12 / 143
第一章 亡霊、大地に立つ
第四話 そういう場合は、だいたい詐欺です。#1
しおりを挟む
残照が、突き出した岩の影を地に描く夕暮れ刻。
渡り鳥のシルエットがVの字を描く赤い空を見上げ、
「今日はここまでね。暗くなる前に野宿の準備しちゃおっか」
と、ミーシャはどさりと、大きな背嚢を地面に下ろした。
『レイの身体は、まだ何処かで生きている』
そう告げて、彼の胸中を散々に波立たせたのは、二時間前のこと。
以降、ここに至るまで、二人の間に会話は無い。
だが、ミーシャには、レイの胸中に渦まく戸惑いは筒抜け。
へー、そう思うんだ。とか、
いやいや、それはないだろう。とか、
バカじゃないの。
と、言葉には出さずに、感心したり、呆れたりしていた。
ミーシャが野営地に選んだのは、山道を登る途中に見つけた棚状になった平地。
レイはぐるりと周囲を見回して、眉を顰めた。
野宿であるからには、屋根がある場所など望むべくもないし、岩山を登っているのだから、下が頗る寝にくそうなゴツゴツとした岩である事も仕方がない。
レイにも、それに文句をつけるつもりはない。
斜面でない分マシだとさえ思う。
だが、
――こんな所で、本当に大丈夫なのか?
あえてそう口にしたのは、そこが身を隠す物が何もない、余りにも拓けた場所だったからだ。
たとえ記憶は無くとも、こんな拓けた場所が、野宿に適さないことぐらいは、誰にだって分かる。
レイのその問いかけは、決しておかしなものではない。
ところが、ミーシャはひらひらと手を振ると、小馬鹿にするように鼻で笑った。
「なぁに? 心配性のゴブリンとか面白過ぎるんだけど」
――まだ、魔物の生息圏を抜けた訳では無いのだろう?
「心配しなくても大丈夫。誰かが近づいてきたら風精霊たちが教えてくれるから」
――風精霊?
「うん、仲良しなのよ、私達。ここまで一度も怪物に出会わなかったでしょ? ずっと風精霊たちが道案内してくれてたからよ。本当はあの森にウヨウヨいたんだから、ゴブリン」
――そうなのか? しかし……だとすれば、おかしくないか? 私と出会った時、キミはゴブリンに追いかけられていたぞ。
「あ、あの時は、ちょっと特殊な事情があったのよ!」
都合の悪い事実を突きつけられて、ミーシャはあたふたと早口で捲し立てる。
「風精霊たちに道を聞いてたら、急に土精霊たちが割り込んで来たんだもん。絶対こっちへ行くべきだって……。そんなこと今まで無かったから、なんかあるんだろうなと思って行ってみたら、ゴブリン達にばったり出くわしちゃって……慌てて洞窟に逃げ込んだら行き止まりで……」
――そして、私と出会った。
「そういうこと」
そう言って、ミーシャは上目遣いに微笑む。
だが、そんなミーシャの態度とは裏腹に、レイは急に真剣な表情になって、彼女の鼻先に指を突きつけた。
渡り鳥のシルエットがVの字を描く赤い空を見上げ、
「今日はここまでね。暗くなる前に野宿の準備しちゃおっか」
と、ミーシャはどさりと、大きな背嚢を地面に下ろした。
『レイの身体は、まだ何処かで生きている』
そう告げて、彼の胸中を散々に波立たせたのは、二時間前のこと。
以降、ここに至るまで、二人の間に会話は無い。
だが、ミーシャには、レイの胸中に渦まく戸惑いは筒抜け。
へー、そう思うんだ。とか、
いやいや、それはないだろう。とか、
バカじゃないの。
と、言葉には出さずに、感心したり、呆れたりしていた。
ミーシャが野営地に選んだのは、山道を登る途中に見つけた棚状になった平地。
レイはぐるりと周囲を見回して、眉を顰めた。
野宿であるからには、屋根がある場所など望むべくもないし、岩山を登っているのだから、下が頗る寝にくそうなゴツゴツとした岩である事も仕方がない。
レイにも、それに文句をつけるつもりはない。
斜面でない分マシだとさえ思う。
だが、
――こんな所で、本当に大丈夫なのか?
あえてそう口にしたのは、そこが身を隠す物が何もない、余りにも拓けた場所だったからだ。
たとえ記憶は無くとも、こんな拓けた場所が、野宿に適さないことぐらいは、誰にだって分かる。
レイのその問いかけは、決しておかしなものではない。
ところが、ミーシャはひらひらと手を振ると、小馬鹿にするように鼻で笑った。
「なぁに? 心配性のゴブリンとか面白過ぎるんだけど」
――まだ、魔物の生息圏を抜けた訳では無いのだろう?
「心配しなくても大丈夫。誰かが近づいてきたら風精霊たちが教えてくれるから」
――風精霊?
「うん、仲良しなのよ、私達。ここまで一度も怪物に出会わなかったでしょ? ずっと風精霊たちが道案内してくれてたからよ。本当はあの森にウヨウヨいたんだから、ゴブリン」
――そうなのか? しかし……だとすれば、おかしくないか? 私と出会った時、キミはゴブリンに追いかけられていたぞ。
「あ、あの時は、ちょっと特殊な事情があったのよ!」
都合の悪い事実を突きつけられて、ミーシャはあたふたと早口で捲し立てる。
「風精霊たちに道を聞いてたら、急に土精霊たちが割り込んで来たんだもん。絶対こっちへ行くべきだって……。そんなこと今まで無かったから、なんかあるんだろうなと思って行ってみたら、ゴブリン達にばったり出くわしちゃって……慌てて洞窟に逃げ込んだら行き止まりで……」
――そして、私と出会った。
「そういうこと」
そう言って、ミーシャは上目遣いに微笑む。
だが、そんなミーシャの態度とは裏腹に、レイは急に真剣な表情になって、彼女の鼻先に指を突きつけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
166
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる