悪役令嬢として処刑された英雄の息子、最強真祖の眷属となって復讐する

名無しの夜

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13 遭遇

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「随分のんびり走るんスね」

 山頂に向かい走り出してから暫く経つと、背後からテレステアの眠そうな声が聞こえてきた。

「敵との戦闘を前に全力疾走なんてするわけないだろう。俺は騎士じゃないんだからな」
「騎士は気を練るだけで肉体の疲労なんてふっ飛ぶスもんね。そのせいでどいつもこいつも脳筋ばかりっス。とくにアリシティア姉さんの無茶ぶりときたら。あれで一体何度枕を濡らしたことか」

 わざとらしい泣き声が聞こえてくる。振り向かずとも、ありもしない涙を拭うテレステアの姿が見えるようだ。

「お前がアリシティアさんの言い付けを守らないからだろ」
「だって~。アリシティア姉さん、ロマッちのついでに私まで鍛えようとするんスよ?」
「別にいいだろ。むしろアリシティアさんに鍛えてもらえるなんて光栄なことじゃないか」

 師匠の最初の眷属であるアリシティアさんは、放浪癖のある師匠に代わって始元島を取り仕切る、いわば島の首領ドンとも言うべき吸血鬼であり、俺の知る限りで最強の騎士だ。普通は教えを請うたからといって、修行をつけてもらえたりはしない。

「冗談じゃないっス。私はロマッちと同じで魔術師っスよ? 肉体をぶつけ合うのはベッドの中だけで十分っス」
「お前がなんと言おうが、俺はアリシティアさんに鍛えてもらえて感謝してる。おかげで騎士に負けない技量ちからを手に出来たからな」
「そうは言っても、ロマっちはエマ様の眷属なんで、吸血鬼としての身体能力だけでもそこいらの騎士なら楽勝っスけどね」

 確かに騎士と思われる獣人にも身体能力だけで圧倒できた。だが師匠の話では一流の騎士には吸血鬼も狩られたりしているらしいので、油断はできない。

(力試しは終わった。そろそろ身に付けておくか)

「『影ノ中』」

 高速で移動するその最中、俺は月光で出来た自身の影へと手を伸ばした。

「おっ、今度はちゃんと武装するんスね」

 影から取り出したのは漆黒の中に血管のような赤い線が幾つも入った手甲。

『ミスト・イート』。手甲内に霧を発生させることで質量や形状を変化させることの出来る武器。ヒヒイロカネという特殊な金属を用いており、その硬度もさることながら、熱伝導に優れた特性を持っており、炎の魔術と相性が良い。師匠が俺の為に作ってくれた武器だ。

「『ミスト・イート』に使われているヒヒイロカネは確かにロマッちと相性がいい金属だとは思うんスけど、もっと強い硬度の金属ぶきもあるんで気を付けるんスよ」
「分かってる。どのみち騎士ほんしょくを相手に馬鹿正直に切り合いなんてしな……んっ?」

 ギガナの里がある山は急勾配を上ると平地が暫く続き、また急勾配という形になっているのだが、新たな急勾配の前に立て札が置いてあった。

「何々? これより先、ギガナの占有地。許可のない者の侵入を禁ずる。ロマっち、これって……」
「ああ。シルラが言ってた奴だな。確かギガナの里の周りは罠で囲まれていて、決まったルートを通らないと命に関わるとか」
「影を通るっスか? それなら罠とかいくらあっても楽勝っスよ」
「いや流石に少し距離がある。素直に教えてもらったルートを通ろう。それと少しペースを落とすぞ」

 自分で言うのもなんだが、吸血鬼の身体能力は凄まじく、ちょっとやそっとの運動では疲労しない。だがそれでもその体力ちからは絶対でないことを、アリシティアさんとの修行で俺は嫌というほどに理解していた。

(セブンとの戦いの前に疲労を残したくはないからな)

 慎重をきす俺に、テレステアがこれ見よがしのため息をついた。

「熱くなれば猪突猛進。冷めれば慎重。ロマっちはもう少しカッとなる性格を何とか出来ればいいんスけどね」
「うるさい。ほら、こっちだ」
「はいはい。お姉ちゃんはどこまでもついて行くっスよ~」

 そうしてシルラに教えて貰ったルートで山頂に向かうことにした俺達は、精々人間の全力疾走程度の速度でゆっくりと移動を再開した。

 やがて空が白み始めたころ、微かな香りが鼻腔をくすぐった。

「ん? 血の匂いっスね」
「ああ。それと獣の匂いだ。……ひょっとしてセブンに先を越されたか?」

 ルートが限られているのだから当然だが、いつのまにか反対側にいたセブンと同じルートに入っていた可能性は十分にある。

「もしそうだとしたら、予想より速く移動してるな」

 少数の兵を連れているとはいえ、奴は殆ど単身で敵の本拠地に突っ込むのだ。ペースを落としてもセブンより先に里に着けると思っていたのだが、思った以上に奴の動きに迷いがない。

(この辺りは経験値の差か? あるいは奴が自信過剰なだけなのか)

 どちらにせよ、このような無茶な行動をしておいて今日まで生き延びているのだ。獣人を瞬殺出来たことに驕らず、気を引き締めた方がいいだろう。

「おっ? 匂いの発生源が見えてきたっスよ。あの中にセブンとやらがいるんスか?」

 俺達の視線の先では獣人達がまるで死体に群がるカラスのように倒れている兵士達へと群がっていた。

「いや、あれは……」

 俺は吸血鬼の脚力、その本領を発揮すると、こちらに気付かず下卑た顔で兵士をなぶっている獣人達に五指の尖端を鋭く伸ばした『ミスト・イート』を振るった。

「雑魚だ」

 周囲に獣人の首が転がる中、少し距離の出来たテレステアへと振り返る。

「お、お前は……は?」

 地面に倒れている男達の内、一番体の大きな男がこちらを見上げた。

(こいつは確か、女を抱えて逃げた奴だな)

 巨体の男に限らずここにいる男は全員両足と片手を切り落とされており、女達は衣服を無惨に引き裂かれていた。

「うわ~。丁寧に傷口を焼いて、最低限死なないだけの治療をしているっスよ。これをやった奴はかなりの悪趣味っスね」
「そんなことは知ってる。おい、セブンはこの先で間違いないな?」

 治療と言っても傷口を焼かれて出血を止められているだけで、騎士でなければ死んでいたであろう大怪我だ。だが大男の目にはそんな傷などものともしない強い意志の光があった。

「そんな……ゴホッ……こと、を、知ってどうする?」
「決まってるだろ。セブンの奴を殺すんだよ。安心しろ、お前らがされたことが可愛く思えるような無惨な死を奴にくれてやる」
「お前は……そうか、お前が……」

 何やら大男は納得したような顔をすると、首を縦に動かした。

「奴はこの先だ。頼む。ギイナを……姪を助けてやってくれ」
「悪いが俺にできる約束はセブンの死だけだ」
「それで……いい」
「あれ? 気絶したっスね」

 テレステアの尖った爪が意識のなくなった大男の頬を突く。

「……こいつらを治せるか?」
「え? そりゃできるっスけど、手足もとなると元通りは少し時間かかるっスよ?」
「お前のことだ、付いてきてもどうせ戦う気はないんだろ? 先に行ってるから治してから追ってこいよ」
「う~ん。別にそれでもいいんスけど、可愛い弟を一人で行かせてまで、こいつらの治療をするメリットが私にはないんスけど」
「お、お願いです。お礼は必ずします。ですから彼らを救ってはくれませんか?」

 裸体を手で隠した傷だらけの女が、ふらつきつつもこちらに近付いてきた。

「ん? どちら様……って、褐色肌ではないということは、ヒニア法国、つまりクレーリアちゃんの関係者っスか?」
「隊長を知っているんですか?」
「知ってるっスよ~。ちなみに私がここにいる全員を治したら、クレーリアちゃんに私の活躍を伝えてくれるっスか?」
「つ、伝えます! 隊長もきっと貴方に感謝するはずです」
「ふ~ん。……いいっスよ。可愛い弟とクレーリアちゃんのためっス。私がここにいる全員を元通りにしてあげるっス」

 そうしてテレステアが指を鳴らせば、傷だらけの女の殴られて腫れ上がった顔が綺麗になり、その全身から痛ましい傷が消えていく。

「なっ!? ス、スゴい」

 治癒魔術の最高峰とも言うべき神がかった技量。女は当然として、何度も見てきた俺でさえ目を見張る光景だ。

(こいつらはテレステアに任せておけばいいな)

 色々と性格に問題のある姉弟子ではあるが、その実力だけは確かだ。もっとも、それが厄介ではあるのだが。

「それじゃあ俺は先に行くぞ」
「油断しちゃダメっスよ」
「分かってる」

 そして俺は走り出す。大男には悪いが敵が近くにいるのだ。ここは速力を落として慎重に行動するべきだろう。

(いる、奴が……いる)

 逸る気持ちを抑えきれずに、最後の急勾配を吸血鬼の力で一瞬で踏破する。山頂は中々広い平地になっており、そこに砦が作られていた。

「……セブン」

 砦をグルリと囲む木で出来た巨大な壁。その門は粉々に砕かれており、そこいらに力尽きた戦士達が倒れている。大男の姪と思わしき肩の辺りで黒髪を切り揃えた女が地面に倒れ付し、その前には斧を振り上げたーー

 ブツリ! と、頭の何処かで何かがキレた音がした。

「セブゥウウウン!!」

 景色が一瞬で流れていく。気が付けば、ヒヒイロカネの強度に守られた拳がセブンの顔面を殴り飛ばしていた。
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