定年退職後の生活は異世界でした

青山ねこまる

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村づくり 初級編

山田雄介 西へ! 4

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 夕日が完全に沈み、辺りは闇に包まれる。

 普段は投光器の明かりの中で夕飯を食べている時間だが、今日は焚き火の揺れる薄暗い光の中で夕飯を食べる。

 雄介は魔物の徘徊する危険な森の中で不謹慎と思いつつも、友人達とのキャンプを思い出していた。

 あいつら、元気にやってるかなぁ。

  夕飯のカレーを食べ終えた雄介は、夕飯のゴミを片付けながら地球の友人達に思いを馳せて、一人センチメンタルに浸っていた。

 因みにその横では、ラルフ達四人はトランプで遊んでたりする。

 このセンチメンタルな気分は、決して後片付けジャンケンに負けたからじゃないと思う雄介であった。

 「雄介、後片付けは終わったか?終わったら、夜の見張りの順番を決めて、とっとと寝るぞ」

 「へーい」

 ゴミをビニール袋にまとめた雄介は、マシューの持っている魔法の鞄へゴミ袋を入れてもらう。

 「それじゃ見張りだが、一番手は雄介な、そんで二番目が俺で、最後がマシューだ。それで良いか?」

 雄介とマシューは頷く横で「私たちも見張りをやります!」とラナが手を挙げる。

 「今日は初日だから嬢ちゃん達は休みだ。移動に慣れてきたら手伝ってもらうが、当面は体力回復だ。しっかりと休んでくれや」

 ラルフからピシャリと言われてラナ達は「すみません」と頭をさげる。

 「ま、夜間の見張りなんか退屈なもんだからよ、気にしねぇで寝ちまいな」

 マシューが手をヒラヒラさせながら、気にすんなとラナ達を慰める。

 「そんじゃ、こんなにゆとりのあるキャンプなんて滅多に出来ねぇから、少し早いが寝ちまおうぜ、雄介、三時間経ったら起こしてくれ」

 ラルフはそう言うと、早々に自分達のテントへ潜っていった。

 「それじゃ私達もテントへ入ります。雄介さん、申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 「雄介兄さん、おやすみー」

 ラルフに続いてラナとエリサもテントへ潜っていき、マシューも「頼んだぜ」と一声掛けてラルフのいるテントへ潜っていった。

 雄介はみんなを見送り、一人焚き火の前に座りボーッと揺らめく炎を眺めていた。

 


 みんながテントに入って一時間経った頃、最初の内はテントの中で話し声が聞こえていたが、しばらくすると静かになり、辺りは焚き火の枝が爆ぜるパチパチという音だけにになった。

 静かだなぁ。

 普段はヘッドホンで音楽を聴いたり、携帯ゲームや読書をしたりと、音が溢れている生活をしているからか、シンと静まり返っている夜を感じるのが新鮮で、雄介はコーヒー片手にしんみりとしながら雰囲気を楽しんでいた。

 それにしても静か過ぎないか?

 焚き火の薄暗い光で数メートル先は漆黒の闇に覆われている中で、最初はノンビリとしていた雄介だが、あまりにも静か過ぎる事に段々と不安を覚え、自然と自分の手元に懐中電灯と銃を引き寄せる。

 ーーあの先に何かがいる。

 焚き火の先、結界の向こう側の暗闇に何かがいる感覚がして妙に気になるが、体を動かす事が出来ず懐中電灯を向ける事が出来ない。

 ただ不思議と恐怖は感じない。

 雄介はジッと暗闇を見詰め動けないでいると、イヤホンから聴こえるような感じで、低いダンディな声が話し掛けてきた。

 「そこの人間よ。何故、お前から創造神さまの匂いがする?」
 
 雄介は突然聴こえてきた声に驚いて立ち上がろうとするが、身体を動かす事が出来ずに軽くパニックになりかける。

 な!かっ金縛り!?

 「もう一度聞く、何故お前から創造神さまの匂いがするのだ?」

 耳の中に直接聴こえてくる声に、半ばパニックになりながらも、ニエル様の事を思い出す。

 「ほう!貴様、創造神さまにお会いした事があるのか」

 耳の中の声はテンションが上がったのか、嬉しそうに話しかけてきた。

 その声のお陰か、少し落ち着いてきた雄介は動かないながらも頷いてみせる。

 「創造神さまにお会いした事のある人間なんぞ初めて見たが、貴様は何者だ?」

 声の質問に、雄介は反射的に地球の事や両親、結界の村のことを思い浮かべると「ほほう!異世界とな!中々興味深いではないか!」と声の主は嬉しそうに話し出す。

 雄介は何とか声を出そうとして口を動かそうとするが、動かす事が出来ない。

 「ふむ、貴様の両親はこの先にいるのだな。これは一度挨拶に行ってみるか」

 耳の中の声は雄介の事など気にすることもなく、一人呟きながら「いずれまた会おう」と言って気配が消えた。




 ハッと雄介は顔をあげると、焚き火のパチパチという音と虫の音が聴こえる。

 雄介は慌てて腕時計をみると、見張りを始めて一時間ちょっとしか経っていない。

 さっきのあれは一体・・・。

 雄介は今起きた事が夢か現実か釈然としない中、見張りを続け、時間になったのでラルフを起こした。

 雄介に起こされたラルフは直ぐに目を覚まし「お疲れ、何かあったか?」と引き継ぎを促しながら、自分のコップにコーヒーを注ぎ始める。

 「いえ、特段何もないです」

 「そうか、お疲れさん。朝まで寝てて良いぜ」

 「はい。それじゃ、お休みなさい」

 「おう」

 雄介は何となく自分に起きたことをラルフには伝える気になれず、何も伝えないままテントの中へ入っていった。
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