【死に戻りのひねくれ白狐はそれでも比翼連理の伴侶が欲しい】

清白(すずしろ)

文字の大きさ
1 / 12

『彼』の真実

しおりを挟む
.




 彼等はみな混乱していた。



「やめて!たまはわるくない!」

「はやくだして!ほんとうにしんじゃう!たまがしんじゃうよおっ!」

たまー!たまー!」



 ボロボロと大粒の涙を零し、口々に言い募るのは全て下位の聖獣達だった。

 見つめる先は一つ。

 水の球体に閉じ込められたまま、とうとうピクリとも動かなくなってしまった一体の聖獣。
 人型の姿のまま力無く水球に揺蕩う大好きな彼に、多くの下位聖獣達が必死になって呼びかける。

 けれど、もう………。

 もともと色白の肌が今は青白くなっていた。
 あれだけ激しく口から漏れていた息も、今は気泡一つ吐き出さない。

 苦しさにもがいてた体は、ただ静かに水にいだかれていた。

 ………誰の目にも、彼の死は明らかであった。



たまっ…」

「やだっいやだよ、たま…っ」

「しんじゃヤダ!」

「おめめあけて!」

たまぁ!」



 ちいさな下位の聖獣達が懇願するも、その声はもう彼には届かない。

 …いつも、嫌々面倒くさそうにしながらも、最後には彼等の頼みを聞いてくれたは、もうどこにもいないのだ。



…たま…っ…」

「しん、しんじゃった…」

たま…ひっく、しんじゃったあ」

「…わるく、ないのにっ」

「そうだ…っ。たまは、なにもわるくなかったのに…!」

「わるいのはアイツらだ!」

たまはまちがえでころされた!」

「うみのせいじゅうおうさまに、ころされた!」



 泣きながら言い募ったちいさな下位の聖獣達の言葉に、注目が二手に集まる。

 一方は“アイツら”と視線を向けられた、いつもと自分達に嫌がらせをしていた数体の聖獣等。

 もう一方は、仕組まれた誤解から、彼等の目の前で大好きなあやめてしまった海を統べる聖獣の王へと。

 すると、一体の水鳥の聖獣が王の元へと泣きながら進み出た。



「とうさま…、ちがうのです、とうさま」



 嗚咽混じりに、ちいさな水鳥の聖獣が言った。



「ボクをこんなめにあわせたのは、みんなのいうアイツらなんですっ…」



たまは…アイツらからボクをかばって、おられたはねをなおしてくれたのですっ…。むしろボクをたすけてくれたのです!」



 ちいさな水鳥の聖獣の言葉に周囲が一斉にざわめいた。
 知らされた事実に非難を口にする者。
 己の悪事を暴露され焦る者。
 死んだ聖獣の意外な一面に驚愕する者。
 そして、自らの犯した罪に深く嘆き、悲しみ、後悔する者。

 この場にいるほぼ全ての聖獣達が口々に非難、或いは驚愕を露にしている中で、ただ一体、その切れ長の双眸を瞠ったまま微動だに出来ない者がいた。

 …それは、額にと同じ聖紋を持つ、黒虎の聖獣であった。

 これほどうるさいざわめきも、黒虎の耳には届いてなかった。
 聞こえるのは痛いほどに脈打つ自身の鼓動の音だけ。
 彼の刻だけ止まってしまったかのように、何もかもが無音だった。

(…死んだ?…あいつが…?)

 既に目の当たりにしていた事実を反芻した途端、鋭い痛みが走った。
 それは胸だったのか、額だったのか…。
 わからない。けれど、急に上手く呼吸が出来なくなった。

 …─⁠─⁠─⁠彼は、黒虎にとって良い印象のない存在だった。

 迷惑な存在だった。

 ずっと疎ましく思っていた。

 消えて欲しいとすら、思ったくらいだった。

 それなのに─。

(だからと言って…何故…あいつが本当に死ななければ、ならなかった……?)

 本当に消えてしまった今、どうしてこんなにも大きな喪失感を自分は覚えているのか…。
 胸に、底が見えないほど深い穴がポッカリ空いてしまったかのような感覚に、陥っているのか。

 “わからない”。

 わからないのに、どうしようもない痛みだけが、黒虎の中に激しく渦巻いていた。

 不意に脳裏をよぎったのは彼との出会い。
 初めて言葉を交わした、あの出会いの日。

(…あいつは、あの日、…俺になんと言った…?)

 それは偶然の出会いでもあった。
 同日同時刻、たまたま同時に聖樹の元を訪れた…互いに誕生して間もなかった頃の自分達。



天荒てんこう。こうして聖樹に同じ聖紋を与えられた者同士、ぼくは君と始祖様達のように…比翼連理になれたらと、思っている』



(…それに対して…、俺は…なん、と……)



『…フン。なにが比翼連理だ、くだらない』

『こんな聖紋がなんだと言うのだ。所詮はただの選択肢の一つに過ぎないだけだろう。自分がつがう相手は、自分で見つける。聖樹の紋になど縛られる気はない』



 …今思えばなんてひどい言葉を初対面の相手にかけたのだろうかと思う。

 彼は……ほんの少しだけ緊張した面持ちだったのに。

 それ以上にとても、真剣な眼差しをしていたと言うのに。

(俺は…っ、…なんて言葉をあいつに…っ…)

 今思えば、あの時の彼はただ、純粋な想いを…自分に向けてくれていただけだったように思う。

 それなのに、たかが聖紋如きでこの自分を縛ろうとするのかと、あの時の己はなんて傲慢で浅はかな勘違いをし、聖樹に選ばれし『片割れ』を冷たく突き放したりしてしまったのか。

(ちぐ、さ…っ…!すまない、千種っ…!!)

 その言葉はもう、一番届けたい者には届かない。

 二度と届けられない─⁠─⁠─⁠。





『…上位の聖獣のなかでもぼくなんて最下層だけど、君の隣に並んでも恥ずかしいって思われないように、頑張るからさ…!』





 天荒の世界から色彩いろが消え失せた瞬間だった。





『だから、君も…っ、………君の選択肢の一つに、ぼくのことも入れておいてくれたら…うれしいな…』





 どうして今更、思い出したりしたのだろう。

 そう言って微笑わらった、あの時の千種ちぐさの寂しそうな笑顔を。



 もう二度と、目を開けることのない自身の『片割れ』の、ひどく傷付いた笑顔を…、どうして…今更─────。



【2025.09.10】
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...