亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市

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第二章 亡霊、勇者のフリをする。

第十六話 女は灰になるまで乙女 #1

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 ――もうあと何日か、ここに居ても良いんじゃないか?

 レイはベッドの方を振り返り、名残惜なごりおしげにそう主張した。

 ゴディンのはからいで、昨晩の夕食は相当に豪華なものだった。

 無論、それだけでは無い。

 大きなお風呂に、一人に一つのベッド。

 ミーシャと別々に眠れば、首を絞められる恐れも無い。

「ダメだってば! のんびりしてるような時間は無いのっ!」

 そう言いながらミーシャは、大きな背嚢リュックを背負って、廊下へと続く扉を押し開く。

 ――やれやれ。

 レイは首を竦めて追いかけようとしたが、なぜかミーシャはドアノブを握ったまま、その場に立ち止まった。

 ――どうした?

 レイがミーシャの脇から顔を覗かせると、部屋の前の廊下に、おかしなものが居座っているのが見えた。

「えーと…………ねぇ、アンタ。そんなところで何やってんの?」

 ミーシャが戸惑いながら声を掛けると、廊下にうずくまっているそれは、額を床にこすり付けるようにして、声を潤ませた。。

「勇者様! 昨日は! 誠に申し訳ございませんでした! 身の程知らずにも勇者様に刃向おうとは、ワタクシが愚かでございました!」

 それは白い修道衣姿の女性。

 昨日、レイと死闘を演じたトアナベの亡霊――ドナ・バロットであった。

「ちょ、ちょっと、アンタ、大袈裟! 大袈裟すぎるわよ! 大丈夫、私たちはなんとも思ってないから。ね、レイ」

 ――ああ。

 ミーシャがあたふたしながらそう声を掛けると、ドナは静かに顔を上げた。

 肩の辺りで切り揃えられた髪に、やけに大きな薔薇の髪飾り。

 昨日け反って奇声を上げていたのと同一人物とは思えぬ、おっとりとした顔立ち。たれ目がちな優しい瞳が潤んで、微かに揺れている。

 彼女は、じっとミーシャを見つめると、申し訳なさげに小首を傾げた。

耳長みみなが殿、申し訳ありませんが、ワタクシは別にアナタに謝っている訳ではございません。そこをお退きいただけると、ありがたいのですけれど?」

 ミーシャの動きがピタッと止まる。

 そして、ドナの発言を反芻はんすうする一瞬の間を置いて、彼女は声を荒げた。

「な!? ちょっと! なんなのよ、その言い草! 私だってアンタに殺されかけたのよ!」

「まあ、それは不幸な事故ということで。それはともかく、退いていただけませんか?」

「な、な、な……!」

 思わず拳を震わせるミーシャ。

 このまま放っておけば、ろくなことにならないのは、火を見るよりも明らかである。

 溜め息混じりに、レイがミーシャの脇を擦り抜けて廊下へと歩みでると、

「勇者様!」

 ドナは、慌てて再び床へ額をこすり付けた。

 ――ミーシャ。とりあえず『気にするな』と伝えてくれ。

「何で私がそんなこと、言ってやらなくちゃなんないのよ!」

 ――このままでは、話が進まないだろう?

「ああっ! もう!」

 ミーシャは恨めしげにレイを睨みつけるとドナを見下ろして、投げやりに言い放つ。

「……気にするなって言ってるわよ。アンタんとこの勇者は!」

 途端に、ドナは弾かれるように顔を上げた。

 じっと見つめてくるドナに、レイが一つ頷くと、彼女はとろける様な笑みを浮かべる。

「感謝いたします! 勇者様ぁ!」

「いくわよ、レイ」

 ムスッと頬を膨らませたミーシャが、ドナの様子を横目に見ながら、そう声を掛けた途端、ドナは唐突に手を伸ばすと、目の前のレイを赤子のように抱きかかえた。

「は!?」

 そして、彼女は呆気に取られるミーシャをかえりみることもなく、そのままさっさと廊下を歩き始める。

「では、勇者様、ゴディン殿が西門に馬車を用意してくださっておりますので、そちらへご案内いたします。もし何かご要望がございましたら遠慮なく、このワタクシにお命じくださいませ」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ! アンタ! 何すんのよ! レイを離しなさいよ!」

 肩を掴むミーシャを振り返って、ドナが小首を傾げる。

「何を言ってるのです。耳長殿みみながどの。馬車を用意してある西門までは、かなり距離があるのです。勇者様の足が疲れてしまったらどうするのですか」

「どうもしないわよ! 過保護か!」

 ――私はこのままでもかまわない。楽だし。

「アンタも、なんであっさり受け入れてんのよ!」

 ミーシャがレイに指を突きつけると、ドナは彼に憐れむ様な目を向けた。

「勇者様、耳長みみなが殿に、こき使われてこられたのですね。お可哀そうに。あれはきっとサドです。サド」

「誰がサドよ!」

 ぎゃあぎゃあと騒がしい二人と一匹が西門へと辿り着くと、そこにはゴディンとソフィーが待ち受けていた。
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