2 / 18
2 帰ってきた少年
しおりを挟む
師匠の転移術の輝きが晴れると、そこは森の中だった。
「……帰ってきた、のか?」
師匠が居を置いている始元島とは違う薄い緑の香り、そこいらに生えてる木は始元島に生息しているものとは違い、サイズに反して片手で軽く引っこ抜けそうなほどに頼りないモノに見えた。
「ってか、本当に抜けるんじゃないか? これ」
木を掴んで軽く握ってみると、指が簡単に中へと食いこんだ。
「もろっ!? ……よっと」
軽く腕を上げてみれば木は簡単に持ち上がった。
「…………これは凄いんだよな?」
持ち上げた木を適当に揺らしながら首を捻る。何せ十歳の時に人の社会を離れて以降、本物の人外が跋扈する島で七年間ひたすら修行に明け暮れていたのだ。人間の基準がいまいちよく分からない。
「始元島は住んでる奴も自然のスケールも凄かったからな。……だがまぁ、人間にだって強者はいると師匠も言ってたし、これくらいなら普通にやれると想定しておくか」
持っていた木を放る。多分俺の身体能力は人間とは比べ物にならないくらい強い……はずだ。だが母さんを殺したあいつらに復讐するために戻ってきたのだ。あの日、あの場にいたあいつらを皆殺しにした後ならともかく、その前に油断で殺られることだけは防ぎたかった。
(師匠は既に人間の中でなら俺の力は最強クラスと言っていたが、それでも一応その辺の奴で自分の実力を確認しておいた方がいいだろうな)
胸の内から沸いてくる、今すぐにでも皇帝の所に乗り込んでナンバーズもろとも全員血祭りにあげてやりたい衝動をなんとか堪える。
「……大丈夫。七年待ったんだ。後少しくらいなら我慢できる」
「帰ってきた早々自然破壊した上に、何をブツブツ言ってるんスか?」
肩を叩かれて振り向く。そこには金髪をツインテールにした紅い眼の女がいた。
「……本当に付いてきたのか」
「うわっ。そんな嫌そうな顔しないでくださいっスよ。お姉ちゃん、傷付くっス」
「誰が姉だ。というか、何で付いてくるんだよ」
「そりゃロマっちがまだ修行が終わってないのに復讐するんだって言って聞かないからっスよ」
「俺は皇帝と皇妃、そしてナンバーズの糞共を殺すために修行してきたんだ。奴らを殺せるだけの力が手に入ったのに、これ以上時間を無駄にできるか」
「って、 言って聞かないからエマ様が私をお目付け役に選んだんっスよ~。私はいい迷惑っス。ぶー! ぶー!」
姉弟子であるテレステアは頬を膨らませて不満そうな顔をする。
(よりにもよって、こいつを付けるとは。師匠の奴、本当に心配性だよな)
俺が返り討ちに合うのは嫌だから後百年は修行しろとのたまう師匠を決死の覚悟で説き伏せたまではよかったが、その際につけられた条件がテレステアの同行だったのだ。
「……これは俺の復讐だ、お前は手を出すなよ」
「何度も言わなくても分かってるっス。ってか、私も戦闘なんて面倒なことやりたくないんスよね。そんなわけでなんか面白そうなことがあったら出てくるんで、それまでロマっちの影を借りるっスよ」
言うや否やテレステアは俺の影の中に潜った。
(なんか保護者同伴で復讐するみたいで嫌だな)
とはいえ、こっちは一人で向こうは国家。戦力差を考えるとテレステアが付いて来てくれたことは素直に頼もしかった。
(出来るなら俺一人で奴等を八つ裂きにしてやりたい。だがそれが出来そうにない場合はどんな手段を使っても奴らを殺してやる)
手段を選べるのは強者のみ。そして俺がこの大陸における強者なのかどうなのか、それを知る必要がある。
「……ともあれ、まずはここがどこなのか知る必要があるな」
師匠の転移術が大雑把な上、俺自身中央大陸の地理に明るいとは言えないので、強さの確認の他にも色々と知識を仕入れる必要があった。
(案外慎重っスね。大陸につくなり特攻しかけると思ってたんスけど)
脳内に直接響く声に俺は肩をすくめた。
「相手は世界一美人で世界一強い魔術師だった俺の母さんを殺した連中だぞ? 奴らが虫けら以下の存在であることは間違いないが、決して舐めていい相手じゃない」
それに可能ならやはりあっさり殺すのではなく、自分のやったことを後悔する時間を与えたかった。その為には各個撃破が好ましく、それを為すにはやはり情報が必要なのだ。
(ロマっちは本当にマザコンさんっスね~。てか、ロマっちの影の中は本当に居心地が良くて最高っス。私は眠るんで無茶しちゃ駄目っスよ)
言うや否や、影に潜っているテレステアの意識が感じられなくなる。
「……目的地につくなりお目付け役が寝るなよな」
何だかようやく始まった復讐を前に肩透かしを食らった気分だが、テレステアを相手にするといつもこんな感じなので気にしないことにしておく。
「……走るか」
情報を得るには人に会うのが一番だ。その為には何時までもこんな所にいても仕方ない。俺は森の出口目指して駆けった。
「……帰ってきた、のか?」
師匠が居を置いている始元島とは違う薄い緑の香り、そこいらに生えてる木は始元島に生息しているものとは違い、サイズに反して片手で軽く引っこ抜けそうなほどに頼りないモノに見えた。
「ってか、本当に抜けるんじゃないか? これ」
木を掴んで軽く握ってみると、指が簡単に中へと食いこんだ。
「もろっ!? ……よっと」
軽く腕を上げてみれば木は簡単に持ち上がった。
「…………これは凄いんだよな?」
持ち上げた木を適当に揺らしながら首を捻る。何せ十歳の時に人の社会を離れて以降、本物の人外が跋扈する島で七年間ひたすら修行に明け暮れていたのだ。人間の基準がいまいちよく分からない。
「始元島は住んでる奴も自然のスケールも凄かったからな。……だがまぁ、人間にだって強者はいると師匠も言ってたし、これくらいなら普通にやれると想定しておくか」
持っていた木を放る。多分俺の身体能力は人間とは比べ物にならないくらい強い……はずだ。だが母さんを殺したあいつらに復讐するために戻ってきたのだ。あの日、あの場にいたあいつらを皆殺しにした後ならともかく、その前に油断で殺られることだけは防ぎたかった。
(師匠は既に人間の中でなら俺の力は最強クラスと言っていたが、それでも一応その辺の奴で自分の実力を確認しておいた方がいいだろうな)
胸の内から沸いてくる、今すぐにでも皇帝の所に乗り込んでナンバーズもろとも全員血祭りにあげてやりたい衝動をなんとか堪える。
「……大丈夫。七年待ったんだ。後少しくらいなら我慢できる」
「帰ってきた早々自然破壊した上に、何をブツブツ言ってるんスか?」
肩を叩かれて振り向く。そこには金髪をツインテールにした紅い眼の女がいた。
「……本当に付いてきたのか」
「うわっ。そんな嫌そうな顔しないでくださいっスよ。お姉ちゃん、傷付くっス」
「誰が姉だ。というか、何で付いてくるんだよ」
「そりゃロマっちがまだ修行が終わってないのに復讐するんだって言って聞かないからっスよ」
「俺は皇帝と皇妃、そしてナンバーズの糞共を殺すために修行してきたんだ。奴らを殺せるだけの力が手に入ったのに、これ以上時間を無駄にできるか」
「って、 言って聞かないからエマ様が私をお目付け役に選んだんっスよ~。私はいい迷惑っス。ぶー! ぶー!」
姉弟子であるテレステアは頬を膨らませて不満そうな顔をする。
(よりにもよって、こいつを付けるとは。師匠の奴、本当に心配性だよな)
俺が返り討ちに合うのは嫌だから後百年は修行しろとのたまう師匠を決死の覚悟で説き伏せたまではよかったが、その際につけられた条件がテレステアの同行だったのだ。
「……これは俺の復讐だ、お前は手を出すなよ」
「何度も言わなくても分かってるっス。ってか、私も戦闘なんて面倒なことやりたくないんスよね。そんなわけでなんか面白そうなことがあったら出てくるんで、それまでロマっちの影を借りるっスよ」
言うや否やテレステアは俺の影の中に潜った。
(なんか保護者同伴で復讐するみたいで嫌だな)
とはいえ、こっちは一人で向こうは国家。戦力差を考えるとテレステアが付いて来てくれたことは素直に頼もしかった。
(出来るなら俺一人で奴等を八つ裂きにしてやりたい。だがそれが出来そうにない場合はどんな手段を使っても奴らを殺してやる)
手段を選べるのは強者のみ。そして俺がこの大陸における強者なのかどうなのか、それを知る必要がある。
「……ともあれ、まずはここがどこなのか知る必要があるな」
師匠の転移術が大雑把な上、俺自身中央大陸の地理に明るいとは言えないので、強さの確認の他にも色々と知識を仕入れる必要があった。
(案外慎重っスね。大陸につくなり特攻しかけると思ってたんスけど)
脳内に直接響く声に俺は肩をすくめた。
「相手は世界一美人で世界一強い魔術師だった俺の母さんを殺した連中だぞ? 奴らが虫けら以下の存在であることは間違いないが、決して舐めていい相手じゃない」
それに可能ならやはりあっさり殺すのではなく、自分のやったことを後悔する時間を与えたかった。その為には各個撃破が好ましく、それを為すにはやはり情報が必要なのだ。
(ロマっちは本当にマザコンさんっスね~。てか、ロマっちの影の中は本当に居心地が良くて最高っス。私は眠るんで無茶しちゃ駄目っスよ)
言うや否や、影に潜っているテレステアの意識が感じられなくなる。
「……目的地につくなりお目付け役が寝るなよな」
何だかようやく始まった復讐を前に肩透かしを食らった気分だが、テレステアを相手にするといつもこんな感じなので気にしないことにしておく。
「……走るか」
情報を得るには人に会うのが一番だ。その為には何時までもこんな所にいても仕方ない。俺は森の出口目指して駆けった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。
緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。
前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。
これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる