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第四章 亡霊、魔王討伐を決意する。
第四十話 激戦 #2
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「坊主、あんまり緊張してっと、やられっちまうぞ」
「き、緊張なんか、し、してませんってば!」
言葉とは裏腹の上擦った声。
弓に矢をつがえた状態のまま、城壁の上で伏せている兵士達の中、中年の兵士に揶揄われた少年兵が、強がるように言い返した。
そばかすの残るあどけない顔。
今日初めて戦場に出た少年兵は、冷や汗の浮き出た額を軍装の袖でゴシゴシと擦って、奥歯を噛みしめる。
人面獅子の襲来によって、一時は壊乱状態に陥った城壁の上の兵士達も、既に態勢を立て直している。
今はただひたすらに、相手が動くのを待っている状態だ。
「お、動きやがったぞ」
「え!?」
中年兵士の呟きに、少年兵は思わず目を見開く。
慌てて頭を上げて城壁の向こうへと目をやると、確かに魔物の群れがゾワゾワと蠢いているように見えた。
途端に、
「来たぞぉおお!」
城壁のあちらこちらから、魔王軍の襲来を告げる声が響き渡る。
少年兵は頬に緊張を漲らせて、迫りくる魔王軍を見渡した。
数はどれぐらいだろう。おそらく数万。少なく見積もっても一万はくだらない。
城門のある中央をミノタウロスの一団。右翼にオルトロス、左翼にケルベロスの群れが移動していくのが見えた。
その間を埋めるように、ゴブリンやコボルドといった雑多な種族が犇めきあっている。
ずいぶん後ろの方にゴブリンやコボルド、オーガなどがそれぞれの種族ごとに群れを成しているところをみると、前線のほうで雑多に入り混じっている連中は、はぐれものや功に逸る若者達といったところだろうか?
何カ所か、ぽっかりと空いたようになっているのは、巨大百足の周り。
やはり魔物でも、百足は気持ち悪いのかもしれない。
だが、無数の魔物の中でも取り分け存在感を放っているのは、九つの頭をもつ巨大な蛇――ヒドラ。
それが魔物の軍の中軍――右翼、左翼、中央付近にそれぞれ一匹ずつ。
全部で二十七の頭が鎌首を擡げて、爬虫類特有の感情の無い目で、城壁の上をじっと見ている。
迫りくる魔物たちを硬い表情で見下ろして、少年兵のいる左翼の部隊長が声を張り上げた。
「矢を放て!」
それを皮切りに、伏せていた兵士たちは身を起こして、一斉に矢を放つ。狙う必要など無い。隙間など無いのだ。打てば当たる。当たったかどうかなんて、確認している余裕なんて無い。
「うわああああ! 死ね! 死ねよっ!」
少年兵も声を上げながら、震える指で矢をつがえては、狙いもつけずに放つという動作を、ただ無心に繰り返す。
矢は点描の様に宙を埋め尽くし、魔物達の頭上に降り注ぐ。
だが、その威力は決して強力なものではない。
オークやコボルドといった小型の魔物がいくらか倒れただけで、ミノタウロスやオーガといった大型の魔物は、針山のようになりながらも城門へと迫ってくる。
「くそっ! 城門がやべえぞ!」
中央の辺りからそんな声が聞こえてきた途端、ズシン! ズシン!と、魔物が身体をぶつける音が響き渡って、城門が軋む音がした。
城壁そのものが微かに揺れて、兵士達の間から「ひっ!?」と喉に詰めたような声が漏れ聞こえてくる。
「怯むな! 城門はそう簡単に破れん! 城門の上のものは樽を落とせ!」
こんな状況になるのは、無論、想定の範囲内。城壁の上には、石や土を詰めた樽が幾つも用意されている。
兵士達は重い樽を数人掛かりで引き摺って、城門の前に群れる魔物達の頭上へと投げ落とした。
「ぐぉおおおおおおおおおおおお!」
重い物が地面を叩く音、水気を含んだ圧潰音と魔物の悲鳴。それを巻き込んだ砂煙が舞い上がって、昼下がりの青い空を汚す。
城門を打ち付ける音が途切れ、少年兵がホッと息を吐いた途端、すぐ傍で切羽詰まった声が上がった。
「ま、魔物が登ってくるぞ!」
少年兵が、縋りつく様に下を覗きこむと、巨大百足が大きく蛇行しながら、城壁を登ってくるのが見えた。
「マジかよ……」
「そこ退け! ガキ!」
蒼ざめる少年を押し退けるようにして、必死の形相の兵士達が大きな樽を運んできて、そこに満たされた液体を巨大百足めがけてぶっかける。
そのヌルっとした液体に巨大百足は脚を滑らせては半身を宙に泳がせ、その度に無数の節足を蠢かせて、必死に壁面に張り付く。
「くそっ、落ちないのかよ!」
少年兵が思わず親指の爪を噛むと、さっき少年を揶揄った中年兵が松明に火を灯した。
そして、
「コレでも喰らいやがれ! 化け物!」
それを巨大百足目掛けて投げ落とすと、音を立てて炎が燃え盛った。
キシャアアアアア!
苦しげな絶叫を上げて、巨大百足の身体を炎が包む。あの液体は油。生き物の燃える嫌な匂いと黒い煙。細い節足が炭になってボロボロと崩れ、やがて魔物は城壁から剥がれて地に落ちる。
やけこげた巨大百足は、何匹もの魔物を巻き添えにしながら、地面で激しく身悶えて、やがて動かなくなった。
「き、緊張なんか、し、してませんってば!」
言葉とは裏腹の上擦った声。
弓に矢をつがえた状態のまま、城壁の上で伏せている兵士達の中、中年の兵士に揶揄われた少年兵が、強がるように言い返した。
そばかすの残るあどけない顔。
今日初めて戦場に出た少年兵は、冷や汗の浮き出た額を軍装の袖でゴシゴシと擦って、奥歯を噛みしめる。
人面獅子の襲来によって、一時は壊乱状態に陥った城壁の上の兵士達も、既に態勢を立て直している。
今はただひたすらに、相手が動くのを待っている状態だ。
「お、動きやがったぞ」
「え!?」
中年兵士の呟きに、少年兵は思わず目を見開く。
慌てて頭を上げて城壁の向こうへと目をやると、確かに魔物の群れがゾワゾワと蠢いているように見えた。
途端に、
「来たぞぉおお!」
城壁のあちらこちらから、魔王軍の襲来を告げる声が響き渡る。
少年兵は頬に緊張を漲らせて、迫りくる魔王軍を見渡した。
数はどれぐらいだろう。おそらく数万。少なく見積もっても一万はくだらない。
城門のある中央をミノタウロスの一団。右翼にオルトロス、左翼にケルベロスの群れが移動していくのが見えた。
その間を埋めるように、ゴブリンやコボルドといった雑多な種族が犇めきあっている。
ずいぶん後ろの方にゴブリンやコボルド、オーガなどがそれぞれの種族ごとに群れを成しているところをみると、前線のほうで雑多に入り混じっている連中は、はぐれものや功に逸る若者達といったところだろうか?
何カ所か、ぽっかりと空いたようになっているのは、巨大百足の周り。
やはり魔物でも、百足は気持ち悪いのかもしれない。
だが、無数の魔物の中でも取り分け存在感を放っているのは、九つの頭をもつ巨大な蛇――ヒドラ。
それが魔物の軍の中軍――右翼、左翼、中央付近にそれぞれ一匹ずつ。
全部で二十七の頭が鎌首を擡げて、爬虫類特有の感情の無い目で、城壁の上をじっと見ている。
迫りくる魔物たちを硬い表情で見下ろして、少年兵のいる左翼の部隊長が声を張り上げた。
「矢を放て!」
それを皮切りに、伏せていた兵士たちは身を起こして、一斉に矢を放つ。狙う必要など無い。隙間など無いのだ。打てば当たる。当たったかどうかなんて、確認している余裕なんて無い。
「うわああああ! 死ね! 死ねよっ!」
少年兵も声を上げながら、震える指で矢をつがえては、狙いもつけずに放つという動作を、ただ無心に繰り返す。
矢は点描の様に宙を埋め尽くし、魔物達の頭上に降り注ぐ。
だが、その威力は決して強力なものではない。
オークやコボルドといった小型の魔物がいくらか倒れただけで、ミノタウロスやオーガといった大型の魔物は、針山のようになりながらも城門へと迫ってくる。
「くそっ! 城門がやべえぞ!」
中央の辺りからそんな声が聞こえてきた途端、ズシン! ズシン!と、魔物が身体をぶつける音が響き渡って、城門が軋む音がした。
城壁そのものが微かに揺れて、兵士達の間から「ひっ!?」と喉に詰めたような声が漏れ聞こえてくる。
「怯むな! 城門はそう簡単に破れん! 城門の上のものは樽を落とせ!」
こんな状況になるのは、無論、想定の範囲内。城壁の上には、石や土を詰めた樽が幾つも用意されている。
兵士達は重い樽を数人掛かりで引き摺って、城門の前に群れる魔物達の頭上へと投げ落とした。
「ぐぉおおおおおおおおおおおお!」
重い物が地面を叩く音、水気を含んだ圧潰音と魔物の悲鳴。それを巻き込んだ砂煙が舞い上がって、昼下がりの青い空を汚す。
城門を打ち付ける音が途切れ、少年兵がホッと息を吐いた途端、すぐ傍で切羽詰まった声が上がった。
「ま、魔物が登ってくるぞ!」
少年兵が、縋りつく様に下を覗きこむと、巨大百足が大きく蛇行しながら、城壁を登ってくるのが見えた。
「マジかよ……」
「そこ退け! ガキ!」
蒼ざめる少年を押し退けるようにして、必死の形相の兵士達が大きな樽を運んできて、そこに満たされた液体を巨大百足めがけてぶっかける。
そのヌルっとした液体に巨大百足は脚を滑らせては半身を宙に泳がせ、その度に無数の節足を蠢かせて、必死に壁面に張り付く。
「くそっ、落ちないのかよ!」
少年兵が思わず親指の爪を噛むと、さっき少年を揶揄った中年兵が松明に火を灯した。
そして、
「コレでも喰らいやがれ! 化け物!」
それを巨大百足目掛けて投げ落とすと、音を立てて炎が燃え盛った。
キシャアアアアア!
苦しげな絶叫を上げて、巨大百足の身体を炎が包む。あの液体は油。生き物の燃える嫌な匂いと黒い煙。細い節足が炭になってボロボロと崩れ、やがて魔物は城壁から剥がれて地に落ちる。
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