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第一章 亡霊、大地に立つ

第六話 一点突破 #3

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 ――今だ! 私を追い越して、前へ飛び出せ!

 事前に打ち合わせがあった訳ではないが、レイの考えている事は手に取る様に分かる。

 文字通りの以心伝心。

「うなあああっ!」

 秀麗な顔には似つかわしくない掛け声と共に、ミーシャはレイの脇を擦り抜けて、必死の形相でゴブリンの包囲網の向こう側へと飛び出した。

 着地と共に、足元で派手に水が跳ねる。

 ミーシャは前のめりに転がりそうになりながらも、なんとかこらえて、そのまま走り始めた。

 ――足を止めるな! 止まったらやられるぞ!

「分かってるわよおおお!」

 背後から、ゴブリン達の怒りに満ちた咆哮ほうこうが響いてくる。

 レイはミーシャの後ろを走りながら、追い縋ってくるゴブリン達を振り払う。

 だが、向かってくるレイに恐れをなしていたゴブリン達も、追うという形になれば俄然がぜん勢いづく。

 ミーシャがちらりと背後を盗み見れば、怒涛のような勢いで迫ってくる大量のゴブリンが目に入って、喉の奥から「ひぃぃ」と情けない声が漏れた。

 このままじゃ追いつかれるという焦りの中で、ミーシャは親しい友人たちに助けを求める。

土精霊ノームのみんなっ、お願い!」

 その瞬間、レイの背後、ゴブリン達の足元でわずかに岩が盛り上がる。

 それは、ほんのわずかな段差の様なものではあったが、ゴブリン達は次々に足を取られて転倒し、更には倒れたゴブリンに巻き込まれて、後続のゴブリンが転倒。斜面を滑落していく。

 土精霊ノーム達の余りにも地味な助力に、レイは気が付かなかったのだろう。何が起こったのかと、怪訝そうに眉の無い眉間に皺を寄せた。

 本来、エルフたちは精霊と契約し、それを使役して、魔法を使う。

 上位精霊と契約を済ませたエルフならば、大規模な攻撃魔法だって使えるのだが、無論ミーシャはそんな段階にはない。それどころか、下級精霊とすら契約できていない。

 今のも、ただミーシャを好んでくれる、友人たる精霊たちの好意にすがっただけだ。
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