亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市

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第四章 亡霊、魔王討伐を決意する。

第四十二話 間に合ったんだ。 #2

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疾風斬スラストッ!」

 ミーシャが手刀で宙を斬ると、それが見えない斬撃となって、ダークエルフに襲い掛かる。

 だがダークエルフに慌てる様子はない。

 彼女はくるりと回転してそれをかわすと、即座に反撃に転じた。

氷雨アイスレイン!」

 宙空に現れた氷の粒が、キラキラと陽光を反射しながら、ミーシャ目掛けて降り注ぐ。

「ジニっ! 守って!」

 途端に、風の膜が半球状に彼女を覆って、氷の粒はその上を滑り落ちて行く。

 既に、幾度目かの応酬。幾度目かの攻防。

 それにもかかわらず、ミーシャとダークエルフ。二人は互いに傷一つ与えられないでいる。

 膠着状態こうちゃくじょうたいといえば聞こえは悪くないのだが、実質としては魔王軍の侵攻に、ミーシャが関与するのを封じられているようなもの。

 抑え込まれていると言った方が、より現実に近い。

 ミーシャは下唇を噛んで、地上を見下ろす。

 眼下では魔王軍が勢いを増して、城壁へと押し寄せている。

 城門の前では、レイボーンが剣を振るって一人奮闘している。

 城壁の上へと目を向けると、応援の兵が来たのだろう。先程よりも兵士の数が増えているように思えた。

 だが、それでも状況は悪化の一途を辿たどっている。

 ヒドラのウチ一匹は、未だ健在。

 そして、城壁にもたれかかるように倒れているもう一匹のヒドラ。その死体を踏み台にして、コボルドを始めとする身軽な魔物達が、城壁の上にまで到達し始めているのが見える。

 ……なんとかしなくちゃ。

 ミーシャは焦る気持ちを抑えつけながら、ジニへと問いかけた。

「ジニ、あいつの契約精霊は分かる?」

 ――フェンリルだね。ボクと同格の精霊王だよ。悪い奴じゃないんだけど堅っ苦しい奴でさ、結構苦手なんだよね。

「何か弱点とか無いの?」

 ――そりゃあ、氷の精霊王だから火は苦手だろうけど……。

 風の精霊王と契約しているミーシャが、炎の魔法を使える訳も無い。

「くーの事、ほったらかしにするな!」

 ダークエルフは苛立いらだたしげにそう吐き捨てると、

氷剣アイスブランドー!」

 その手に、氷の大剣を出現させた。

 ダークエルフは、二メートル以上もあるその巨大な剣を振りかぶって、ミーシャの方へと突進してくる。

「くっ!? 風鎧エアロアーマー

 ミーシャは、咄嗟とっさに風の鎧を全身にまとって背後へと跳んだ。

 だが、

「遅いよ!」

 とてもではないが、剣術の心得があるとは思えない乱暴な一撃。

 だが、それがミーシャの肩口を掠って、中空に赤い血が飛び散る。

「くっ……」

 ミーシャは思わずうめく。

 傷口を押さえた指先の感触は冷たい。傷口が凍り付いている。

 態勢を整えようとするミーシャ。だが、間髪入れずに銀色の髪を振り乱して、ダークエルフが再び大剣を振りかぶった。

「フェンリルが教えてくれた。風の精霊王は近接戦闘インファイトが苦手!」

 確かに風の精霊魔法には、武器を具現化するようなものはない。

「ジニ! お願い!」

 剣が振り下ろされるまさにその瞬間、強い横風がミーシャ自身を吹き飛ばし、ダークエルフの振るった剣は虚しく空を斬る。

 態勢を崩すダークエルフ。それを見据えて、ミーシャは叫んだ。

「喰らいなさいよっ!! 振動波ウェイブッ!」

 ミーシャを中心に、三百六十度全方位に向かって衝撃波が走った。

 ダークエルフは身を守ろうと、慌てて剣をかざす。

 だが、剣で受け止めきれる物ではない。

「きゃぁあああああ!」

 氷の大剣は弾き飛ばされて、ダークエルフは頭から大地へと墜ちて行く。

「ざまぁみろぉ!」

 ミーシャが勝ち誇る様な声を上げた途端、ダークエルフは落下の途中でピタリと動きを止めると、再び宙へと浮かび上がり始めた。

「うぅ……もう、しぶといわね」

 だが、見るからにダークエルフの方がダメージが大きい。

 彼女は肩で息をしながら、ミーシャの事を睨みつけた。

「……もう許さない!」

 途端に、ダークエルフの周囲で一気に気温が落ちた。

 目に見える程の膨大な魔力の放出。

 空気中の水分が、一気に凍り付いてダイヤモンドダストが空を埋め尽くす。

 そして、それが寄り集まって直径数十メートルはある巨大な氷柱を形作っていく。

「バ、バカじゃないの! そんな規模の魔法を使ったら、あんたの味方も巻き込むことになるわよ!」

「味方じゃない。利用しているだけ。別に死んでも、くーは問題ない」

 ダークエルフの表情に、躊躇ちゅうちょするような様子は無い。

 無論、魔物が巻き込まれるのは構わない。

 だが、ミーシャの背後には城壁がある。

 あんなものを喰らったら、それも一気に崩れ落ちるだろう。

「死ねぇええええ! エルフ!」

 ミーシャは真っ直ぐに落下してくる氷柱を睨みつけて、大声を張り上げた。

「死ぬかボケェええええええええええ!」

 下品と言うなかれ。生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。

 その瞬間、彼女の眼前に巨大な透明の球体が発生する。

 それは余りにも高密度に圧縮された酸素の塊。

 氷柱の先端が球体に突き刺さった途端、それは一気に破裂した。

「うぁあああああああああああ!」

「きゃあああああ!」

 熱を伴わない激しい爆発。二人はそれぞれに爆風に吹き飛ばされ、ミーシャは勢いよく城壁に叩きつけられた。

 風の鎧を纏っているとは言っても、並大抵の衝撃ではない。

 身体がバラバラになってしまったような錯覚を覚えながら、ミーシャは遠のきそうになる意識を必死に繋ぎ止める。

 そして、そのまま壁面を滑り落ちる様に、どさりと地面に落ちると、魔物の群れが彼女の方へと殺到してくるのが見えた。

 こんなにあっさり終わっちゃうんだ……。

 ミーシャは他人事ひとごとのように胸の内でそう呟く。

 身体はほとんど動かせそうにない。

 あちこちから、血が滴り落ちているような感覚がある。

 その時、くらい視界の中に、飛び込んでくる影があった。

 それはミーシャを背にして、魔物達に立ちはだかる。

「レイ……ボーン?」

「喋らなくていい」

 レイボーンは彼女を振り返って一つ頷くと、すぐに魔物達を見据える。そして、大きく口を開いた。

 途端に口から噴き出した蒼い炎が、迫りくる魔物達を追い立てる。

 慌てて逃げ惑う魔物達。

 だが、次の瞬間。

 パァァアアアアン! 

 と、やけに軽い破裂音が響き渡って、レイボーンの頭が弾け飛んだ。

「レ、レイボーン!?」

 意識が遠のきかけていたミーシャも、思わず目を丸くする衝撃の光景。

 遠巻きに取り囲んでいる魔物達も、どこか戸惑うような雰囲気を醸し出して、硬直していた。

 そりゃあ、前触れも無く頭が吹っ飛んだら、誰だってビックリする。

 だが、頭と右腕の無い骨。当の本人はまるで何事も無かったかのように、剣を構えて尚も魔物達を威嚇する。

 そして、ミーシャの脳裏にレイボーンの声が響いた。

 ――ミーシャ、間に合って良かった。

「レ、レイボーン、間に合ったって……アンタ、大丈夫なの? それ?」

 ――問題ない。

 誰がどう見ても問題がない筈がないのだが、当人の声に淀みは無い。

「でも……もう無理よね。アンタもそんなだし、私ももう……限界」

 ミーシャは眼の端に涙を貯めながら、弱々しく、そう呟いた。

 滲んだ視界に、ゆっくりと近づいてくる魔物の群れが映る。

 血塗れではあるが、宙空から勝ち誇った顔で見下ろすダークエルフの姿が見えた。

 だが、次の瞬間、

 レイボーンは左手に握った剣。その切っ先を真上へと向けた。

 ――いや、

 途端に、ミーシャがもたれ掛かっている城壁が小刻みに揺れた。

 その振動が次第に大きくなって、大地が音を立てて震える。

 目の前の魔物の群れから、戸惑うような声が響き始め、背後で、大きな水音が聞こえた。

 大瀑布のような盛大に水が滴る音。

 海面を突き上げて巨大な物が浮かび上がってくる音。

 宙空のダークエルフは、怯えるような顔で目を見開いている。

 そして、王都の上に巨大な影が落ちた。
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