悪役令嬢として処刑された英雄の息子、最強真祖の眷属となって復讐する

名無しの夜

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7 群れを発見

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「残りは後一人か」

 シャドードックの食事を眺めながら溜め息を付く。逃げた獣人を追って山に入ったのはいいが、思った以上に逃げ足が早くて少し手こずってしまった。

(それにしても、逃げ出した奴は全員が山を目指していたが、ここに何かあるのか?)

 死の恐怖に怯えながらも、目的地があるような獣人達の動きを思い出す。

(最後の一人は……よし、補足できてるな)

 散らばって逃げる獣人共を追わす為にシャドードックの力を分散させて数を増やした。最後の一人を追っているのは、その内の一体だ。

(戦意を失った獣人一人が相手ならあの程度のシャドーで十分だろうが、山の様子を観察がてら先回りしておくか)

 俺は行動を決めると吸血鬼の脚力をもって登山を開始する。もちろん面倒くさいので道を探したりはしない。侵入者を阻むように立ちふさがる山の側面をそのまま垂直に登っていく。

(昼の登山は楽でいいな)

 何せ壁に出来る自分の影を足場にすれば、魔力で体を浮かす必要もないのだ。

(意外と大きな山だが、それでも始元島に比べれば精々散歩コースだ)

 この程度の山なら本気で走れば頂上までそんなに時間も掛からなさそうなので、残りの一人を始末する前に山全体を見てみるのもいいかもしれない。

「……なんだ? 戦闘音?」

 吸血鬼の聴覚が微かに震える空気の振動を捉えた。

「そこそこの数がいるようだが、もしかするとこれか?」

 救いを求めるように山を目指した獣人達の顔が脳裏に浮かんで、俺は音の方向に向かってみた。

「この下か」

 目的の場所にはそう大して時間も掛からずに到着した。

「……やっぱり群れがあったか」

 覗き込んだ崖下は本来の登山ルートのようで、横幅のある整備された山道があり、そこで百を超えるケダモノ共が人間に襲いかかっていた。

(商人……ではないな、どこかの国の兵士か?)

 それもかなり鍛えられた兵のようで、帝国の生物兵器を相手に数で劣りながらも奮闘している。

(特にあの銀髪の女、頭が一つ、いや三つは飛び抜けているな)

 銀色の球体を周囲に浮かして、それを様々な形に変化させて獣人達を殺しまくっている銀髪銀眼の女。あの女がいるからこそ、数でも質でも劣るこの状況で持ちこたえられているのは明白だった。

(他は……あの金髪の騎士と尖り帽子を被った魔術師もやるな)

 おそらくはパートナー同士なのだろう。魔術師が雷を放って多くの獣人を殺しまくって、近づいてくる獣人を金髪の女騎士がこれまた斬りまくってる。

(他は……あの大剣をもった大男と槍をもった奴もやるな)

 金髪の剣士には劣るが、大剣を持った男の一撃は中々に重く、一刀で複数の獣人をほふっている。また槍を持った男は素早くて、倒す数こそ少ないものの、多くの獣人を引きつけていた。

「だがこいつら以外はそろそろキツそうだな」

 他の兵士も人間にしては優秀で、確かに奮闘してはいるのだが、時間が経つにつれて元々のスペック差が大きく出始めている。

「殺されずに捕まる者が増え出したな」

 自分達が勝つことを確信しているのだろう。獣人共はなるべく兵士を殺さずに捕らえ、手際よく縄で縛りあげていく。無論、女のみを。

(数は多いが基本はザコ。今度はシャドーを周囲にキチンと配置しておくか)

 こちらの準備が整えば助けてやるのも吝かではないが、だからと言って知らない奴らの為に焦って飛び出すつもりはなかった。

(ん? 一人だけ妙な奴が混じってるな)

 馬車の上で一人高みの見物を決め込んでいる、黒いコートを着た獣人。奴だけは少しだけ雰囲気が他と違って見えた。

(……動くのか?)

 人間側は兵士の半数以上が捕まるか殺されるかしたが、獣人達も銀髪銀眼の女を中心とした攻撃でかなり殺られている。流石にこれ以上の損耗はマズイと思ったのか、ショーを楽しむ観客のような態度だった黒いコートの獣人が動き出した。

(やはり他の獣人に比べて、ほんの少しだけ強そうだな)

 黒コートの獣人に襲われて、槍をもった男が吹き飛ばされ、大男の大剣が砕かれた。そしてそのまま黒コートは二本のナイフで金髪の女騎士と何度か斬り合って、隙をついて紫色の髪の毛の魔術師を人質にとった。

 ちょっと耳を済ませてみる。

「くっ、卑怯だぞ」

 女騎士が強く歯軋りする。

「いや~。驚きました。貴方達強いですね~。身の程を知らないレジスタンスと思いきや、その力、ひょっとしてヒニア法国の方ですかね~?」
「人質を取った挙げ句、今更そんなことを気にするなんて……。貴方、ザコな上につまらない男ね」

 銀髪銀眼の女が見せた嘲笑は堂に入っており、愉悦に歪んでいた黒コートの顔が一瞬だけ真顔になった。

(こんな状況で大した度胸だな)

 俺とそう年も変わらなさそうなのに、女傑と呼ぶに相応しいあの態度に何となく感心する。

「そんな態度取ってもいいんですかねぇ~。これ、ちゃんと見えてますか~?」

 黒コートは捕らえた魔術師の頬をナイフでペチペチと叩いた。ボスと思わしき男の邪魔をする気はないのか、周りにいる獣人共は一時動きを止めている。

「生憎と、私は貴方程度の男にいいようにされる気はないのよ」

 魔術師の体に魔力が収束していき、そしてーー

「ん~。ダメ、ダメ、ダメですよ~」

 グサリ! とスカートのスリットから覗く生足にナイフが突き刺さった。

「ぐっ!? う……」
「おおっ~。悲鳴を上げないとは根性ありますね~。でも私のナイフが刺さった以上、どのみち貴女は終わりですよ~」
「い、息が臭いから喋らないでもらえるかしら?」

 苦痛に脂汗を流しながらも、魔術師は己を捕らえる獣人を睨み付けた。そんな魔術師を前に、何故か黒コートだけではなく、周りの獣人共までニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。

「な、何かしら?」
「あ~。これは失礼。ただ私のナイフで刺された貴方が、その気丈な顔をどう変えるのか、とって~も、楽しみなんですよ」
「何をいっ……ひゃ!? な? こ、これ……ハァハァ……ま、まさか!?」

 魔術師の顔が急に赤らんだかと思えば、黒コートを睨み付けていた瞳がどこかぼうっとしたものに変わった。

「ふふ。私のナイフにはね、とって~も気持ちよくなるお薬が塗られているんですよ~。とにかく作るのに手間が掛かる薬で、中々量産出来ない貴重品なんですけどね~。効果は見てのとおり、たとえA級の魔術師だろうと抵抗出来ません。困りましたね~。どうします? 貴女、もう私のモノなしでは生きていけなくなりましたよ~」
「だ、だれが、んぁ!? さ、触らないで」

 黒コートに胸を揉まれて魔術師は嫌悪に顔をしかめるが、明らかにその声には先ほどまでの覇気がなかった。

「人質に薬。どうやら貴方はザコと言うよりも、クズと呼んだ方が良かったようね」
「そんなこと仰りますけどね~、騎士や魔術師を無力化するのに薬を打つのは何処の軍部も使う手ですよ~。むしろ痛みに苛まれない分、優しいくらいですよ。もっとも、この薬を打たれた者は強い禁断症状に襲われて、私にナイフで刺して、刺してぇ~、って泣きつくんですけどね~」
「ごめんなさいな。得意気に何かのたまわっているようだけど、クズ語って私理解できないのよ」
「おやおや~? まだ態度を改めてもらえないようですね。ならこれならどうですか~?」

 ビリィイイ!! と、魔術師の服が破られ、銀髪の女の眼が不快そうに細まった。

「怖い顔してないで、早く武装解除した方がいいですよ~。でないと、この子がもっと可愛そうな眼に遭っちゃいますからね?」
「……ドロシー、許してとは言わないわよ」
「ハァハァ……ご、ご武運を。クレーリア、後は、んっ、お、お願いね」
「ああ、任せろ」

 銀髪の周囲に浮かぶ銀の球体から針が生え、黒コートへ剣を向ける女騎士の瞳から涙が零れた。

「ふぅ。どうせ貴方全員私のペットになるのだから、大人しく捕まればいいものを。……まぁ、その方が調教しがいがあるというものですけどね~」

 獣の舌が魔術師の白い肌の上を這う。

(シャドーは全て配置についたし、最後の一人もこちらに向かってきてる。そろそろ殺るか)

 どうやら銀髪と女騎士は人質もろとも黒コートを倒す決意を固めたようだが、やはり出来れば助けたいのか、中々攻撃に移れずにいた。

(来たな。シャドーはそのまま逃亡防止に使うか)

「アニキィイイイ!!」
「ん? 貴方は確か補給を命じた部隊の子ですね~。こんな所でなにやってるんですか~?」
「よし。予定通り順番に始末する」

 俺は逃げてきた獣人を抹殺するべく、崖下へと飛び降りた。

「み、みんな、みんな死んじまった!」
「は~? 貴方何言ってるんですか?」
「バ、バケモノ、奴は、バケーー」

 手刀を一線。獣人の体を頭頂部から股間にかけて真っ二つにする。

「モ、ノ」

 死体となったコイツにもう用はない。振り返りこちらを間抜け面で眺める他の獣人共を見る。

 後ろで血の噴水が上がり二つに別れた肉塊が地面に転がった……頃には既に俺は黒コートの隣に立っていた。

「は? えっ!? な、なんです? なんですアナタハァアアア!?」
「喋るな。息が臭いぞ」
「ぷぎゃあああ!?」

 セブンを彷彿とさせるムカつく面をぶん殴ると、面白いくらい吹っ飛んでいった。奴に捕まっていた魔術師は既に俺の腕の中だ。

 薬でボウッとなった、潤んだ瞳が俺を見上げてくる。

「ハァハァ……あ、貴方は?」
「黙ってろ。おい、この女はお前らの仲間だろ。さっさと受けとれ」
「えっ!? あ、ああ。す、すまない」

 慌てて俺に近付いてきた女騎士が魔術師に手を伸ばすが、魔術師はその手をやんわりと押し戻した。

「だ、ダメよ。もう、勝負は……ハァハァ……見えたわ。わ、私のことは、んっ!? ほ、ほおって、貴方達だけで、に、にげなさい」
「……ドロシー」

(何でもいいから早く受けとれよ)

 親切で助けたのに受け取り拒否されてモヤッとする。

 俺は女騎士の手から剣を奪うと無理矢理魔術師を押し付けた。

「あっ!? お、おい?」
「ハァハァ……どういう、つもりかしら?」
「いいから、お前らはそこで黙って見てろ」

 俺は持ってても仕方がない女騎士の剣を地面に突き刺すと、何が起きているのか理解できてない様子の獣人共を前に舌舐めずりする。

「奴らは俺が皆殺しにする」
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