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第二章 亡霊、勇者のフリをする。
第十五話 バックドロップと男女の関係 #2
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ミーシャは目に力を込めて頷くと、ソフィーの方へと向きった。
「もうすぐ悪霊女の動きが止まるわ! アンタ! その隙になんとかしなさい!」
「なんじゃと?」
ソフィーの緊張の表情に戸惑いの色が混じったその瞬間、ミーシャの脳裏にレイの声が響いた。
――這い出よ! 闇人形!
下から上へと、まさに何かを引っ張り上げるかのような挙動。
途端に、レイの足下でボコボコと音を立てて、影が泡立ちはじめた。
だが、ドナに足を止める気配はない。
次第に気泡は大きくなり、遂には、そこから次々と人の形をした黒い靄が這い出しはじめる。
その人の形をした靄は、レイの影から音も無く抜け出すと、身もだえながら、ドナの方へと這い寄っていく。
「うわぁ……」
絵画として描けば『亡者の行進』とでも表題がつくであろう壮絶な光景に、ミーシャが眉をハの字に下げ、寒さを堪えるように自分の身を抱く。
迫りくる黒い人型を前に、それまで揺らめいていたドナがピタリと動きをとめた。
そして、再び空を仰ぎ見ると、
「きゃあああああああああああああああ!」
身の毛もよだつような叫び声を上げながら、狂った様に黒い人型に向かって、大槌を振り回し始めた。
だが、大槌は、ただ空を斬るのみで、黒い影は揺らめきながら、次々とドナへと纏わりついていく。
「ど、どうなるのじゃ……」
ソフィーが思わずゴクリと喉を鳴らす。
ところが、次の瞬間、
唐突に、余りにも唐突に、黒い人型は消え去ってしまった。
それも一瞬にして、跡形も無く。
「「は?」」
思わず、ポカンと口を開けたまま固まるソフィーとミーシャ。
「お、お、お、お主! なんじゃアレは! こけ脅しではないか!」
思わず、ソフィーがレイの方へと声を荒げる。
だが、そこには既にレイの姿は無い。
ソフィーが慌てて左右を見回したその瞬間、彼女の視界の隅で、突然、ドナの身体が宙へと浮き上がった。
見れば、いつの間にかドナの背後に周ったレイが腰へとしがみついて彼女の身体を持ち上げている。
大袈裟なあの人型の靄は、只の囮。
「きゃあああああああああああああ!」
絶叫を上げながら、必死にもがくドナ。
だが、レイは彼女の腰をがっしりと捕まえて離さない。
そして、
――歯を食いしばれ。
次の瞬間、レイは身体を大きく反らせて、ドナの身体ごと勢いよく後ろへと倒れ込んだ。
「ぎゃっ!?」
ドナの口から短い悲鳴が零れ落ちた次の瞬間、ガンッ! と激しい衝突音が響き渡る。
「お、おい! お主!」
「レイ!」
ソフィーとミーシャが、思わず目を丸くする。
彼女達の視線の先、そこには身体を大きく仰け反らせ、ブリッジするゴブリンが、ドナの頭を床に打ちつけたままの態勢で固まっていた。
一瞬の静寂。
呆気に取られていた二人が、思わず目を見合わせた途端、
「ぎゃああああああああ!」
再び、ドナが叫び声をあげてもがき始め、レイは必死の形相で、腰を掴んだまま力を込める。
――ミーシャ!
「あ、アンタ! は、早く! なんとかしなさいよ!」
「何とか、何とか、うるさいわい!」
ハタと我に返ったソフィーは、つんのめりながら慌ててドナの方へと駆け寄る。
そして、暴れる彼女の額に手を翳して、高らかに声を上げた。
「主よ! 応え給え! 悪しき者、穢れし者を絡め給え!――セイクリッド・シール!」
彼女の手から光が溢れ出し、それに触れた途端、ドナの身体がビクン! と大きく跳ねる。
やがて、弛緩するように、ドナの両腕が床へと垂れ落ちて、遂には身じろぎするのをやめた。
「……死んだの?」
背後から歩み寄って来たミーシャが、肩越しにドナの顔を覗き込むと、ソフィーは小さく首を振った。
「死んではおらん。悪霊を抑え込んだだけじゃ。じゃが、この封印は一時的なものでしかないからの。すぐに礼拝所に運び込んで、ちゃんとした儀式をやりなおさねばならん」
「ふーん……そうなんだ」
ミーシャは感心なさげに唇をとがらせると、ドナの下敷きになっているレイの方へと視線を向ける。
「ご苦労様」
彼女がそう言って微笑むと、レイは大きく溜め息を吐いてこう呟いた。
――……約束する。二度と女の髪は切らない。
「もうすぐ悪霊女の動きが止まるわ! アンタ! その隙になんとかしなさい!」
「なんじゃと?」
ソフィーの緊張の表情に戸惑いの色が混じったその瞬間、ミーシャの脳裏にレイの声が響いた。
――這い出よ! 闇人形!
下から上へと、まさに何かを引っ張り上げるかのような挙動。
途端に、レイの足下でボコボコと音を立てて、影が泡立ちはじめた。
だが、ドナに足を止める気配はない。
次第に気泡は大きくなり、遂には、そこから次々と人の形をした黒い靄が這い出しはじめる。
その人の形をした靄は、レイの影から音も無く抜け出すと、身もだえながら、ドナの方へと這い寄っていく。
「うわぁ……」
絵画として描けば『亡者の行進』とでも表題がつくであろう壮絶な光景に、ミーシャが眉をハの字に下げ、寒さを堪えるように自分の身を抱く。
迫りくる黒い人型を前に、それまで揺らめいていたドナがピタリと動きをとめた。
そして、再び空を仰ぎ見ると、
「きゃあああああああああああああああ!」
身の毛もよだつような叫び声を上げながら、狂った様に黒い人型に向かって、大槌を振り回し始めた。
だが、大槌は、ただ空を斬るのみで、黒い影は揺らめきながら、次々とドナへと纏わりついていく。
「ど、どうなるのじゃ……」
ソフィーが思わずゴクリと喉を鳴らす。
ところが、次の瞬間、
唐突に、余りにも唐突に、黒い人型は消え去ってしまった。
それも一瞬にして、跡形も無く。
「「は?」」
思わず、ポカンと口を開けたまま固まるソフィーとミーシャ。
「お、お、お、お主! なんじゃアレは! こけ脅しではないか!」
思わず、ソフィーがレイの方へと声を荒げる。
だが、そこには既にレイの姿は無い。
ソフィーが慌てて左右を見回したその瞬間、彼女の視界の隅で、突然、ドナの身体が宙へと浮き上がった。
見れば、いつの間にかドナの背後に周ったレイが腰へとしがみついて彼女の身体を持ち上げている。
大袈裟なあの人型の靄は、只の囮。
「きゃあああああああああああああ!」
絶叫を上げながら、必死にもがくドナ。
だが、レイは彼女の腰をがっしりと捕まえて離さない。
そして、
――歯を食いしばれ。
次の瞬間、レイは身体を大きく反らせて、ドナの身体ごと勢いよく後ろへと倒れ込んだ。
「ぎゃっ!?」
ドナの口から短い悲鳴が零れ落ちた次の瞬間、ガンッ! と激しい衝突音が響き渡る。
「お、おい! お主!」
「レイ!」
ソフィーとミーシャが、思わず目を丸くする。
彼女達の視線の先、そこには身体を大きく仰け反らせ、ブリッジするゴブリンが、ドナの頭を床に打ちつけたままの態勢で固まっていた。
一瞬の静寂。
呆気に取られていた二人が、思わず目を見合わせた途端、
「ぎゃああああああああ!」
再び、ドナが叫び声をあげてもがき始め、レイは必死の形相で、腰を掴んだまま力を込める。
――ミーシャ!
「あ、アンタ! は、早く! なんとかしなさいよ!」
「何とか、何とか、うるさいわい!」
ハタと我に返ったソフィーは、つんのめりながら慌ててドナの方へと駆け寄る。
そして、暴れる彼女の額に手を翳して、高らかに声を上げた。
「主よ! 応え給え! 悪しき者、穢れし者を絡め給え!――セイクリッド・シール!」
彼女の手から光が溢れ出し、それに触れた途端、ドナの身体がビクン! と大きく跳ねる。
やがて、弛緩するように、ドナの両腕が床へと垂れ落ちて、遂には身じろぎするのをやめた。
「……死んだの?」
背後から歩み寄って来たミーシャが、肩越しにドナの顔を覗き込むと、ソフィーは小さく首を振った。
「死んではおらん。悪霊を抑え込んだだけじゃ。じゃが、この封印は一時的なものでしかないからの。すぐに礼拝所に運び込んで、ちゃんとした儀式をやりなおさねばならん」
「ふーん……そうなんだ」
ミーシャは感心なさげに唇をとがらせると、ドナの下敷きになっているレイの方へと視線を向ける。
「ご苦労様」
彼女がそう言って微笑むと、レイは大きく溜め息を吐いてこう呟いた。
――……約束する。二度と女の髪は切らない。
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