婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
78 / 149
連載

124 馬車

しおりを挟む
「おおっ!? 何々? 予想以上の広さなんですけど」
「わっ、本当だ」

 アリリアナに続いて馬車の中に入る。馬車の大きさは外から見たら四人乗りで、後は荷物を少し載せられるくらいに見えたけど、実際に入ってみるとかなり広くて、数週間分の荷物を置いても八人が普通に寛げるくらいある。

「あの、これって空間魔法が?」
「左様です。他にも外部の温度に反応して発動する平温維持の魔法が掛かっており、どの国、どの季節でも、快適にお過ごし頂けます。また重量に応じて発動する軽量化の魔法、馬車への攻撃を緩和させる拡散魔法など多種多様な術式が組み込まれております」
「ちょっとセンカ、この椅子超フカフカなんですけど」
「私は椅子は硬めの方が好きなんだが……むっ。なるほど。確かにいいな」
「でしょ~。ほら、ドロシーもおいでよ。すっごい良い感じよ」
「う、うん。ちょっと待ってね。あの、空間拡張の術式についてですが、スペルアウトの対策について伺っても?」

 常時展開型の魔法は何かの拍子で意図せずに破れた時が怖い。空間魔法を用いた収納袋や建築物は大勢の魔法使いが昔から改良し続けているけど、狭い空間を魔法で無理に広げた結果、術式崩壊、つまりはスペルアウトで悲惨な結果になった例は枚挙にいとまがない。

「スペルアウトの際には術式が崩壊する際の魔力を応用して壁四枚に組み込まれた魔銀が伸びて、馬車の大きさを空間拡張時と同等のモノへと変えます。ですので駐車の際には左右に三メートル、可能であれば五メートルの間隔をお開けください」
「あれ? 何でこの席だけ一つ寂しく前にある感じなわけ?」
「ひょっとして魔動車としての機能も備えてるんじゃないのか? ほら、ここの壁、術式があるぞ」
「うっそ? じゃあシロ達に引いてもらわなくても魔力で動いちゃうわけ? 便利すぎでしょ」
「確かに便利ではあるが、魔動車自体は長距離の移動には向いてないからな。冒険が目的ならやはり普段は馬車として使用するのが一番だろ」
「まぁ、それはね。でも利便性うんぬん以前に魔動車って一回運転してみたかったのよね。だから超ラッキー」
「一部の好事家を除けば貴族くらいしか持ってないからな。確かに中々ない機会ではある」
「でしょ? ねぇねぇ、ドロシー。これ見て、凄いのがある感じよ」
「え? うん。もうちょっと待って」

 このままこの馬車で決まりそうだけど、その前によく確認しておかなきゃ。ないとは思うけど、王子と婚約破棄したことをお父様が根に持ってて、この馬車に嫌がらせ目的の仕掛けがあったら大変。私とお父様の確執にアリリアナ達は絶対巻き込めない。

「あの、スペルボードは何処ですか?」

 馬車自体はしっかりとした作りになってるし、これで術式を統括管理するスペルボードに問題がなければ一安心だ。

「こちらでございます。それとこの指輪をお付けください。馬車の術式を管理するマスターキーでございます」

 馬車の一番後ろへと移動する最中、私は店主さんから魔法文字が細かく刻み込まれた指輪を受け取った。

「魔力を込めてオープンと言えばスペルボードが浮かび上がります」
「オープン」

 馬車の壁に魔法文字が浮かび上がる。

「スペルコードはM言語で構成されてるんだ。……あっ、ウチのもある」

 魔法文字の配列方法として今大陸で最も使われてるのがM言語だけど、お父様はドロテア家独自のD言語を昔からあの手この手で広めようとしている。

「ぬが~。やっぱ動かない感じ」
「だから言ったろ。キー無しでは魔力を流し込めない仕様になってるんだ」
「でもそれだとキー無くした時に不便じゃない? それにこの反応式……なんかいける気がするのよね。ここをこうして、こう? いや……こうか!?」
「おおっ!? 凄いな。魔力が通ったぞ」
「ふふん。アリリアナ船長って呼んでいい感じよ」
「どうして船長なんだ? いや、そんなことよりもどうせなら少し動かしてみたらどうだ?」
「よ~し。……あれ? これどっちの式がアクセルでどっちがブレーキなんだろ?」
「そんなもの、動かしてみたら分かるだろ」
「確かに~。てなわけで出航」
「よし。出航だ」

 キキ~……ガシャン!!

「きゃ!? な、なに?」

 魔法文字の確認してたらいきなり馬車が揺れた。ってか動いた?

「どうして?」

 周囲を見回すとアリリアナと目があった。

「ア、アハハ。沈没船の船長アリリアナで~す」
「せ、船長?」

 何を言ってるんだろ? センカさんはセンカさんで両手を組んで目を瞑り、やっちゃった! みたいな顔してるし。というか私がマスターキー持ってるのにどうやって動かしたのかな? あっ、何とぶつかったのか確認しないと。

 スペルボードを見たから馬車に込められた術式は大体把握出来ている。私はマスターキーに魔力を流した。

「全面透明化」
「弁償はいや~」
「くっ。殺せ」

 アリリアナ達が凄く物騒なことを言ってる。でも、そうか。他の馬車にぶつかった可能性が高いんだよね。……馬車、どれも凄く高そうだったな。

 今更ながらに私がヒヤリとしたものを感じていると、馬車の壁が透明になって外の様子がどこからでも分かるようになった。

 私達の馬車がお尻をぶつけているのは、少し離れた場所に置かれていた、私達が乗っているのと全く同じ馬車だった。

「あ~。よかった~」
「やれやれ。九死に一生だな」

 ホッと息を吐く二人。私も胸を撫で下ろす……のだけど、何だろう? 隣から凄い圧が?

「それでは、予定通りこちらの馬車二点をお引き取りでよろしいですね」
「え? あの……」
「よろしですね?」
「あっ……はい」

 ひびの入った店主さんの笑みを前に、私には頷く以外の選択肢は残されてはいなかった。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。