3 / 12
二度目の聖紋授受
しおりを挟む
.
長い悪夢を見ていたのか、死に戻ったのか。
千種には判断がつかないままであったが、目を覚まし、どうにもならない現実を認識すると彼は急いで全方向水晶でびっしりの洞窟を後にした。
最初…一度目とでも言うのだろうか、誕生した時の彼は当然だが目にするもの全てが初めてで、興味を引かれるままにふらふらとこの洞窟を後にした。
それから暫くして誕生したのが天荒だった。
地で生まれた聖獣は漏れなくまず聖樹の元へ向かう。
そして聖紋と呼ばれる聖獣としての証を体のどこかに授かるのだ。
この紋がなければ、どれほど強大な力を持っていようとただの宝の持ち腐れ状態となる。
聖樹は、聖獣界の始祖が眠る場所へ繋がるとされていた。
そこで化身とも呼べる聖樹から誕生の祝福を受け、初めて正式に個を認められ、迎え入れられる。
聖紋を授かることにより、持って生まれた能力を遺憾無く自由自在に使うことが許されるとされているのだった。
一度目の時、千種は聖樹の元に向かうまでが少しばかり長かった。
目にするもの全てが新鮮で珍しく、ふらふらしてた。結果、後から誕生した天荒と聖樹で鉢合わせた。
あの時は全て引っ括めて運命だと歓喜したが………。
(今度はさっさと行く!)
一切脇目は振らなかった。
洞窟を出ると森の中を走り抜け、そして目指したのは一本の巨木。
本来なら聖樹によって導かれるその道筋も、千種は当たり前のように知っていた。
なので、一度目が嘘のようにあっさりと辿り着いていた。
淡い青白い光を放っているその大きな木は、生い茂る葉も立派な幹も、全体的に薄い緑色をしていた。
当たり前だが記憶の中の聖樹と全く同じ聖樹だ。
二度目だからか緊張はない。
ただ高揚感もなかった。
巨大な聖樹の根元まで歩いて行き、見上げる。
…それで終わりだ。
特別何かをする必要はなかった。
千種へと青白い光が静かに降り注ぐ。
個を認められ祝福された聖獣の体に、そうして聖紋が刻まれる。
前回同様、今回もまた聖紋が浮かび上がった個所が熱を帯び、火傷でもしたかのように熱くなった。
「…っ、…?」
…と、千種の顔が顰められた。
けれどそれは痛かったからではない。
いや、痛いは痛かったのだが………。
「…え?あれ?えっ、な、なんで?」
一瞬で終わった儀式とも呼べない儀式。
前の時、千種の聖紋は左手の平に授けられた。
それなのに今回、左の手の平は真っさらなまま…聖紋の影も形もない。
そのかわり、痛んだ個所は千種にとって少々不可解なところだった。
まあ…聖紋を授けられたことには、間違いはないのだが。
意識すれば体の内にある自身の力を感じられる。
ただ何故今度はこんなところに聖紋が刻まれたのか…、それが千種には全く理解出来なかった。
自然とそこを手で押さえていた千種の狐耳が、不意にピクリと震える。
自分がやって来たのと同じ方向…、──つまり水晶の洞窟の方からこちらへと、真っ直ぐにやって来る足音を拾ったのだ。
誰なのかは考えなくともわかった。
天荒だ。
面布の下の千種の顔が強張る。
(まずい、早く離れないと…!)
千種の足が咄嗟に地面を蹴る。
巨大な聖樹の向こうに駆け足で回り込み、そのまま森の中へと走り去った。
前回と違う個所に聖紋が浮かび上がったのは気になったが、それよりも今は一刻も早くこの場から去らなければと、そっちの方に必死になっていた。
ひらり─。
長い裾を、袖を、領巾のように靡かせて、真っ白い千種が濃緑の森の奥へと逃げて行った。
ひらり、ひらひら─。
ゆらり、ゆらゆら─。
逆に目立っている自覚もないその後ろ姿を、自分の次に生まれたばかりの黒虎が…じっと見つめていたとも知らずに。
【2025.09.12】
長い悪夢を見ていたのか、死に戻ったのか。
千種には判断がつかないままであったが、目を覚まし、どうにもならない現実を認識すると彼は急いで全方向水晶でびっしりの洞窟を後にした。
最初…一度目とでも言うのだろうか、誕生した時の彼は当然だが目にするもの全てが初めてで、興味を引かれるままにふらふらとこの洞窟を後にした。
それから暫くして誕生したのが天荒だった。
地で生まれた聖獣は漏れなくまず聖樹の元へ向かう。
そして聖紋と呼ばれる聖獣としての証を体のどこかに授かるのだ。
この紋がなければ、どれほど強大な力を持っていようとただの宝の持ち腐れ状態となる。
聖樹は、聖獣界の始祖が眠る場所へ繋がるとされていた。
そこで化身とも呼べる聖樹から誕生の祝福を受け、初めて正式に個を認められ、迎え入れられる。
聖紋を授かることにより、持って生まれた能力を遺憾無く自由自在に使うことが許されるとされているのだった。
一度目の時、千種は聖樹の元に向かうまでが少しばかり長かった。
目にするもの全てが新鮮で珍しく、ふらふらしてた。結果、後から誕生した天荒と聖樹で鉢合わせた。
あの時は全て引っ括めて運命だと歓喜したが………。
(今度はさっさと行く!)
一切脇目は振らなかった。
洞窟を出ると森の中を走り抜け、そして目指したのは一本の巨木。
本来なら聖樹によって導かれるその道筋も、千種は当たり前のように知っていた。
なので、一度目が嘘のようにあっさりと辿り着いていた。
淡い青白い光を放っているその大きな木は、生い茂る葉も立派な幹も、全体的に薄い緑色をしていた。
当たり前だが記憶の中の聖樹と全く同じ聖樹だ。
二度目だからか緊張はない。
ただ高揚感もなかった。
巨大な聖樹の根元まで歩いて行き、見上げる。
…それで終わりだ。
特別何かをする必要はなかった。
千種へと青白い光が静かに降り注ぐ。
個を認められ祝福された聖獣の体に、そうして聖紋が刻まれる。
前回同様、今回もまた聖紋が浮かび上がった個所が熱を帯び、火傷でもしたかのように熱くなった。
「…っ、…?」
…と、千種の顔が顰められた。
けれどそれは痛かったからではない。
いや、痛いは痛かったのだが………。
「…え?あれ?えっ、な、なんで?」
一瞬で終わった儀式とも呼べない儀式。
前の時、千種の聖紋は左手の平に授けられた。
それなのに今回、左の手の平は真っさらなまま…聖紋の影も形もない。
そのかわり、痛んだ個所は千種にとって少々不可解なところだった。
まあ…聖紋を授けられたことには、間違いはないのだが。
意識すれば体の内にある自身の力を感じられる。
ただ何故今度はこんなところに聖紋が刻まれたのか…、それが千種には全く理解出来なかった。
自然とそこを手で押さえていた千種の狐耳が、不意にピクリと震える。
自分がやって来たのと同じ方向…、──つまり水晶の洞窟の方からこちらへと、真っ直ぐにやって来る足音を拾ったのだ。
誰なのかは考えなくともわかった。
天荒だ。
面布の下の千種の顔が強張る。
(まずい、早く離れないと…!)
千種の足が咄嗟に地面を蹴る。
巨大な聖樹の向こうに駆け足で回り込み、そのまま森の中へと走り去った。
前回と違う個所に聖紋が浮かび上がったのは気になったが、それよりも今は一刻も早くこの場から去らなければと、そっちの方に必死になっていた。
ひらり─。
長い裾を、袖を、領巾のように靡かせて、真っ白い千種が濃緑の森の奥へと逃げて行った。
ひらり、ひらひら─。
ゆらり、ゆらゆら─。
逆に目立っている自覚もないその後ろ姿を、自分の次に生まれたばかりの黒虎が…じっと見つめていたとも知らずに。
【2025.09.12】
12
あなたにおすすめの小説
僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ
MITARASI_
BL
I
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
Ⅱ
高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。
別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。
未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。
恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。
そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。
過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。
不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。
それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。
高校編のその先を描く大学生活編。
選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。
続編執筆中
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる