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第五章 亡霊は魔王の城に突入する。
第四十七話 どんな勇者パーティよ、これ!
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膜質の翼をはためかせて、巨大な竜が城壁の外、黒焦げの地面に降り立った。
巻き上がる風に、ミーシャの金色の髪がバサバサと音を立てて靡き、オーランジェは「きゃっ!」と声を上げると、慌てて捲れ上がりそうになるスカートを押さえる。
そして、ミーシャは一頻り風が収まるのを待って、ジェラール王の方へと振り返った。
「じゃあ、義兄様、行ってくる」
「うむ……だが、本当に二人で大丈夫なのか?」
ジェラール王が心配そうにそう言うと、オーランジェも身を乗り出す様にして口を開いた。
「そうです。叔母様! 古竜様なら、兵隊さんの数百人ぐらい、簡単に運んでくださりそうに見えますわ」
確かに、オーランジェの言う通りである。
何百人どころか、もう一桁大きくてもたぶん問題ないだろう。
古竜の背中は闘技場がすっぽりと収まるほどの広さがある。
だが、ミーシャは少し困った様な微笑みを浮かべて、首を振った。
「その話は、昨日散々したでしょ? 人数が多くなったら、その人たちを守らないといけなくなっちゃうもの」
「……でも」
尚も食い下がろうとするオーランジェに、ミーシャは苦笑しながら、その髪へと手を伸ばす。
「心配してくれてありがとう。私にはレイと、あなたのお母さまを愛した精霊王がついているんだもの。負けっこないわ。それに私の作戦は完璧だもん」
「完璧?」
「なによ、言いたいことあんなら言ってみなさいよ!」
思わず首を傾げたレイボーンを、ミーシャがギロリと睨みつけた。
ミーシャの立てた作戦は非常にシンプル。
レイがブレスで魔王城の周辺を薙ぎ払って、魔物を混乱させる。
その混乱に乗じて、ミーシャとレイボーンで魔王の城に突入。聖剣とレイの肉体を探し出して、魔王を倒すというもの。
誰がどう聞いても穴だらけである。
実際オーランジェも、作戦の内容を聞いた時から気になっていた事があった。
「でも、叔母様……聖剣や勇者様の肉体が魔王の城にある保証もありませんし、それ以前に失礼かもしれませんけど、レイボーン様が勇者様かどうかも……」
「そこは……まあ、賭けよね」
「ええぇ…………」
オーランジェが思わずげっそりした顔をすると、レイボーンがカタカタと歯を鳴らして笑った。
「大した完璧だな。ざっくりエルフ」
「うるさい、脳筋! 悔しかったら、城ごと魔王を燃やす以外の策を出してみなさいよ。そんなんじゃ魔王は死なないし、それ以前に自分の身体と聖剣燃やしてどうすんのよ!」
「まあ、まあ、お二人とも」
額を突き合わせて睨みあう二人の間に、オーランジェが呆れ顔で割り込む。
この二人は、仲が良いのか悪いのか、本当に良く分からない。
オーランジェの目には、なぜか、ミーシャの態度が一昨日よりも刺々しいように思えた。
「つ、つまり、叔母様はレイボーン様のことを信じてる。そういうことですね」
オーランジェのその問いかけに、ミーシャの表情がくるくると変わる。
「え、え、あ、うぅ、うう」
――いや、確かにそうなんだけど……でも今、それを認めるのは何だか悔しい。
そんな葛藤がミーシャの顔の上で、複雑な表情を形作った。
そして、
「ああ、もう! そうよ! 信じてる! だからっ!」
ミーシャはやけくそ気味に声を上げると、レイボーンの鼻先に指を突きつけた。
「アンタに賭けてんのよ!!」
「お、おう……」
たじたじと身を反らせてレイボーンが頷くと、ジェラール王はそんな二人を眺めて、楽しげに目を細める。
「くくっ……ははは、やはり姉妹というべきかな。照れ隠しの仕方もオリビアとそっくりだ」
「ちょ! 義兄様まで!」
すると、ジェラール王はレイボーンの方へと向き直り、静かに頭を下げた。
「勇者殿、義妹をどうか……守ってほしい。お願いする」
「当然だ」
「当然って……なんでそんな偉そうなのよ」
「偉そうに見えたか? だが今更言われるまでも無い事だ。私にはキミ以上に大切なものは無いのだから」
「なっ!?」
ミーシャは目を見開いたかと思うと、そのまま顔を背ける。
オーランジェは叔母の熱を帯びたその顔を覗き込むと、一国の姫らしからぬ表情になって「ニヒヒ」と笑った。
「じゃ、じゃあ、行ってくるね」
オーランジェの顔を手で押し退けて、ミーシャがどこかぎこちなく手を一振りすると、彼女とレイボーンの身体が風に巻かれて浮かび上がった。
そして、二人の姿が古竜の背中の方へと消えてしまうと、竜はゆっくりと羽を広げる。
「叔母様! 戻って来られた時には、またお母さまのお話を聞かせてくださいませ! 必ず! 必ずです!」
オーランジェのその声は、巻き上がる風の中に呑み込まれていく。
そして古竜は、晴れ渡る空へと一気に舞い上がった。
◇ ◇ ◇
「結局、また二人だけになっちゃったわね」
――なんだ、寂しいのか?
ミーシャの脳裏にレイの声が響いた。
レイボーンは既に牙に戻り、ミーシャは独り古竜の背中で、自らの腕を枕に寝転がっていた。
「ちょっとね……」
ミーシャがそう言って、遠い目をした途端、
「うはははははははっ!」
背後から、女のけたたましい笑い声が聞こえてくる。
「ちょっと聞いた? 『ちょっとね……』だって、クソ生意気なエルフがデレた、デレたわよ!」
「ええ、確かに聞きました! 寂しいって認めました!」
「にゃ! さびしんぼうにゃ!」
慌てて、身を起こすと、ミーシャは古竜の背びれの影から歩み出てくる三人の姿に、目を丸くする。
今更、言うまでもない。
そこにいたのは、アリア、ドナ、ニコの三人。
「ア、アンタ達、なんでこんなとこに居んのよっ!」
ミーシャが思わず声を上げると、アリアがぐいっと鼻先まで顔を近づけて、彼女を睨みつける。
「なんでじゃないわよ。抜け駆けなんて許さないわよ!」
「そもそも勇者様にお仕えするのが、私の使命ですし」
「ニコはコータといつでも一緒にゃ!」
ミーシャは、小さく肩を竦めて苦笑する。
「ほんと、物好きなんだから……」
「なに言ってんだか。物好きはお互い様、一旦アンタに華を持たせてから、寝取るのも悪くないかなぁとも思ったんだけどね。娘としか思われて無い様じゃ話になんないのよね、ぷぷぷ」
アリアが揶揄う様にそう言うと、ミーシャが声を荒げた。
「なっ!? レイ! アンタっ!」
――ま、まて、私は何にも言ってない。潔白だ。
「昨日、偶々壁面にぶら下がってたら聞こえちゃったのよねー」
「どんな偶々よ、それ!」
「何を言われると思ってたのかはぁー、しらないけどぉー、キョドっちゃって、可愛かったわねぇー。そうだ、私のことママって呼んでもいいのよぉ?」
アリアが更にねちっこく揶揄うと、ミーシャはプルプルと肩を震わせた。
「よし、まずこの魔物を討伐しよう!」
ミーシャが手を振り上げて、そこに風を纏わせると、ドナが慌てて後ろから羽交い絞めにする。
「放して! そいつ殺せない」
「まあ、まあ、耳長殿。落ち着いてください。いきなり仲間割れしてどうするんです。バルタザール様やライトナ様を初代とするなら、私たちが二代目の勇者パーティなんですから」
「勇者パーティって! 勇者が骸骨で、その仲間が悪霊付きの暴力神官と露出過多の飲んだくれ猫幼女とお色気過多の蜘蛛女? どんな勇者パーティよ、それ! これで魔王倒しちゃったら、将来、歴史家が頭抱えるわよ!」
じたばたと暴れるミーシャを前に、アリアが鼻で笑った。
「自分の事棚に上げて何言ってのよ。まな板エルフ」
その瞬間、レイは強制的に全ての音を遮断した。
故に以降、彼の背中の上でどんな修羅場が発生したか、彼の認知するところではない。
あーあー、聞こえない。聞こえない。
――あ、背びれが一枚吹っ飛んだ。
巻き上がる風に、ミーシャの金色の髪がバサバサと音を立てて靡き、オーランジェは「きゃっ!」と声を上げると、慌てて捲れ上がりそうになるスカートを押さえる。
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「じゃあ、義兄様、行ってくる」
「うむ……だが、本当に二人で大丈夫なのか?」
ジェラール王が心配そうにそう言うと、オーランジェも身を乗り出す様にして口を開いた。
「そうです。叔母様! 古竜様なら、兵隊さんの数百人ぐらい、簡単に運んでくださりそうに見えますわ」
確かに、オーランジェの言う通りである。
何百人どころか、もう一桁大きくてもたぶん問題ないだろう。
古竜の背中は闘技場がすっぽりと収まるほどの広さがある。
だが、ミーシャは少し困った様な微笑みを浮かべて、首を振った。
「その話は、昨日散々したでしょ? 人数が多くなったら、その人たちを守らないといけなくなっちゃうもの」
「……でも」
尚も食い下がろうとするオーランジェに、ミーシャは苦笑しながら、その髪へと手を伸ばす。
「心配してくれてありがとう。私にはレイと、あなたのお母さまを愛した精霊王がついているんだもの。負けっこないわ。それに私の作戦は完璧だもん」
「完璧?」
「なによ、言いたいことあんなら言ってみなさいよ!」
思わず首を傾げたレイボーンを、ミーシャがギロリと睨みつけた。
ミーシャの立てた作戦は非常にシンプル。
レイがブレスで魔王城の周辺を薙ぎ払って、魔物を混乱させる。
その混乱に乗じて、ミーシャとレイボーンで魔王の城に突入。聖剣とレイの肉体を探し出して、魔王を倒すというもの。
誰がどう聞いても穴だらけである。
実際オーランジェも、作戦の内容を聞いた時から気になっていた事があった。
「でも、叔母様……聖剣や勇者様の肉体が魔王の城にある保証もありませんし、それ以前に失礼かもしれませんけど、レイボーン様が勇者様かどうかも……」
「そこは……まあ、賭けよね」
「ええぇ…………」
オーランジェが思わずげっそりした顔をすると、レイボーンがカタカタと歯を鳴らして笑った。
「大した完璧だな。ざっくりエルフ」
「うるさい、脳筋! 悔しかったら、城ごと魔王を燃やす以外の策を出してみなさいよ。そんなんじゃ魔王は死なないし、それ以前に自分の身体と聖剣燃やしてどうすんのよ!」
「まあ、まあ、お二人とも」
額を突き合わせて睨みあう二人の間に、オーランジェが呆れ顔で割り込む。
この二人は、仲が良いのか悪いのか、本当に良く分からない。
オーランジェの目には、なぜか、ミーシャの態度が一昨日よりも刺々しいように思えた。
「つ、つまり、叔母様はレイボーン様のことを信じてる。そういうことですね」
オーランジェのその問いかけに、ミーシャの表情がくるくると変わる。
「え、え、あ、うぅ、うう」
――いや、確かにそうなんだけど……でも今、それを認めるのは何だか悔しい。
そんな葛藤がミーシャの顔の上で、複雑な表情を形作った。
そして、
「ああ、もう! そうよ! 信じてる! だからっ!」
ミーシャはやけくそ気味に声を上げると、レイボーンの鼻先に指を突きつけた。
「アンタに賭けてんのよ!!」
「お、おう……」
たじたじと身を反らせてレイボーンが頷くと、ジェラール王はそんな二人を眺めて、楽しげに目を細める。
「くくっ……ははは、やはり姉妹というべきかな。照れ隠しの仕方もオリビアとそっくりだ」
「ちょ! 義兄様まで!」
すると、ジェラール王はレイボーンの方へと向き直り、静かに頭を下げた。
「勇者殿、義妹をどうか……守ってほしい。お願いする」
「当然だ」
「当然って……なんでそんな偉そうなのよ」
「偉そうに見えたか? だが今更言われるまでも無い事だ。私にはキミ以上に大切なものは無いのだから」
「なっ!?」
ミーシャは目を見開いたかと思うと、そのまま顔を背ける。
オーランジェは叔母の熱を帯びたその顔を覗き込むと、一国の姫らしからぬ表情になって「ニヒヒ」と笑った。
「じゃ、じゃあ、行ってくるね」
オーランジェの顔を手で押し退けて、ミーシャがどこかぎこちなく手を一振りすると、彼女とレイボーンの身体が風に巻かれて浮かび上がった。
そして、二人の姿が古竜の背中の方へと消えてしまうと、竜はゆっくりと羽を広げる。
「叔母様! 戻って来られた時には、またお母さまのお話を聞かせてくださいませ! 必ず! 必ずです!」
オーランジェのその声は、巻き上がる風の中に呑み込まれていく。
そして古竜は、晴れ渡る空へと一気に舞い上がった。
◇ ◇ ◇
「結局、また二人だけになっちゃったわね」
――なんだ、寂しいのか?
ミーシャの脳裏にレイの声が響いた。
レイボーンは既に牙に戻り、ミーシャは独り古竜の背中で、自らの腕を枕に寝転がっていた。
「ちょっとね……」
ミーシャがそう言って、遠い目をした途端、
「うはははははははっ!」
背後から、女のけたたましい笑い声が聞こえてくる。
「ちょっと聞いた? 『ちょっとね……』だって、クソ生意気なエルフがデレた、デレたわよ!」
「ええ、確かに聞きました! 寂しいって認めました!」
「にゃ! さびしんぼうにゃ!」
慌てて、身を起こすと、ミーシャは古竜の背びれの影から歩み出てくる三人の姿に、目を丸くする。
今更、言うまでもない。
そこにいたのは、アリア、ドナ、ニコの三人。
「ア、アンタ達、なんでこんなとこに居んのよっ!」
ミーシャが思わず声を上げると、アリアがぐいっと鼻先まで顔を近づけて、彼女を睨みつける。
「なんでじゃないわよ。抜け駆けなんて許さないわよ!」
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「昨日、偶々壁面にぶら下がってたら聞こえちゃったのよねー」
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「何を言われると思ってたのかはぁー、しらないけどぉー、キョドっちゃって、可愛かったわねぇー。そうだ、私のことママって呼んでもいいのよぉ?」
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「よし、まずこの魔物を討伐しよう!」
ミーシャが手を振り上げて、そこに風を纏わせると、ドナが慌てて後ろから羽交い絞めにする。
「放して! そいつ殺せない」
「まあ、まあ、耳長殿。落ち着いてください。いきなり仲間割れしてどうするんです。バルタザール様やライトナ様を初代とするなら、私たちが二代目の勇者パーティなんですから」
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「自分の事棚に上げて何言ってのよ。まな板エルフ」
その瞬間、レイは強制的に全ての音を遮断した。
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