亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市

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第三章 亡霊、竜になる

第二十二話 蜘蛛の女王 #2

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「な!?」

 アリアの驚愕の声を掻き消す様に、ぐしゃ! っという水気を含んだ音が響き渡って、男の首があらぬ方向へ折れ曲がる。

 だがそれで終わりではない。

 いや、むしろ、開戦の狼煙のろしでしかない。

 ドナはそのまま男の頬を力一杯殴り抜けると、いきおいまかせにくるりと回って、隣の男の腹に膝を減り込ませる。

 そして、男がうめきながら前のめりになると、その髪を引っ掴み、顔面へと執拗に膝蹴りを叩きこみ始めた。

「うっわ、エグっ……」

 ドン引きするミーシャを気にも留めず、ドナはその場で足踏みする様に、更に何度も膝蹴りを叩きこむ。

 恐ろしいのは垂れ目がちの目が、僅かに笑っていること。

 男の鼻が折れて血が零れ落ち、折れた歯がポロポロと地面へと落ちる。

 やがて、男の身体が小刻みに痙攣し始めると、ドナは飽きたおもちゃを投げ出す子供みたいに、その身体を石畳の上へと投げ捨てる。

 そして、威嚇するように周りを睥睨へいげいすると、彼女は声を張り上げた。

「寄ってたかって、か弱い女性を手に掛けようとは言語道断! ワタクシは唯一絶対なる神の、地上における代行者。そう、神は仰られました。殺られる前に殺れ。殺る時は徹底的に殺れ。と」

「絶対、邪神だって……そいつ」

 ミーシャのその呟きは、幸いにもドナの耳には届かなかった。

 次の男へと襲い掛かるドナの姿を目で追いながら、アリアが声を震わせる。

「ちょ、ちょっとアンタ! 何なのよ!? あれ!」

 ――さっき言っただろう? あの女は強いと。

 レイが呆れたとでもいうように肩を竦めると、アリアの顔が怒りで赤く染まった。

「きぃいいい! 馬鹿にするんじゃないわよ! 兎の癖にィ!」

 彼女が声を荒げると同時に、周囲を取り囲んでいたヒュージスパイダーが、わさわさと節の付いた足を蠢かせて、一斉にレイの方へと殺到してくる。

 その瞬間、レイの四つの脚が石畳の地面を蹴った。

 トンという軽い音をその場に残して、レイは正面の蜘蛛へと突っ込むと、八本の脚の間、蜘蛛の体の下を、放たれた矢のようなスピードで駆け抜ける。

 そして、レイがくぐり抜けた途端、蜘蛛の身体がいきなり大きく傾いて地面に倒れ込んだ。
 
 みれば、左側の四本の脚が斬り落とされて無くなっている。

 片側の脚を失った蜘蛛は、石畳に身体を擦りつけながら、身悶える様にその場でくるくる回り始めた。

 ――一匹。

 レイは間髪入れずに身をひるがえすと、再び石畳を蹴って、次の蜘蛛へと襲い掛かる。

 突っ込んでくる白い塊。その姿を縦に並んだ六つの目で捉えた蜘蛛は、口から粘ついた液体を吐き出した。

 だが、レイの速さには対応できていない。

 飛び散った液体は石畳を溶かして、湯気を立ち昇らせる。

 移動する後を追って次々に吐き出されるそれを、躍る様に躱しながら、レイは再び蜘蛛の脇を駆け抜けた。

 蜘蛛の向こう側へと抜けてレイが顔を上げると、今まさにドナが一人の男を、頭突き一発で仕留めるところ。

 ミーシャはというと、そのドナの背後で「そこだ! やっちゃえ!」と、野次馬のような声を上げている。

 ――心配する必要は無さそうだな。

 レイが、半ば呆れ気味にそう独りごちると、背後で蜘蛛の身体が地面を打つ音が聞こえた。

 そして、レイはゆっくりと、アリアの方へと向き直る。

 ――もう終わりか?

 その一言に、アリアの顔が盛大に歪んだ。

「調子に乗るのも、いい加減にしろぉおおおお!」

 途端に、アリアの身体がぐにゃりとゆがんだかと思うと、それが一気に膨れ上がり、徐々の蜘蛛の姿を形作っていく。

 ヒュージスパイダーの何倍もあるであろう巨体。それこそ、小型の竜にも匹敵するほどにまで膨れ上がっていく。

 ――変化か、幻術かはわからないが、よくもいままでそんな物を隠していたものだ。

 アリアは、この歓楽街の顔役だと言っていた。

 この姿を隠して、それこそ文字通りに、この町に巣食っていたのだろう。

「この姿を見ても動じないなんて、大したものね」

 頭上から響いてくるアリアの声。

 巨大な蜘蛛の背から女の上半身が生えている。

 肌の色は人間離れした青。六つの赤い目がレイを見据えた。

 魂の憶測に散らばる失われた記憶。

 その断片を拾い集めながら、レイは応える。 

 ――いや、結構驚いてるぞ。蜘蛛の女王。
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