、気を失っていると思われた。

 (このまま、奴等の巣まで尾けるか?しかし、大量に出てきたら? クソ!)

 雄介は一度目を瞑り、意を決した様に目を開け、そっと藪から出ようとしたその時、背後から囁くような男性の声で話しかけられた。
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