27 / 100
第27回[高飛車]
しおりを挟む礼慈郎は裸身で飛英と抱きあいながら、鷹羽のことばを思いだした。飛英の正体を二重人格ではないかと疑い、いつか手に負えなくなると懸念していた。
「……なるほど。こういうことか、」
今まさに、礼慈郎は飛英の扱いを持て余していた。性的な事柄を自ら進んで行うようすは、普段の飛英とは思えないほど大胆で、挑発的である。
『どうしたのさ、軍人さん、もっと強く、あたしを抱きしめておくれよぅ。』
一人称や声の調子も変化しているため、礼慈郎は冷静に対処する必要があった。このまま、相手の思いどおり快楽に溺れるわけにはいかない。少しでも飛英の本性を暴く手がかりを探りながら、慎重に肌を合わせた。そんな礼慈郎に、飛英は物足りなさを主張してきたが、口唇をかさねるたび、満足げに笑みを浮かべた。細い首筋に舌を這わせ、骨ばった上半身を手のひらで愛撫すると、性器に指を絡めて擦りあげた。
『……んっ、……あははっ、軍人さんも、やっぱりそこがいいのかい?』
「どういう意味だ。」
『あたしの躰のいいところは、そこじゃないのさ。』
飛英の云うとおり、刺激をあたえても反応を示さない。礼慈郎の男根は硬くなっていたが、手のなかに包んだ飛英の性器は、やわらかいままだった。眉間にしわをよせる軍人を見た飛英は、『どこがいいのか、教えてあげようか?』と、優位にたって上体を起こした。
『ふうん、軍人さんのは、すっかり太くなって、まるで大砲みたいだ。ずいぶん立派な兵器だこと。……あたしの口で、抜いてあげようかぇ。』
云うなり、飛英は礼慈郎の男根へ両手を添え、顔を近づけた。
「よせ。」
正気を失った誘い受けの思うつぼにはさせない。礼慈郎は飛英の肩を摑んで引き戻すと、朱華色の乳頭へ吸いつき、しばらくあえがせた。胸の突起が性感帯のうちである点はまちがいないが、それでも飛英の下半身は生理現象を示さなかった。いつまでも肌を合わせていると、礼慈郎のほうで限界に達し、浴衣を着こんで厠へ向かった。未明の旅館は静まり返っており、なるべく音をたてずに興奮状態を処理して部屋まで戻ると、飛英は熟睡していた。その寝顔は子どものように穏やかで、礼慈郎は妙な気分にさせられた。痩せた躰に布団を掛けてやり、礼慈郎も眠りにつく。ふたりきりで過ごす最初の夜は、しらじらと明けていった。
織原家の人間には、先祖代々による淫呪の血が流れている。心身ともに健康な男を誘惑し、性的な事柄におよぶ人格は、まさに淫呪の血によって引き起こされていた。衝動的に男の肉体と快楽を求めてしまう欲望は、飛英の意識とはべつに、もうひとりの人間を形成している。
チュンチュンと、鳥の囀りが聞こえる。繁殖期にだす特殊な美しい啼き声は、飛英を眠りの世界から呼び醒ました。
「……礼慈郎さん、」
「起きたか。」
「お、おはようございます。……きのうは、どちらに、」
布団から起きあがろうとした飛英は、裸身であることに気づき、ふたたび肩までもぐりこんだ。先に起床した礼慈郎は、シャツとズボンに着がえをすませ、座椅子にもたれて茶をのんでいる。飛英は胸もとに違和感があり、全身が怠く感じた。身動きせずにじっとしていると、礼慈郎が声をかけてきた。
「おれに、云うことはあるか。」
「え?」
「云いたいことがあれば、こっちへ来い。話くらい聞いてやる。」
飛英は「何もありません」とこたえたが、浴衣を脱いだ覚えがないため、平静ではいられない状況だった。礼慈郎の目が離れた隙に身なりをととのえた。
✓つづく
1
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる