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『彼』の真実
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彼等は皆混乱していた。
「やめて!ちくたたまはわるくない!」
「はやくだして!ほんとうにしんじゃう!ちくたたまがしんじゃうよおっ!」
「ちくたたまー!ちくたたまー!」
ボロボロと大粒の涙を零し、口々に言い募るのは全て下位の聖獣達だった。
見つめる先は一つ。
水の球体に閉じ込められたまま、とうとうピクリとも動かなくなってしまった一体の聖獣。
人型の姿のまま力無く水球に揺蕩う大好きな彼に、多くの下位聖獣達が必死になって呼びかける。
けれど、もう………。
もともと色白の肌が今は青白くなっていた。
あれだけ激しく口から漏れていた息も、今は気泡一つ吐き出さない。
苦しさにもがいてた体は、ただ静かに水に抱かれていた。
………誰の目にも、彼の死は明らかであった。
「ちくたたまっ…」
「やだっいやだよ、ちくたたま…っ」
「しんじゃヤダ!」
「おめめあけて!」
「ちくたたまぁ!」
ちいさな下位の聖獣達が懇願するも、その声はもう彼には届かない。
…いつも、嫌々面倒くさそうにしながらも、最後には彼等の頼みを聞いてくれたやさしいちくたは、もうどこにもいないのだ。
「ちくた…たま…っ…」
「しん、しんじゃった…」
「ちくたたま…ひっく、しんじゃったあ」
「…わるく、ないのにっ」
「そうだ…っ。ちくたたまは、なにもわるくなかったのに…!」
「わるいのはアイツらだ!」
「ちくたたまはまちがえでころされた!」
「うみのせいじゅうおうさまに、ころされた!」
泣きながら言い募ったちいさな下位の聖獣達の言葉に、注目が二手に集まる。
一方は“アイツら”と視線を向けられた、いつもちくたと自分達に嫌がらせをしていた数体の聖獣等。
もう一方は、仕組まれた誤解から、彼等の目の前で大好きなちくたを殺めてしまった海を統べる聖獣の王へと。
すると、一体の水鳥の聖獣が王の元へと泣きながら進み出た。
「とうさま…、ちがうのです、とうさま」
嗚咽混じりに、ちいさな水鳥の聖獣が言った。
「ボクをこんなめにあわせたのは、みんなのいうアイツらなんですっ…」
「ちくたたまは…アイツらからボクをかばって、おられたはねをなおしてくれたのですっ…。むしろボクをたすけてくれたのです!」
ちいさな水鳥の聖獣の言葉に周囲が一斉にざわめいた。
知らされた事実に非難を口にする者。
己の悪事を暴露され焦る者。
死んだ聖獣の意外な一面に驚愕する者。
そして、自らの犯した罪に深く嘆き、悲しみ、後悔する者。
この場にいるほぼ全ての聖獣達が口々に非難、或いは驚愕を露にしている中で、ただ一体、その切れ長の双眸を瞠ったまま微動だに出来ない者がいた。
…それは、額にちくたと同じ聖紋を持つ、黒虎の聖獣であった。
これほどうるさいざわめきも、黒虎の耳には届いてなかった。
聞こえるのは痛いほどに脈打つ自身の鼓動の音だけ。
彼の刻だけ止まってしまったかのように、何もかもが無音だった。
(…死んだ?…あいつが…?)
既に目の当たりにしていた事実を反芻した途端、鋭い痛みが走った。
それは胸だったのか、額だったのか…。
わからない。けれど、急に上手く呼吸が出来なくなった。
…───彼は、黒虎にとって良い印象のない存在だった。
迷惑な存在だった。
ずっと疎ましく思っていた。
消えて欲しいとすら、思ったくらいだった。
それなのに─。
(だからと言って…何故…あいつが本当に死ななければ、ならなかった……?)
本当に消えてしまった今、どうしてこんなにも大きな喪失感を自分は覚えているのか…。
胸に、底が見えないほど深い穴がポッカリ空いてしまったかのような感覚に、陥っているのか。
“わからない”。
わからないのに、どうしようもない痛みだけが、黒虎の中に激しく渦巻いていた。
不意に脳裏を過ったのは彼との出会い。
初めて言葉を交わした、あの出会いの日。
(…あいつは、あの日、…俺になんと言った…?)
それは偶然の出会いでもあった。
同日同時刻、たまたま同時に聖樹の元を訪れた…互いに誕生して間もなかった頃の自分達。
『天荒。こうして聖樹に同じ聖紋を与えられた者同士、ぼくは君と始祖様達のように…比翼連理になれたらと、思っている』
(…それに対して…、俺は…なん、と……)
『…フン。なにが比翼連理だ、くだらない』
『こんな聖紋がなんだと言うのだ。所詮はただの選択肢の一つに過ぎないだけだろう。自分が番う相手は、自分で見つける。聖樹の紋になど縛られる気はない』
…今思えばなんてひどい言葉を初対面の相手にかけたのだろうかと思う。
彼は……ほんの少しだけ緊張した面持ちだったのに。
それ以上にとても、真剣な眼差しをしていたと言うのに。
(俺は…っ、…なんて言葉をあいつに…っ…)
今思えば、あの時の彼はただ、純粋な想いを…自分に向けてくれていただけだったように思う。
それなのに、たかが聖紋如きでこの自分を縛ろうとするのかと、あの時の己はなんて傲慢で浅はかな勘違いをし、聖樹に選ばれし『片割れ』を冷たく突き放したりしてしまったのか。
(ちぐ、さ…っ…!すまない、千種っ…!!)
その言葉はもう、一番届けたい者には届かない。
二度と届けられない───。
『…上位の聖獣のなかでもぼくなんて最下層だけど、君の隣に並んでも恥ずかしいって思われないように、頑張るからさ…!』
天荒の世界から色彩が消え失せた瞬間だった。
『だから、君も…っ、………君の選択肢の一つに、ぼくのことも入れておいてくれたら…うれしいな…』
どうして今更、思い出したりしたのだろう。
そう言って微笑った、あの時の千種の寂しそうな笑顔を。
もう二度と、目を開けることのない自身の『片割れ』の、ひどく傷付いた笑顔を…、どうして…今更─────。
【2025.09.10】
彼等は皆混乱していた。
「やめて!ちくたたまはわるくない!」
「はやくだして!ほんとうにしんじゃう!ちくたたまがしんじゃうよおっ!」
「ちくたたまー!ちくたたまー!」
ボロボロと大粒の涙を零し、口々に言い募るのは全て下位の聖獣達だった。
見つめる先は一つ。
水の球体に閉じ込められたまま、とうとうピクリとも動かなくなってしまった一体の聖獣。
人型の姿のまま力無く水球に揺蕩う大好きな彼に、多くの下位聖獣達が必死になって呼びかける。
けれど、もう………。
もともと色白の肌が今は青白くなっていた。
あれだけ激しく口から漏れていた息も、今は気泡一つ吐き出さない。
苦しさにもがいてた体は、ただ静かに水に抱かれていた。
………誰の目にも、彼の死は明らかであった。
「ちくたたまっ…」
「やだっいやだよ、ちくたたま…っ」
「しんじゃヤダ!」
「おめめあけて!」
「ちくたたまぁ!」
ちいさな下位の聖獣達が懇願するも、その声はもう彼には届かない。
…いつも、嫌々面倒くさそうにしながらも、最後には彼等の頼みを聞いてくれたやさしいちくたは、もうどこにもいないのだ。
「ちくた…たま…っ…」
「しん、しんじゃった…」
「ちくたたま…ひっく、しんじゃったあ」
「…わるく、ないのにっ」
「そうだ…っ。ちくたたまは、なにもわるくなかったのに…!」
「わるいのはアイツらだ!」
「ちくたたまはまちがえでころされた!」
「うみのせいじゅうおうさまに、ころされた!」
泣きながら言い募ったちいさな下位の聖獣達の言葉に、注目が二手に集まる。
一方は“アイツら”と視線を向けられた、いつもちくたと自分達に嫌がらせをしていた数体の聖獣等。
もう一方は、仕組まれた誤解から、彼等の目の前で大好きなちくたを殺めてしまった海を統べる聖獣の王へと。
すると、一体の水鳥の聖獣が王の元へと泣きながら進み出た。
「とうさま…、ちがうのです、とうさま」
嗚咽混じりに、ちいさな水鳥の聖獣が言った。
「ボクをこんなめにあわせたのは、みんなのいうアイツらなんですっ…」
「ちくたたまは…アイツらからボクをかばって、おられたはねをなおしてくれたのですっ…。むしろボクをたすけてくれたのです!」
ちいさな水鳥の聖獣の言葉に周囲が一斉にざわめいた。
知らされた事実に非難を口にする者。
己の悪事を暴露され焦る者。
死んだ聖獣の意外な一面に驚愕する者。
そして、自らの犯した罪に深く嘆き、悲しみ、後悔する者。
この場にいるほぼ全ての聖獣達が口々に非難、或いは驚愕を露にしている中で、ただ一体、その切れ長の双眸を瞠ったまま微動だに出来ない者がいた。
…それは、額にちくたと同じ聖紋を持つ、黒虎の聖獣であった。
これほどうるさいざわめきも、黒虎の耳には届いてなかった。
聞こえるのは痛いほどに脈打つ自身の鼓動の音だけ。
彼の刻だけ止まってしまったかのように、何もかもが無音だった。
(…死んだ?…あいつが…?)
既に目の当たりにしていた事実を反芻した途端、鋭い痛みが走った。
それは胸だったのか、額だったのか…。
わからない。けれど、急に上手く呼吸が出来なくなった。
…───彼は、黒虎にとって良い印象のない存在だった。
迷惑な存在だった。
ずっと疎ましく思っていた。
消えて欲しいとすら、思ったくらいだった。
それなのに─。
(だからと言って…何故…あいつが本当に死ななければ、ならなかった……?)
本当に消えてしまった今、どうしてこんなにも大きな喪失感を自分は覚えているのか…。
胸に、底が見えないほど深い穴がポッカリ空いてしまったかのような感覚に、陥っているのか。
“わからない”。
わからないのに、どうしようもない痛みだけが、黒虎の中に激しく渦巻いていた。
不意に脳裏を過ったのは彼との出会い。
初めて言葉を交わした、あの出会いの日。
(…あいつは、あの日、…俺になんと言った…?)
それは偶然の出会いでもあった。
同日同時刻、たまたま同時に聖樹の元を訪れた…互いに誕生して間もなかった頃の自分達。
『天荒。こうして聖樹に同じ聖紋を与えられた者同士、ぼくは君と始祖様達のように…比翼連理になれたらと、思っている』
(…それに対して…、俺は…なん、と……)
『…フン。なにが比翼連理だ、くだらない』
『こんな聖紋がなんだと言うのだ。所詮はただの選択肢の一つに過ぎないだけだろう。自分が番う相手は、自分で見つける。聖樹の紋になど縛られる気はない』
…今思えばなんてひどい言葉を初対面の相手にかけたのだろうかと思う。
彼は……ほんの少しだけ緊張した面持ちだったのに。
それ以上にとても、真剣な眼差しをしていたと言うのに。
(俺は…っ、…なんて言葉をあいつに…っ…)
今思えば、あの時の彼はただ、純粋な想いを…自分に向けてくれていただけだったように思う。
それなのに、たかが聖紋如きでこの自分を縛ろうとするのかと、あの時の己はなんて傲慢で浅はかな勘違いをし、聖樹に選ばれし『片割れ』を冷たく突き放したりしてしまったのか。
(ちぐ、さ…っ…!すまない、千種っ…!!)
その言葉はもう、一番届けたい者には届かない。
二度と届けられない───。
『…上位の聖獣のなかでもぼくなんて最下層だけど、君の隣に並んでも恥ずかしいって思われないように、頑張るからさ…!』
天荒の世界から色彩が消え失せた瞬間だった。
『だから、君も…っ、………君の選択肢の一つに、ぼくのことも入れておいてくれたら…うれしいな…』
どうして今更、思い出したりしたのだろう。
そう言って微笑った、あの時の千種の寂しそうな笑顔を。
もう二度と、目を開けることのない自身の『片割れ』の、ひどく傷付いた笑顔を…、どうして…今更─────。
【2025.09.10】
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