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第三章 亡霊、竜になる
第十七話 もふもふもふもふもふもふ #2
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同じ頃。
レイ達を乗せた荷馬車は、ヌーク・アモーズを目指して、一路、西へと走っていた。
既にソルブルグ王国第二の都市、『カノカ』は目と鼻の先。夕刻までには到着する見込みである。
初夏の昼下がり。
菜の花の揺れる野原を突っ切って、真っすぐに続く街道。
牧歌的な風景が道の左右に広がっていた。
「ふふ~ふふふ~♪」
眠気を誘う様なポカポカとした陽気の中で、馬車の上にはドナが口ずさむハミングが響いている。
「アンタさぁ、気が付いたら、ずーっと同じフレーズ、口ずさんでるけど、何なのそれ?」
ミーシャがそう問いかけると、ドナはニコリと微笑んだ。
「讃美歌ですよ。どうです? 素敵なメロディでしょ? 改宗する気になったでしょ?」
「ならない」
ミーシャはうんざりとした表情で吐き捨てる。
初日こそ、ぎゃあぎゃあと騒がしく言い争っていた二人ではあったが、翌日以降は随分落ち着いたもので、ミーシャが突っかかりさえしなければ、ドナから喧嘩を吹っかけてくることも無い。
ただ、ドナはミーシャを改宗させようと、隙あらば神の素晴らしさを訴えてくることだけが、ただ鬱陶しかった。
「そうですか……残念です。やはり、耳長殿たちと人間では、感性が違うのでしょうか?」
「はいはい、そうね。そうかもね」
ミーシャは関心なさげに、手をひらひらとさせる。
「勇者様は、この曲に覚えはございませんか?」
ドナが自分の胸元のウサギに問いかけると、それはふるふると首を振った。
「左様でございますか……。実は、この曲は勇者様が口ずさんでおられたものを司祭様が気に入られて、讃美歌として取り入れられたものなんです」
「気に入って取り入れたって……。相変わらず適当ね。アンタ達」
「何をおっしゃいます。ヌークアモーズの大聖堂で何百人もの信徒たちが、この曲を一斉にハミングする光景は、それはもう神々しいものですよ」
「ふーん、で、結局何て曲なの?」
「確か、『ペガ〇スファンタジー』という曲名だったかと」
「なーんか、大袈裟な曲名ねぇ。何について歌った歌?」
「それが……歌詞も有るには有るらしいのですが、ワタクシ達はメロディしか存じません。なんでもそれを歌うと、ジャスラクという魔物が現れて大変なことになる。勇者様がそうおっしゃられていたそうで……」
「なんで、魔物が現れるような曲を讃美歌にすんのよ……」
呆れる様に背凭れに身を投げ出すと、ミーシャはちらりと、ドナの胸に抱かれているものへと目を向ける。
「それはそうと……レイ。あんた、ちょっと調子に乗り過ぎなんじゃないの?」
彼女がじとりと向けた視線の先。
そこにはドナの胸の間に身を埋めて、まるで玉座の上の王者のように、左右の膨らみに腕を掛けながらふんぞり返る白兎の姿があった。
――どこがだ?
「全部よ!!」
さて、今更ではあるが、見ての通り現在レイは白兎である。
無論、只の白兎では無い。
街道の厄災と恐れられる小さな魔獣。
首狩り兎である。
なんでそんなことになってしまったかというと、話は単純。
昨日、野宿の準備をしている時に襲われたのだ。
この小さな魔獣がミーシャを狙って飛び掛かってきた時に、レイはその身を盾にした。
最終的に仕留めはしたものの、最初の一撃で左腕を失ったレイは赤鶏冠の身体を捨てて、この小さな魔獣に乗り換えたのだ。
レイ達を乗せた荷馬車は、ヌーク・アモーズを目指して、一路、西へと走っていた。
既にソルブルグ王国第二の都市、『カノカ』は目と鼻の先。夕刻までには到着する見込みである。
初夏の昼下がり。
菜の花の揺れる野原を突っ切って、真っすぐに続く街道。
牧歌的な風景が道の左右に広がっていた。
「ふふ~ふふふ~♪」
眠気を誘う様なポカポカとした陽気の中で、馬車の上にはドナが口ずさむハミングが響いている。
「アンタさぁ、気が付いたら、ずーっと同じフレーズ、口ずさんでるけど、何なのそれ?」
ミーシャがそう問いかけると、ドナはニコリと微笑んだ。
「讃美歌ですよ。どうです? 素敵なメロディでしょ? 改宗する気になったでしょ?」
「ならない」
ミーシャはうんざりとした表情で吐き捨てる。
初日こそ、ぎゃあぎゃあと騒がしく言い争っていた二人ではあったが、翌日以降は随分落ち着いたもので、ミーシャが突っかかりさえしなければ、ドナから喧嘩を吹っかけてくることも無い。
ただ、ドナはミーシャを改宗させようと、隙あらば神の素晴らしさを訴えてくることだけが、ただ鬱陶しかった。
「そうですか……残念です。やはり、耳長殿たちと人間では、感性が違うのでしょうか?」
「はいはい、そうね。そうかもね」
ミーシャは関心なさげに、手をひらひらとさせる。
「勇者様は、この曲に覚えはございませんか?」
ドナが自分の胸元のウサギに問いかけると、それはふるふると首を振った。
「左様でございますか……。実は、この曲は勇者様が口ずさんでおられたものを司祭様が気に入られて、讃美歌として取り入れられたものなんです」
「気に入って取り入れたって……。相変わらず適当ね。アンタ達」
「何をおっしゃいます。ヌークアモーズの大聖堂で何百人もの信徒たちが、この曲を一斉にハミングする光景は、それはもう神々しいものですよ」
「ふーん、で、結局何て曲なの?」
「確か、『ペガ〇スファンタジー』という曲名だったかと」
「なーんか、大袈裟な曲名ねぇ。何について歌った歌?」
「それが……歌詞も有るには有るらしいのですが、ワタクシ達はメロディしか存じません。なんでもそれを歌うと、ジャスラクという魔物が現れて大変なことになる。勇者様がそうおっしゃられていたそうで……」
「なんで、魔物が現れるような曲を讃美歌にすんのよ……」
呆れる様に背凭れに身を投げ出すと、ミーシャはちらりと、ドナの胸に抱かれているものへと目を向ける。
「それはそうと……レイ。あんた、ちょっと調子に乗り過ぎなんじゃないの?」
彼女がじとりと向けた視線の先。
そこにはドナの胸の間に身を埋めて、まるで玉座の上の王者のように、左右の膨らみに腕を掛けながらふんぞり返る白兎の姿があった。
――どこがだ?
「全部よ!!」
さて、今更ではあるが、見ての通り現在レイは白兎である。
無論、只の白兎では無い。
街道の厄災と恐れられる小さな魔獣。
首狩り兎である。
なんでそんなことになってしまったかというと、話は単純。
昨日、野宿の準備をしている時に襲われたのだ。
この小さな魔獣がミーシャを狙って飛び掛かってきた時に、レイはその身を盾にした。
最終的に仕留めはしたものの、最初の一撃で左腕を失ったレイは赤鶏冠の身体を捨てて、この小さな魔獣に乗り換えたのだ。
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