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第三章 亡霊、竜になる

第十八話 酔いどれ少女の寝言 #3

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 ドナが店主らしい親父の方へと歩いていくと、ミーシャはぐるりと周囲を見回す。

 店の中は広いが客は、それほど多くない。

 全部で六人。

 奥のカウンターでは、腹部と背中もあらわな大胆な軽装鎧を着込んだ女が、頭を酒瓶に囲まれて突っ伏している。

 残りの五人は、店の左側の大きなテーブルを囲んでいる。

 頬に大きな傷のある筋骨隆々の大男が、両脇に商売女をはべらせて、太鼓持ちらしい男達を相手に、自慢話に花をさかせている。

 すぐ脇の壁には、男の身の丈ほどもありそうな、バカみたいにでっかい剣が立てかけてあった。

「で、俺は言ってやったのよ。やいドラゴン。ここからはこの竜殺しのバルザック様が相手だってな」

「すげえ、流石兄貴!」

 いかにもというような自慢話に、ミーシャが肩を竦めるとドナが二人の方へと戻って来た。

「部屋は二階の一番奥の二人部屋。食事はここでとれるそうですが、お風呂は一ブロック先の公衆浴場しかないそうで、それももうあと二時間ほどで閉まるそうです」

「そうなの!? ううっ……お腹は空いたけど……お風呂も入りたいし……」

「では、部屋に荷物を置いて、まずはお風呂ですね」

 その時、ミーシャたちの耳に、先ほどから自慢話を続けている大男の声が飛び込んで来た。

「実はな、行方不明になってるって勇者。あれ、俺の事だ」

 その瞬間、ミーシャはドナのこめかみに、昇り竜の様に青筋が浮かび上がるのを見た。

「ちょ、ちょっと! アンタ、落ち着きなさいよ」

 慌ててミーシャは、今にも飛び掛かりそうなドナの肩を掴む。

「勇者様の面前で名を騙るなんて、許してはおけません」

 ――まあ、私も偽物なんだがな。

 要らない事をいうなと、レイをギロリと睨みつけると、ミーシャがさとすような声音で、ドナへと語り掛ける。

「ほら、レイも気にするなって言ってるわよ。偽物が出てくるのも勇者が……そうね、アンタ達の神様ってのが、偉大な証拠だって」

 ドナは、一瞬きょとんとした顔をすると、感極まったような表情になって目尻を拭った。

「流石は勇者様。御心が広い。それに比べてワタクシは……」

「と、とにかく、部屋に荷物置いて、お風呂に行きましょう! 閉まっちゃうから」

 そう言ってミーシャは、慌しくドナの背を押して階段の方へと向かう。

 酒瓶に囲まれて突っ伏している女がいる席。

 その、すぐ脇にある階段に足を掛けた途端、酔っ払いの女がうめく様に寝言を洩らした。

「うう……ん、コータぁ、早く迎えに来てよぉ……待ちくたびれちゃったよぉ……」

 階段の登り掛けに見下ろしたその横顔は、酔っ払いにしては余りに幼い。

 赤毛の短いくせっ毛が、アルコールを含んだ寝汗で、額に張り付いている。

 ミーシャの目に彼女は、女というより少女とでも形容すべき年齢に見えた。
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