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第三章 亡霊、竜になる
第二十一話 『マニア向け』はたぶん誉め言葉ではない。 #1
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「勇者様! 本当に良いんですね?」
レイがコクリと頷くのを視界の端に捉えながら、ドナは一際力強く手綱をしならせた。
馬は前足で宙を掻いて嘶くと、一気に速度を上げ、馬蹄の響きを人通りの絶えた大通りに、高らかに響かせる。
ミーシャの目には、行く手で揺れる無数の篝火が、闇夜に息をひそめる狼の目に見えた。
人間の領域にさえ入ってしまえば、後はのんびりとした旅路になる。その筈だったのに、なんでこんな無茶苦茶な事に巻き込まれているんだろう。
そんな疑問とも不満ともつかない想いが、ミーシャの頭の中で渦を巻いていた。
篝火が近づいてくるにつれて、その周囲の群衆の輪郭が浮かび上がってくる。
一様に表情の無い顔。生気の無い目をした男達の姿。
暴走する馬車が迫っているというのに、男達は身じろぎ一つしない。
やっぱり操られているだけなんだ……。
そう思った瞬間、自分達がしようとしていることの恐ろしさに、ミーシャの顔から血の気が引く。
だが、もう馬車を止めることは出来ない。
あと、二十メートル!
「ううっ!」
呻くような声を洩らして、ミーシャが肩を強張らせた途端――
天地がぐるりとひっくり返った。
「え?」
ミーシャの間抜けな声が宙空にとり残されて、身体がふわりと浮かび上がる。
周囲の音が消え去って、周りの景色がやけにゆっくりに見えた。
脚を折って前のめりに倒れていく馬。
馬と馬車を繋ぐ軛を軸に、馬車の車体が宙に半円を描いて引っ繰り返っていく。
ああ、死んだわ、コレ。
頭の片隅で、自分自身がお手上げとばかりに肩を竦めたその瞬間、
――すまん。
脳裏にレイの声が響いて、脇腹に鋭い痛みが走った。
思わず目を見開くミーシャ。
その視界に飛び込んで来たのは、自らの脇腹に減り込む兎の脚。
やけに綺麗なフォームの跳び蹴りだった。
「ぐはっ!!」
ミーシャの口から、乙女らしからぬ声が洩れて、肺の中の空気が全部押し出される。
そして彼女は、
「きゃああああああああ!」
盛大に悲鳴を上げるドナを巻き込んで、馬車が描く死の大車輪から外れて脇へと放り出される。
そして、二人は石畳の道を点々と転がって、人形の様に絡み合ったまま地面へと叩きつけられた。
途端に、世界に音が戻ってくる。
ノイズとして無視されていた周囲の音が、意識の表層に浮かび上がってきた。
凄まじい衝突音。
石畳に叩きつけられた馬車が砕け散る。
カンテラの油が引火して黒煙が立ち昇ると、下敷きになった馬が悲しげな声で鳴いた。
レイがコクリと頷くのを視界の端に捉えながら、ドナは一際力強く手綱をしならせた。
馬は前足で宙を掻いて嘶くと、一気に速度を上げ、馬蹄の響きを人通りの絶えた大通りに、高らかに響かせる。
ミーシャの目には、行く手で揺れる無数の篝火が、闇夜に息をひそめる狼の目に見えた。
人間の領域にさえ入ってしまえば、後はのんびりとした旅路になる。その筈だったのに、なんでこんな無茶苦茶な事に巻き込まれているんだろう。
そんな疑問とも不満ともつかない想いが、ミーシャの頭の中で渦を巻いていた。
篝火が近づいてくるにつれて、その周囲の群衆の輪郭が浮かび上がってくる。
一様に表情の無い顔。生気の無い目をした男達の姿。
暴走する馬車が迫っているというのに、男達は身じろぎ一つしない。
やっぱり操られているだけなんだ……。
そう思った瞬間、自分達がしようとしていることの恐ろしさに、ミーシャの顔から血の気が引く。
だが、もう馬車を止めることは出来ない。
あと、二十メートル!
「ううっ!」
呻くような声を洩らして、ミーシャが肩を強張らせた途端――
天地がぐるりとひっくり返った。
「え?」
ミーシャの間抜けな声が宙空にとり残されて、身体がふわりと浮かび上がる。
周囲の音が消え去って、周りの景色がやけにゆっくりに見えた。
脚を折って前のめりに倒れていく馬。
馬と馬車を繋ぐ軛を軸に、馬車の車体が宙に半円を描いて引っ繰り返っていく。
ああ、死んだわ、コレ。
頭の片隅で、自分自身がお手上げとばかりに肩を竦めたその瞬間、
――すまん。
脳裏にレイの声が響いて、脇腹に鋭い痛みが走った。
思わず目を見開くミーシャ。
その視界に飛び込んで来たのは、自らの脇腹に減り込む兎の脚。
やけに綺麗なフォームの跳び蹴りだった。
「ぐはっ!!」
ミーシャの口から、乙女らしからぬ声が洩れて、肺の中の空気が全部押し出される。
そして彼女は、
「きゃああああああああ!」
盛大に悲鳴を上げるドナを巻き込んで、馬車が描く死の大車輪から外れて脇へと放り出される。
そして、二人は石畳の道を点々と転がって、人形の様に絡み合ったまま地面へと叩きつけられた。
途端に、世界に音が戻ってくる。
ノイズとして無視されていた周囲の音が、意識の表層に浮かび上がってきた。
凄まじい衝突音。
石畳に叩きつけられた馬車が砕け散る。
カンテラの油が引火して黒煙が立ち昇ると、下敷きになった馬が悲しげな声で鳴いた。
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