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第一章 亡霊、大地に立つ

第七話 赤鶏冠(レッドクレスト) #1

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 ――どけっ! 道を開けろ!

 その叫びは奇声となって、牙の間から飛び出した。

「ぐぎゃ! ぐぎゃぎゃぎゃ!」

 レイはミーシャの悲鳴が聞こえた方角、そちらをにらみつけて、ゴブリン達の只中へと一気に突っ込む。

 ナタを振り上げ、目の前のゴブリンを袈裟斬けさぎり。

 緑の返り血をものともせずに、よろめくゴブリンを蹴り倒して、そのままその背後、次の一匹へと襲い掛かる。

 おびえて尻餅をつくゴブリン。

 だが容赦はしない。

 ナタを二つ揃えて頭を叩き割ると、そのまま両手を振りかざし、左右から殴り掛かってくるゴブリンの棍棒をナタで受け止める。

 ずしりと肩にし掛かってくる衝撃。

「ぐぎゃぎゃぎゃ!」

 レイは身体をひねってそれを受け流すと、気合の叫びとともに回転して、前のめりになった左右のゴブリンの首を一息にねた。

 一瞬にして四体ものゴブリンを物言わぬ肉塊へと変えて、レイは一気に囲みを破り、そのまま悲鳴が聞こえた方向へと駆け出す。

 あまりのことに、ゴブリン達は呆気に取られた様な表情を浮かべたまま、ただその背中を見送った。

 雷鳴が轟く。

 曇天の空、顔を叩く雨、焦燥しょうそうに胸を焼きながら、レイは必死の形相で走る。

 意識はずっと前へと進んでいるのに、体が追いついてこない。

 遅い。ゴブリンという生き物の致命的な足の遅さに、ギリギリと奥歯を鳴らす。

「ぐぎゃぎゃぎゃあああああああ!」

 雄叫びを上げながら、レイは意識の奥底、鍵のかかったままの記憶、その扉へと必死に爪を立てる。

 ――私はもっと早く走っていたはずだ。

 そんな記憶の欠片を必死に拾い集め、レイは背筋を伸ばし、足の裏へと意識を集中させる。

 土踏まずに気を送り込み、身体を重力にかれるままに倒す。

 その流れに逆らわずに足を踏み出し、地から足が離れるその瞬間に気を放出する。

 途端に水しぶきを上げて、足の裏で弾ける膨大なエネルギー。

 爆発的な推進力を得て、身体が一気に加速する。

 雨粒が、周囲の風景が、凄まじい勢いで後ろへと飛び去って行く。

 それは『歩法ウォーク』と呼ばれる剣士の戦闘技術の一つ。

 神速の踏み込みを実現する、高速移動術であった。

 だが、ほんの数秒足らずで、レイの体中の関節という関節が悲鳴を上げ始めた。

 骨がきしむ音がする。

 針を差し込まれた様な鋭い痛みが走る。

 ゴブリンという生き物の脆弱ぜいじゃくさに、レイは思わず舌打ちする。

 ――耐えろ!

 顔を歪めながらも、一瞬にしてゴブリンの群れは後方に置き去り。

 豪雨の半透明の膜を切り裂きながら、レイはすぐに、左右を切り立った崖に挟まれた渓谷のような場所へと到達した。
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