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第三章 亡霊、竜になる
第十八話 酔いどれ少女の寝言 #1
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「勇者様、あれが王国第二の都市『カノカ』です」
ドナが指さす先。
暗闇の向こうに、一定間隔で並んだ篝火に照らされて、切り込み接ぎの城壁が浮かび上がっている。
方形にカットされた石材で造られたその城壁は、従来の石積みに比べれば、相当に手間も資金もかかる代物だ。
――随分、豊かな町の様だな。
「そりゃそうよ。カノカは半島のほぼ中心。どんな交易品もこの町を通るんだもの。賑わわなきゃおかしいでしょ? 二十年前に通った時は人が道に溢れてて、通り抜けるだけでも一苦労だったわ」
ミーシャが胸元に抱いた兎へとそう答えると、ドナが小さく溜め息を吐いた。
「豊かな町だったというのが正しいですね。魔物達のせいで陸路での交易が出来なくなって以来、カノカの街は寂れる一方です。今は街中は閑散としたものですよ」
「そうなの?」
「ええ、とはいえ我々聖職者は、この町にあまり良い感情を持っていた訳ではありませんので、その凋落に関して、さほど憐れむ気にはなれませんけれど」
「なんで?」
「細々とした事は沢山ありますが、いかがわしい店が軒を連ねる、この国最大の歓楽街がある堕落の中心であった事と、清貧を至上とする神の教えが根付かない商人の街であったこと。大きくはその二つですね」
「アンタらの言う事聞いてたら、儲けても全部寄付しろとか言われそうだもんね」
「ものすごく偏見を感じますけど……。もしかしたらそう思われていたかもしれません。ですから、教会もあるにはあるのですけど、規模の小さな物です。この町に派遣されるとなると、神官としてはいわゆる左遷ですね」
――大きな町に派遣されるのに、左遷なのか。
やがて馬車が城門に差し掛かると衛兵が二人、馬車の前に立ちはだかった。
「止まれ!」
手にしたカンテラを掲げて、衛兵は車上の人物に目を凝らすと、驚きの表情を浮かべた。
兎を抱いた金髪の美少女。
めったに目にすることの無いエルフ。
それも、相いれない関係のはずの神官と同乗しているのだ。
彼が言葉を失うのも無理からぬ事である。
呆然と立ち尽くす衛兵に、ドナが口を開く。
「ご苦労様です。ワタクシはドナ・バロット。位階は侍祭。中央教会に所属する神官です。見ての通り、客人を王の御許へご案内する途上です」
「さ、左様でございましたか! どうぞお通りください!」
王という単語に反応したのだろう。衛兵は慌てて背筋を伸ばすと、道を開ける。
「ありがとう」
そして、ドナが馬車を出発させようとすると、彼は何かを思い出したかのような素振りを見せた。
「ああ、そうです! 神官殿。今夜はこの町にご滞在されますか?」
「ええ、そのつもりですけど?
「それなら、宿を取られましたら夜間はできるだけ外出なさられないことをお勧めいたします」
「何かあったのですか?」
「ここしばらく、若い娘が何者かに拐かされる事件が頻発しておりまして……」
「まあ、それは大変。ご忠告感謝します」
ドナはそう言って衛兵に微笑みかけると、ゆっくりと馬車を出発させる。
門の内側へと走り始める馬車。
やがて、それが宵闇に呑まれて見えなくなると、衛兵は同僚へと問い掛けた。
「……見たか?」
「ああ、エルフだ。それも若い女。神官の方もかなり佳い女だったな」
「滅多にない上玉が飛び込んできやがった。急いでアリア様にお知らせしないと……」
衛兵たちは頷きあうと門を閉じ、足早に町の中へと消えて行った。
ドナが指さす先。
暗闇の向こうに、一定間隔で並んだ篝火に照らされて、切り込み接ぎの城壁が浮かび上がっている。
方形にカットされた石材で造られたその城壁は、従来の石積みに比べれば、相当に手間も資金もかかる代物だ。
――随分、豊かな町の様だな。
「そりゃそうよ。カノカは半島のほぼ中心。どんな交易品もこの町を通るんだもの。賑わわなきゃおかしいでしょ? 二十年前に通った時は人が道に溢れてて、通り抜けるだけでも一苦労だったわ」
ミーシャが胸元に抱いた兎へとそう答えると、ドナが小さく溜め息を吐いた。
「豊かな町だったというのが正しいですね。魔物達のせいで陸路での交易が出来なくなって以来、カノカの街は寂れる一方です。今は街中は閑散としたものですよ」
「そうなの?」
「ええ、とはいえ我々聖職者は、この町にあまり良い感情を持っていた訳ではありませんので、その凋落に関して、さほど憐れむ気にはなれませんけれど」
「なんで?」
「細々とした事は沢山ありますが、いかがわしい店が軒を連ねる、この国最大の歓楽街がある堕落の中心であった事と、清貧を至上とする神の教えが根付かない商人の街であったこと。大きくはその二つですね」
「アンタらの言う事聞いてたら、儲けても全部寄付しろとか言われそうだもんね」
「ものすごく偏見を感じますけど……。もしかしたらそう思われていたかもしれません。ですから、教会もあるにはあるのですけど、規模の小さな物です。この町に派遣されるとなると、神官としてはいわゆる左遷ですね」
――大きな町に派遣されるのに、左遷なのか。
やがて馬車が城門に差し掛かると衛兵が二人、馬車の前に立ちはだかった。
「止まれ!」
手にしたカンテラを掲げて、衛兵は車上の人物に目を凝らすと、驚きの表情を浮かべた。
兎を抱いた金髪の美少女。
めったに目にすることの無いエルフ。
それも、相いれない関係のはずの神官と同乗しているのだ。
彼が言葉を失うのも無理からぬ事である。
呆然と立ち尽くす衛兵に、ドナが口を開く。
「ご苦労様です。ワタクシはドナ・バロット。位階は侍祭。中央教会に所属する神官です。見ての通り、客人を王の御許へご案内する途上です」
「さ、左様でございましたか! どうぞお通りください!」
王という単語に反応したのだろう。衛兵は慌てて背筋を伸ばすと、道を開ける。
「ありがとう」
そして、ドナが馬車を出発させようとすると、彼は何かを思い出したかのような素振りを見せた。
「ああ、そうです! 神官殿。今夜はこの町にご滞在されますか?」
「ええ、そのつもりですけど?
「それなら、宿を取られましたら夜間はできるだけ外出なさられないことをお勧めいたします」
「何かあったのですか?」
「ここしばらく、若い娘が何者かに拐かされる事件が頻発しておりまして……」
「まあ、それは大変。ご忠告感謝します」
ドナはそう言って衛兵に微笑みかけると、ゆっくりと馬車を出発させる。
門の内側へと走り始める馬車。
やがて、それが宵闇に呑まれて見えなくなると、衛兵は同僚へと問い掛けた。
「……見たか?」
「ああ、エルフだ。それも若い女。神官の方もかなり佳い女だったな」
「滅多にない上玉が飛び込んできやがった。急いでアリア様にお知らせしないと……」
衛兵たちは頷きあうと門を閉じ、足早に町の中へと消えて行った。
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