悪役令嬢として処刑された英雄の息子、最強真祖の眷属となって復讐する

名無しの夜

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3 隊商を発見した

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 森の外には簡単に出られた。外は草原が広がっており、草原の回りを山々が取り囲んでいる。

「あれは……隊商かなんかか? ついてるな」

 草原を見渡せば緑の大地に大小様々なテントが幾つも張られていた。それも結構な規模かずだ。

「師匠から貰った黄金と宝石、使えるといいんだが」

 悠久の時を生きる師匠は国が変われば使えなくなる硬貨や紙幣を持っておらず、代わりに黄金や宝石を溜め込んでいる。今回大陸に戻るにあたってその幾つかを譲り受けたのだが、果たしてどの程度の価値があるものなのか。

(まぁ、 多少足元を見られても別にいいか)

 復讐さえ出来れば金なんてどうでもいい。始祖の眷属である俺には食事も睡眠も殆ど必要ない。だが長い時間人の社会で行動するなら、情報を得るためにも無一文でいるよりある程度の金額を所持していた方が便利だろう。その程度の認識だ。

 考え事をしている間に、テントはもう目と鼻の先となっていた。

「さて、 こういう時の作法とか知らないが、普通に入っていっていいのか? これ。……ん? 悲鳴? 血の臭いは……しないな」

 微かに聞こえてきた人の叫び声。切羽詰まっている感じはするが、斬った張ったをしている雰囲気ではない。

(仲間内でのトラブルか?)

 必要がなければ復讐相手以外と争うつまりはない。だが、何の身分もない男がいきなり修羅場(?)に顔を出して、果たして友好的に迎え入れられるだろうか?

「……仕方ない。まずはこっそり中を調べるか」

 俺は地面に膝を付くと、大地に伸びている自分の影へと触れた。意識を集中する。

「スキル『影ノ中』」

 ズ、ズズ……と俺の手がまるで水の中に入っていくかのように堅い地面の中へと沈んでいく。

 スキル。それは魔術のような鍛練しだいで誰にでもある程度扱えるようになる技術ではなく(ただし実戦レベルの者は稀)、その種のみが持ち得る固有の生物特性。そして吸血鬼の生物特性スキルこそが、この影を操る力なのだ。

(俺はまだ未熟だから意識の切り替えの為にスキル名をいちいち口に出す必要があるが、これもナンバーズと当たる前には克服しておきたい課題だな)

 そう考えると師匠が後百年修行させようとしたことも理解出来ないではないが、もしもその百年の間に連中に穏やかな死が訪れるかもと思ったら、居ても立ってもいられなくなったのだ。

 俺の身体が完全に影へと沈む。その途端ムニィと何やら柔らかいものが掌に当たったので視線を向けて見れば、ヘソが丸見えの服の上に丈の短いジャケットを着た、ショートパンツ姿の金髪ツインテールと目があった。

「うわっ!? なんスか? 夜這いっスか? いつかは来ると思っていたけど、それが今日なんスか?」
「…………いいから寝てろ」
「ロマっちはまぐろが好み!?」

 訳の分からない事を言っているテレステアを置いて、俺は一先ずテントの影に移動する。

 この吸血鬼特有の影から影に移動できる生物特性スキルは非常に便利だが、影がないところには出られないのが難点だ。

「さて、何が起こってる?」

 影の向こう、テントの中に出来ている影を窓にして中を覗こうとした、その時だーー

「おい、いい加減にしろ。いつまで渋ってんだ。こっちは帝国兵様だぞ。その意味分かってんのか? 俺様に逆らうとなテメェもテメェの妹も、ヤられるだけじゃすまなくなるんだぜ? このボケがぁ!」

 その傲慢な口調と帝国という単語。一瞬で脳みそが沸騰するような感覚に襲われて、気付けば俺は影の中から飛び出していた。

「ぐおっ!? な、なんだ!?」

 背後から帝国兵の首根っこを掴んで持ち上げてやった……ところで気がついた。

「獣人!?」

 頭と尻にある人ならざる要素。瞬間、只でさえ脳が融解しそうな怒りの中で、残虐な笑みを浮かべる赤髪の女が脳裏をよぎった。

「セブン!!」
「ひばぁっ!?」

 グチャリ!

 俺の手の中で帝国兵の首と胴が二つに分かれた。鮮血が飛び散る中、帝国兵に襲われていた奴が後ずさるがーー

「男……だと?」

 上半身の服を無惨に破られていたのは、鍛えられた体躯の若い男だった。

(な、なんだ!? なんで同性!? こういうことは普通……い、いや別に何でもいいか)

 一瞬、師匠達にされた性教育を思い出しかけるが、あの悪夢は記憶の奥に封じておくことにする。

「おい。なんでこんなところに獣人がいる?」
「へ? あの、な、なんでと言われましても。たまたま自分達の隊商を見つけたようで、いつものように我が物顔で略奪をーー」
「そうじゃない。獣人は珍しくないのか?」

 俺が帝国にいた頃は確か最高機密だって母さんが言っていたはずだが。

「い、いえ。珍しくないわけではないですが、それでもセブン直属の獣人部隊は有名ですから」

 どうやら俺が大陸を離れていた七年の間で、獣人という存在はすっかり周知されたものになったようだ。

「直属ってことは、 ここにセブンが来ているのか?」
「いえ、外の部隊を率いているのはただの部隊長です。……あの、助けていただいておいて余計なお世話かもしれませんが、今すぐ逃げられた方がいいですよ」
「逃げる? 冗談だろ。俺はこの時を七年も待ってたんだぜ。しかも都合よく略奪者とはな。……助かるぜ」

 母さんの殺しに直接関わったら皇帝やナンバーズはともかく、帝国兵にどう対応するか少し悩んだ時期もあったが、まさかここまで分りやすい悪党になってくれているとはな。いや、もとよりそういう連中だったのか?

(だから母さんは……)

 沸き起こる憤怒。テントを出ようとしたところで、男に腕を引かれた。

「……なんだよ?」
「お待ちください。貴方様が強いのは獣人を倒したことからも分かります。ですが外にいる帝国兵は全て獣人で、数も三十を越えています。我々は一時屈辱に耐えれば恐らく殺されはしないでしょう。ここはお逃げください」

 屈辱という言葉を吐いたとき、俺の腕を掴む男の手に力が入った。

「……一応聞いておくが帝国兵が屈辱を与える相手は男なのか?」
「い、いえ。そこのクソが特別なだけです。実は私の妹も奴等に連れ込まれて、それを助けようとしたら私までそこのクソに連れ込まれてしまいました」

(二回言った。まぁ当然か)

「テントの数からして百人くらいはいるよな? 護衛を雇わなかったのか?」
「腕利きの護衛を雇っていました。ですが帝国が誇る生物兵器の前では……」

 男は悔しそうに拳を握り締める。今の会話から獣人は普通の人間には勝てなくて当然と思われる程度には強い存在らしい。

(あれが? 豆腐のようだったぞ)

 自信がふつふつと胸の奥から湧いてくるが、だからと言って油断するのはよくない。

(そうだ。頭を冷やせ。怒りに任せて飛び出したのも状況しだいではヤバかったぞ。落ち着いて復讐の為に必要なことを考えるんだ)

「……お前らは商人ということでいいんだよな?」
「はい。ネーダ商会といいます。それなりに手広くやっておりますので、一度くらいお耳にしたこともあるのではと存じますがーー」
「ああ、いい。あまり長く話している時間もなさそうなんで単刀直入に言う、取引だ。ここにいる獣人は皆殺しにしてお前の妹も助けてやる。だから俺に協力しろ」

 瞬間、男の眼がギラリと光った。

「このテントを出てすぐ正面のテントです。連れ込まれて時間も経っていません。お願いいたします」
「分かった」

(よし、これで自分の実力の確認がてら、協力者をゲットだ)

 俺はテントを出るとそのまま正面にあるテントの天幕を勢いよく開け放った。
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