49 / 143
第二章 亡霊、勇者のフリをする。
第十六話 女は灰になるまで乙女 #1
しおりを挟む
――もうあと何日か、ここに居ても良いんじゃないか?
レイはベッドの方を振り返り、名残惜しげにそう主張した。
ゴディンのはからいで、昨晩の夕食は相当に豪華なものだった。
無論、それだけでは無い。
大きなお風呂に、一人に一つのベッド。
ミーシャと別々に眠れば、首を絞められる恐れも無い。
「ダメだってば! のんびりしてるような時間は無いのっ!」
そう言いながらミーシャは、大きな背嚢を背負って、廊下へと続く扉を押し開く。
――やれやれ。
レイは首を竦めて追いかけようとしたが、なぜかミーシャはドアノブを握ったまま、その場に立ち止まった。
――どうした?
レイがミーシャの脇から顔を覗かせると、部屋の前の廊下に、おかしなものが居座っているのが見えた。
「えーと…………ねぇ、アンタ。そんなところで何やってんの?」
ミーシャが戸惑いながら声を掛けると、廊下に蹲っているそれは、額を床に擦り付けるようにして、声を潤ませた。。
「勇者様! 昨日は! 誠に申し訳ございませんでした! 身の程知らずにも勇者様に刃向おうとは、ワタクシが愚かでございました!」
それは白い修道衣姿の女性。
昨日、レイと死闘を演じたトアナベの亡霊――ドナ・バロットであった。
「ちょ、ちょっと、アンタ、大袈裟! 大袈裟すぎるわよ! 大丈夫、私たちはなんとも思ってないから。ね、レイ」
――ああ。
ミーシャがあたふたしながらそう声を掛けると、ドナは静かに顔を上げた。
肩の辺りで切り揃えられた髪に、やけに大きな薔薇の髪飾り。
昨日仰け反って奇声を上げていたのと同一人物とは思えぬ、おっとりとした顔立ち。たれ目がちな優しい瞳が潤んで、微かに揺れている。
彼女は、じっとミーシャを見つめると、申し訳なさげに小首を傾げた。
「耳長殿、申し訳ありませんが、ワタクシは別にアナタに謝っている訳ではございません。そこをお退きいただけると、ありがたいのですけれど?」
ミーシャの動きがピタッと止まる。
そして、ドナの発言を反芻する一瞬の間を置いて、彼女は声を荒げた。
「な!? ちょっと! なんなのよ、その言い草! 私だってアンタに殺されかけたのよ!」
「まあ、それは不幸な事故ということで。それはともかく、退いていただけませんか?」
「な、な、な……!」
思わず拳を震わせるミーシャ。
このまま放っておけば、碌なことにならないのは、火を見るよりも明らかである。
溜め息混じりに、レイがミーシャの脇を擦り抜けて廊下へと歩みでると、
「勇者様!」
ドナは、慌てて再び床へ額を擦り付けた。
――ミーシャ。とりあえず『気にするな』と伝えてくれ。
「何で私がそんなこと、言ってやらなくちゃなんないのよ!」
――このままでは、話が進まないだろう?
「ああっ! もう!」
ミーシャは恨めしげにレイを睨みつけるとドナを見下ろして、投げやりに言い放つ。
「……気にするなって言ってるわよ。アンタんとこの勇者は!」
途端に、ドナは弾かれるように顔を上げた。
じっと見つめてくるドナに、レイが一つ頷くと、彼女は蕩ける様な笑みを浮かべる。
「感謝いたします! 勇者様ぁ!」
「いくわよ、レイ」
ムスッと頬を膨らませたミーシャが、ドナの様子を横目に見ながら、そう声を掛けた途端、ドナは唐突に手を伸ばすと、目の前のレイを赤子のように抱きかかえた。
「は!?」
そして、彼女は呆気に取られるミーシャを顧みることもなく、そのままさっさと廊下を歩き始める。
「では、勇者様、ゴディン殿が西門に馬車を用意してくださっておりますので、そちらへご案内いたします。もし何かご要望がございましたら遠慮なく、このワタクシにお命じくださいませ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ! アンタ! 何すんのよ! レイを離しなさいよ!」
肩を掴むミーシャを振り返って、ドナが小首を傾げる。
「何を言ってるのです。耳長殿。馬車を用意してある西門までは、かなり距離があるのです。勇者様の足が疲れてしまったらどうするのですか」
「どうもしないわよ! 過保護か!」
――私はこのままでもかまわない。楽だし。
「アンタも、なんであっさり受け入れてんのよ!」
ミーシャがレイに指を突きつけると、ドナは彼に憐れむ様な目を向けた。
「勇者様、耳長殿に、こき使われてこられたのですね。お可哀そうに。あれはきっとサドです。サド」
「誰がサドよ!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい二人と一匹が西門へと辿り着くと、そこにはゴディンとソフィーが待ち受けていた。
レイはベッドの方を振り返り、名残惜しげにそう主張した。
ゴディンのはからいで、昨晩の夕食は相当に豪華なものだった。
無論、それだけでは無い。
大きなお風呂に、一人に一つのベッド。
ミーシャと別々に眠れば、首を絞められる恐れも無い。
「ダメだってば! のんびりしてるような時間は無いのっ!」
そう言いながらミーシャは、大きな背嚢を背負って、廊下へと続く扉を押し開く。
――やれやれ。
レイは首を竦めて追いかけようとしたが、なぜかミーシャはドアノブを握ったまま、その場に立ち止まった。
――どうした?
レイがミーシャの脇から顔を覗かせると、部屋の前の廊下に、おかしなものが居座っているのが見えた。
「えーと…………ねぇ、アンタ。そんなところで何やってんの?」
ミーシャが戸惑いながら声を掛けると、廊下に蹲っているそれは、額を床に擦り付けるようにして、声を潤ませた。。
「勇者様! 昨日は! 誠に申し訳ございませんでした! 身の程知らずにも勇者様に刃向おうとは、ワタクシが愚かでございました!」
それは白い修道衣姿の女性。
昨日、レイと死闘を演じたトアナベの亡霊――ドナ・バロットであった。
「ちょ、ちょっと、アンタ、大袈裟! 大袈裟すぎるわよ! 大丈夫、私たちはなんとも思ってないから。ね、レイ」
――ああ。
ミーシャがあたふたしながらそう声を掛けると、ドナは静かに顔を上げた。
肩の辺りで切り揃えられた髪に、やけに大きな薔薇の髪飾り。
昨日仰け反って奇声を上げていたのと同一人物とは思えぬ、おっとりとした顔立ち。たれ目がちな優しい瞳が潤んで、微かに揺れている。
彼女は、じっとミーシャを見つめると、申し訳なさげに小首を傾げた。
「耳長殿、申し訳ありませんが、ワタクシは別にアナタに謝っている訳ではございません。そこをお退きいただけると、ありがたいのですけれど?」
ミーシャの動きがピタッと止まる。
そして、ドナの発言を反芻する一瞬の間を置いて、彼女は声を荒げた。
「な!? ちょっと! なんなのよ、その言い草! 私だってアンタに殺されかけたのよ!」
「まあ、それは不幸な事故ということで。それはともかく、退いていただけませんか?」
「な、な、な……!」
思わず拳を震わせるミーシャ。
このまま放っておけば、碌なことにならないのは、火を見るよりも明らかである。
溜め息混じりに、レイがミーシャの脇を擦り抜けて廊下へと歩みでると、
「勇者様!」
ドナは、慌てて再び床へ額を擦り付けた。
――ミーシャ。とりあえず『気にするな』と伝えてくれ。
「何で私がそんなこと、言ってやらなくちゃなんないのよ!」
――このままでは、話が進まないだろう?
「ああっ! もう!」
ミーシャは恨めしげにレイを睨みつけるとドナを見下ろして、投げやりに言い放つ。
「……気にするなって言ってるわよ。アンタんとこの勇者は!」
途端に、ドナは弾かれるように顔を上げた。
じっと見つめてくるドナに、レイが一つ頷くと、彼女は蕩ける様な笑みを浮かべる。
「感謝いたします! 勇者様ぁ!」
「いくわよ、レイ」
ムスッと頬を膨らませたミーシャが、ドナの様子を横目に見ながら、そう声を掛けた途端、ドナは唐突に手を伸ばすと、目の前のレイを赤子のように抱きかかえた。
「は!?」
そして、彼女は呆気に取られるミーシャを顧みることもなく、そのままさっさと廊下を歩き始める。
「では、勇者様、ゴディン殿が西門に馬車を用意してくださっておりますので、そちらへご案内いたします。もし何かご要望がございましたら遠慮なく、このワタクシにお命じくださいませ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ! アンタ! 何すんのよ! レイを離しなさいよ!」
肩を掴むミーシャを振り返って、ドナが小首を傾げる。
「何を言ってるのです。耳長殿。馬車を用意してある西門までは、かなり距離があるのです。勇者様の足が疲れてしまったらどうするのですか」
「どうもしないわよ! 過保護か!」
――私はこのままでもかまわない。楽だし。
「アンタも、なんであっさり受け入れてんのよ!」
ミーシャがレイに指を突きつけると、ドナは彼に憐れむ様な目を向けた。
「勇者様、耳長殿に、こき使われてこられたのですね。お可哀そうに。あれはきっとサドです。サド」
「誰がサドよ!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい二人と一匹が西門へと辿り着くと、そこにはゴディンとソフィーが待ち受けていた。
1
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる