悪役令嬢になった私は運命に抗う

花咲千之汰

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レイモンドが立ち去ってから暫くして、リーフは私に初めて出会った頃の話をしてくれた。

『僕らが初めてオリヴィアに会ったのはまだ君が一歳になるかならないかの頃だったんだ。でね、最初は僕ら自身君には一切興味もないしよく泣くから煩い存在だなって思ってた。けど、君はあの頃から僕らが見えてたんだ……』

そこまで言ったところでリーフは私の頭に手を乗せると優しく微笑みながらさらに言葉を続ける。

『……本当に、君のいた揺り籠をのぞき込んだのは気まぐれだった。それなのに君ったら例外なく人間にも動物にも普通なら見えないはずの僕らを見て嬉しそうに僕らに笑いかけて迷いなくこっちに手を伸ばしてきたんだよ?あれには流石に滅多に驚かない僕らもびっくりしたよ』

途端にケラケラと片手をお腹に添えて笑うリーフ。

この際に思わず「本当に彼らに昔は感情はなかったのだろうか」という疑問が浮かんだのは仕方ない。

私はじとりとした瞳をリーフに向けながら『あはは、ごめんごめん』なんていいながら次の瞬間にはその明るい表情に影を落とした彼が口にした私の知らない過去を聞いて目を見開いた。

『まあ、びっくりするってこともあの日が初めてだったけど一気に沢山の感情を知ったのは君が二歳の頃だったかな……?その頃に君が何処ぞの汚らしい悪党共に誘拐されたんだ。もう、本当にあの時は今まで感じたことない感情が沢山溢れて僕ら全員頭が痛くなったよ』

幼い頃にオリヴィア・ローズマリーが誘拐された、そんな内容を前世の私は小説内で書いた覚えはない。

私は優しく自身の頭を撫でながら髪を手で梳く彼にその誘拐に関しての話を尋ねてみた。

「リーフ、その二歳だった頃の私の誘拐事件というのは父様や母様は……?」

『知ってるよ。僕らが君が攫われたってことを知ったのはこの屋敷のメイドやら執事やら君の両親が騒いでたからだし。まあ、誘拐されたその日に僕らが君を連れてここに戻ったから君の両親達からすると攫われた筈の娘が気が付いたら屋敷に戻ってきたってことでとてつもなく不思議なことだったとは思うけど』

「不思議どころで済めばいいのだけれど……。それにその事件の当事者である私がそれを知らないというのも少し……」

『でもそれはきっとオリヴィアを不安にさせないためだよ。僕らが君の親だったとしても多分そうするだろうし』

「……まあ、それもそうね」

『そうそう、それにあれからもう何年も経ってるんだから今更そんな昔のこと蒸し返したところで君は僕らのおかげで無傷で尚且つ上機嫌な状態でここに帰って来れた訳だし!』

リーフはそういうなりへらりと笑い、私もそれもそうかと頷く。

「まぁ、今更だけど助けてくれてありがとう」

『いえいえ、オリヴィアの為なら例え火の中水の中!』

「怪我はしないようにね?」

『勿論さ、僕らはそうそう怪我なんてしないよ』

私はポンポンと自身の頭を撫でた彼を見上げるとふわりと風に舞った髪の毛を整えながら「ならいいわ」と答えた。


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