悪役令嬢として処刑された英雄の息子、最強真祖の眷属となって復讐する

名無しの夜

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5 ネーダ商会との契約

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「……失敗した」

 襲いかかってくる獣人共を全てシャドードッグの餌にしてやった後、商人達が遠巻きに様子を窺ってくる微妙な空気の中で、俺は自分の迂闊さに大きくため息をついた。

「そりゃ、全員が死ぬまで向かってくるなんてことはないよな」

 隊商にいる獣人は全員始末したが、生憎とそれで都合良く、はい全滅とはいかなかった。半分ぐらいを倒した辺りから獣人共が蜘蛛の子を散らすみたいに逃げ始めたのだ。

(あの程度の連中なら予め外に数体のシャドーを配置しておくだけで簡単に殲滅できたろうに。本当に迂闊だったな)

 師匠にも狩りの際は逃げ道を先に潰しておくようにと習ったのに、つまらないミスで余計な仕事を増やしてしまった。

「……こっちに帰ってきてから全然冷静になれないな。いや、別にいいのか?」

 俺がやっているの復讐だ。復讐を冷静にやるなんて、考えてみればおかしな話だった。冷静なら、そもそも復讐なんてしなければいいのだから。

「…………いや、奴らを全員殺すまでは死ぬわけにはいかない。やはりもっと頭を冷やすべきだな」

 ため息をついて気分を入れ替える。今回は確かに少し迂闊だったが、所詮は予行練習。本番でミスをしなければいいのだ。

 足音が二つ近付いてくる。

「ロマさん、お怪我はありませんか?」
「……パンツ女か、お前こそ大丈夫か?」
「へ? えっ!? ま、まだ私のパンツ見えていますか?」

 パンツ女が慌てて自分の袖と裾が膨らんだ衣服をチェックする。

「ああ、すまない。今のはたんにお前の渾名だ」
「え~? ……あ、あの、助けて頂いたことには心から感謝していますが、できればその渾名は止めて頂けると嬉しいです」
「そうだな、悪い。口に出すつもりはなかったんだ」
「いえ、心の中でも出来れば止めて頂けると嬉しいのですが。も、勿論思考はロマさんの自由ですけど」
「分かった。えーと、……ショーナ?」
「はい、ショーナです。ロマさん、この度は本当にありがとうございました」
「私からも礼を言わせてください。貴方のお陰で妹の貞操が守られ、被害も最低限で済みました」

 兄妹揃って頭を下げられると、何匹かの獣人を逃してしまった身としてはちょっと気まずい。

「……あ~、その、悪い。獣人を数人取り逃がした。追跡は出来るので今から行って始末するから心配はないが、それでも礼を言われるのはまだ早い」
「そんな!? 追い払って貰えただけで十分ですから。そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ。ね? 兄さん」
「ショーナの言う通りです。私共はこれからすぐに移動を開始します。もう二度とあんな連中に捕まったりはしませんよ」
「いや、ならん!」
「お祖父ちゃん?」
「会長?」

 杖をついた老人が何やら険しい顔でこっちにやってくる。

(細身だが、そこそこ鍛えてあるようだな。杖は必要なさそうだが……何か仕込んでるのか?)

 老人は年齢を考慮すれば十分すぎる筋量を保持していた。そしてトラオの言葉を信じるなら、話に割り込んで来たこの老人がネーダ商会というグループのリーダーらしい。

「逃げた獣人は儂らの顔だけではなく商会の名前も知っておる。ここで逃せばネーダ商会は帝国への反逆を疑われ、存続の危機に陥るだろう。そうなればどんなにうまく立ち回れたとしても、各地にいる従業員の何人かは間違いなく非道な目に遭うことになる。まったく、厄介な状況にしてくれたものじゃ」
「お祖父ちゃん、そんな言い方はロマさんに失礼よ」

(いや、獣人共の無法ぶりを見るに、爺さんの言う通り結構厄介な状況だと思うぞ)

 しかし立場を自分から悪くするのも馬鹿らしいので、余計な事は言わないでおく。

 杖を付いた老人はショーナの言葉を聞き流して、俺の前に立った。

「お若いの、儂からの依頼を受ける気はないかね?」

(単刀直入だな。まぁそういうのは嫌いじゃないが)

「報酬は?」
「五千万ゴールド出そう」

 ザワリ、と周りで話を聞いている商人達がどよめいた。

(確か帝国の平民の年収が幾らだったか……二百万? を少し越えるくらい……だったか? なら五千万は十分大金だな)

 もっとも、逃げた獣人が帝国に商会のことを報告すれば商会の立場が危うくなるのは間違いないので、必ずしも破格の値段というわけではないのかもしれないが。

(周りに居る奴らと違ってショーナとトラオは金額自体には驚かなかったしな)

 むしろ二人は俺の身の心配をしてくれているようだ。

「どうじゃ? 引き受けてくれるか?」

(引き受けるも何も、こっちは元々逃げた奴を始末する気だったんだが。……いや、待てよ?)

 わざわざ金をくれると言うのだから貰うのは当然として、丁度いいのでこの機会を利用することにしよう。

(トラオとは契約したが、爺さんの方が影響力があるようだからな)

「始末するのは構わない。だが報酬が足りないな」
「ほう、では幾らなら引き受けるかね?」
「五千万+ナンバーズの情報だ」

 周囲の囁き声がピタリと止まる。俺を見上げる爺さんの目が値踏みするかのような感情いろを強く出す。

「ナンバーズじゃと? あんな怪物共の情報を知ってどうするつもりじゃ?」
「それを説明する必要があるのか?」
「ナンバーズに害意を抱く者は誰であろうと殺される。ここを襲ったチンピラ紛いの連中とは違う、奴らは本物の怪物じゃ。奴らにはどんな騎士も魔術師も敵わん。まだ報酬を十倍にしろと言われた方がマシじゃな」
「……随分ビビっているようだが、俺に情報を渡せばもう奴らに怯える必要はなくなるぜ」
「ほう。……どうしてじゃ?」
「簡単だ。俺が奴らを皆殺しにするからだ。そして皇帝と皇妃も殺す。それを邪魔する奴も殺す。これが俺が情報を欲する理由だ。どうする? それを知ってなお、ナンバーズの情報を俺に渡す度胸があるか?」

 爺さんは俺の挑発には反応せず、変わらずに俺の顔をジッと見詰めている。

「どこかで見たような気もしたが、やはり見ない顔だな。つまりお主はレジスタンスではないな。そしてどこの国にも所属していない。どちらかに居れば獣人の部隊を一人で殲滅できるお主ほどの強者を儂が知らんはずがないからな。……個人で動いているのか?」
「それこそ答える必要はないな。それよりもいいのか、爺さん。今お前はかなり致命的な情報を俺に与えたぞ」
「儂がレジスタンスの一味、あるいは関係者ということか? その通り、儂らネーダ商会こそ、帝国に占領されてもなお抗う者達を支えるもの。言わばレジスタンスの生命線よ」

 瞬間、黙って会話に耳を澄ませていた商人達が目を剥いた。

「会長!? どういうつもりですか?」
「おい、武器を! あの男をここから逃がすな」
「静かにせい!」

 カンッ! カンッ! と、 杖が激しく地面を打つ。

「先ほどの魔術を見たであろう、この方を我々がどうにかできる相手だと思っているのか、このたわけ共が!!」
「ですが会長、その男が我々の情報を漏らせば俺達はおしまいですよ」
「それだけじゃないわ。ネーダ商会が潰されれば、レジスタンスは活動を維持できなくなる。そしたら誰が帝国の無法を止められるの?」
「俺達の今までの努力が全部水の泡だ。一体何のためにあんな屑共に取り入って来たのか分からなくなるぜ」

 商人達が口々に爺さんを非難し、ショーナやトラオまで難しい顔を向けているが、爺さんはまるで堪えた様子がない。

「ふん。いいから黙っておれ」

 爺さんは再び俺の顔に視線を戻すと、どうしようもないとばかりに大きく肩をすくめて見せた。

「どうじゃ? 普段は無駄に口が回る連中がご覧の有り様じゃ。それほどの情報を儂はお主に打ち明けた。全てはお主に少しでもいいので我々を信頼してほしいからじゃ」
「……俺にどうしろと?」
「儂の孫のトラオとショーナをお主に同行させてほしい」
「は? いや、何で?」
「お主はこれからナンバーズを殺すのであろう? その活躍を商会を通じて大陸中に発信したい。トラオとショーナにはその為の目と口になって欲しいんじゃ」
「何か意味があるのか? それ」
「大いにあるとも、儂らはレジスタンスに必要なものを常に仕入れ、様々な方法で受け渡して来た。じゃが今のレジスタンス、いや帝国の圧政に苦しむ全ての無辜の民が本当に必用としているものだけは、どこを探しても見つけることはできなかった。それを儂は今、見つけたかもしれん。だからこそ二人の同行をお主に許してほしいのじゃ」

(よし。あらかた片付けた。残りは三人か。ちっ、山に入ったか)

 逃げた獣人を追わせたシャドーから送られてきた情報に俺は舌打ちする。

「悪いが獣人が山に逃げ込んだ。大丈夫とは思うが俺も今から向かう。金を持ってこい。それと二人の同行だが、その二人では俺の移動ペースにはついて来れない」
「それなら問題ない。おい、あれ……を?」

 爺さんが何か言う前に商人の一人が近づいて来て指輪を爺さんに手渡した。その顔は晴れやかで、よく見ればあれだけ爺さんを非難していた商人達もいつの間にか怒りを収めていた。

(不満そうなのはまだ居るが、それでも粗方落ち着いている。爺さんの話に納得したのか?)

 爺さんは仲間から受け取った指輪を俺に手渡してくる。

「これは……魔術具か?」
「分かるか、流石だな。そう、これは同じ魔術具を身につけている相手の居場所が分かる魔術具じゃ。これがあればお主が何処にいようが孫達はお主を追える。お主はお主のペースで旅をすればいい。孫達は勝手について行く」
「と、お前達の爺さんは言ってるが、どうするんだ? 言っておくがかなり危険だぞ?」
「私はやります。ロマさんの活躍を皆に伝えてみせます」
「うむ。トラオはどうするのじゃ」
「もちろんやりますよ。情報に勝る商品はありませんからね。ロマさんに付いていけば最高の商品を仕入れることができそうだ」

 何か知らないが、思った以上に二人が乗り気だった。

(まぁ、放っておいていいなら邪魔にはならない……か?)

「いいだろう。とりあえず俺は獣人を追うから、二人は旅に必要なものを揃えてから追ってこい」

 爺さんから受け取った指輪を身に付ける。

「それでよい。当然じゃが援助は惜しまん。二人を通じて依頼を出してくれれば、どんなものでも調達しよう。ああ、それとこれも持って行くといい」
「コイン? って、おい!? この絵、この絵の女は誰だ!?」

(気のせいか? いや、似てる……母さんに)

「良いところに目をつけるの。そこに描かれているのはネーダ商会の大恩人、帝国の不正に立ち向かい、謂われのない罪を着せられて処刑されたとある英雄じゃ。もしも二人がいない時に商会の者に接する必要があれば、そのコインを見せて役者はいずれ舞台を降りると言えば、ネーダ商会の者ならお主に協力するじゃろう」
「……あ、ああ。分かった」

(まさかこんな形でまた母さんの顔を見るなんて)

 俺はコインをそっと握りしめた。

「さて、これで契約は成立じゃ。最後に名乗っておこう。儂の名はネーダ・ネーア。儂らの希望よ、お主の名を教えては貰えんか?」
「……バルトクライ。俺の名は、ロマ・バルトクライ」
「な、なんじゃと!? ま、まさかお主、シーニア様の!? お、おおっ、な、なんということじゃ……や、やはり、貴方はどれだけ時が経とうが儂らの……儂の希望じゃ」

 俺を見ながら俺じゃない人を想う爺さんに背中を向ける。

「……心配するな。ナンバーズも皇帝も必ず俺が始末してやる」

 老人の嗚咽を背後に、俺は駆け出した。
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