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第一章 亡霊、大地に立つ

第九話 大切断 #1

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 風がうなる。

 真っ暗な曇天どんてんの空を背景に、鎌首を持ち上げた巨大な蚯蚓ミミズが渦を巻く。

 鋭い牙のびっしりと映えたデスワームの口が、すぐ近くまで迫っている。

 だが、レイのいる位置が近すぎて、デスワームがいくら身体を曲げようとも彼には届かない。

 レイの今いる場所はデスワームの先端から、およそ十メートル前後の位置。

 地上に出ているデスワームの長さは三十メートル程だが、土の中に隠れている部分も合わせれば、恐らくその倍はあるだろう。

 そう思えば、

 ――このあたりが首みたいなものだ。

 と、恐ろしく大雑把おおざっぱな事を考えながら、レイは突き刺さったままのナタつかんで、気を送り込む。

 同時に、足下へも気を送り込んで、

「ぎゃああああああああ!」

 絶叫とともに、『歩法ウォーク』を発動させた。

 それは、まさに一瞬の出来事。

 デスワームの、直径にして1メートルほどの身体。

 その体表を、ナタを引きる様にして、一匹のゴブリンが恐ろしい速さで駆け抜けた。

 重力のくびきを逃れるほどの超高速。

 まるで平地を走るかのように、宙空のデスワームの身体をぐるりと一周したのだ。

 途端に、あれほど体を跳ねさせていたデスワームが、ピタリとその動きを止める。

 デスワームの、巨体を引きる音が消え、尚も降り注ぐ雨が、その体表を滑り落ちる音が、やけに大きく響いた。

 余りにも唐突な沈黙の中、

 レイはナタを引き抜くと、トンッ! と一つ足を踏み鳴らした。

 その途端、

 ズルリ。

 鎌首をもたげたままのデスワームの体。

 それが、いきなりた。

 先端からおよそ十メートルの場所を境に、二つに分かたれるデスワームの体。

 レイを上に載せたまま、『先端から十メートル』が落下し始めたのだ。

 見上げれば、鎌首をもたげたまま赤黒い肉を覗かせる十メートルから後ろの断面。

 次の瞬間にはそこから染み出した黄色い体液が、滝の様な勢いで噴き出し、落ちて行くレイの上へと降り注ぐ。

 ズシン! と重々しい音を立てて、デスワームの先端十メートルが地面を打って、そこにわだかまっていた泥混じりの雨水が派手に飛び散った。
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