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第四章 亡霊、魔王討伐を決意する。

第四十話 激戦 #3

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「効いてるぞ! もっと油を持ってこい! 奴らの上にぶちまけて火矢を射かけろ!」

 ワッと歓声が上がって、城壁の上が勢いづく。

 だが、それと時を同じくして、再びミノタウロス達が城門へと突進する音が大きく響き始めた。

 次第に大きくなっていく門扉もんぴきしむ音。閂の横木が悲鳴を上げている。

「隊長、城門の辺りにも火を落としましょう!」

「馬鹿をいうな! 門扉もんぴが焼けたら元も子も無いだろうが!」

 中央の方から聞こえてくるそんな声が、少年兵の不安を掻き立てる。

 だが、他所よその事を気にしていられるのも、そこまでだった。

「ひぃいいいい! 来る! ヒドラが来るぞ!」

 すぐ隣で声を上げた兵士の視線を追って顔を向けると、すぐそこまでヒドラが近づいているのが見える。

 城壁を見下ろすほどの巨体。巨大な蛇が鎌首を持ち上げて、少年兵達を睥睨へいげいしていた。

 文字通り蛇に睨まれて、身動きすることを忘れる兵士達。

 次の瞬間、

「うわあああああああ!」

「ぎゃああああああああああ!」

 ヒドラの九つの首が、巨大なあぎとを開いて、次々に兵士達に喰らいつく。

「あ、あ、あわ、わ……」

 思わず尻餅をついた少年兵の目の前で、ヒドラは咥えた兵士達を振り回し、城壁の外へと投げ捨てる。

 鎌首の一つが、少年兵を見据えた。

「ひっ!?」

 ヒドラは顔を引き攣らせる少年兵目掛けて、もたげた鎌首を叩きつける。

 必死に逃げ惑う少年兵。そのすぐ後ろで、瓦礫がはじけ飛んで、粉塵が立ち上った。

「こ、こんなの、勝てっこないだろ……」

 ちろちろと赤い舌を伸ばして、近寄ってくるヒドラのアギト。彼は思わず目を閉じる。

 もはや、逃げることも適わない。

 少年兵が、出来るだけ苦しまずにける事を願ったその時――彼のすぐ脇を、一迅の風が吹き抜けた。

 彼が恐る恐る目を開けると、ぼやけた視界の向こうに、ヒドラを前に立ちはだかる人影がある。

 ピントを合わせようと眉間に皺をよせると、その途端、城壁の下で魔物達が一斉に声を上げた。

 思わずそちらに顔を向けて、少年兵は目を見開く。

 魔物達の群れのど真ん中、そこには巨大な竜巻が渦を巻いていた。

 竜巻の中央には長い髪をなびかせる人影。

 巨大な風の渦が、魔物達を蹂躙し宙に巻き上げながら、魔王軍のど真ん中に居座っている。

 何が起こっているのかわからず、ただ口をパクパクさせる少年兵に向かって、目の前の人物が口を開いた。

「槍を借りる」

 彼の手元から槍を拾い上げたその人物は、そのまま恐ろしい速さで、鎌首をもたげるヒドラへと突進する。

 少年兵は眼を疑った。

 その人物はどう見ても骸骨。右腕の無い骸骨だった。

 ものすごい勢いで駆け寄っていく骸骨に、あぎとを大きく開いた鎌首が襲い掛かる。

 だが、骸骨はサイドステップを踏んで牙を躱すと、そのままヒドラの目をめがけて槍を突き刺した。

 グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 魂さえも刈り取られそうな恐ろしい声を上げて、ヒドラが身を反り返らせる。

 だが、骸骨は動きを止めない。

 城壁の上に転がっている槍を、次から次へと掴んでは、凄まじい速さで駆けまわりながら、ヒドラの身体を突き刺していく。

「呆けている場合ではないぞ! 兵士諸君!」

 骸骨がそう声をあげると、呆然と見守っていた兵士達は我に返って、慌てて武器を掴んだ。

 少年兵は手近に転がっていた弓を掴んで、ヒドラに向かってがむしゃらに矢を射かける。

 戦場の混乱同様に、少年兵の頭の中も大混乱の渦中にある。

 それでも、

 ――生き残れるかもしれない。

 そんな想いが、彼の胸の内で小さな火を灯した。
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