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16 決闘の行方

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「ビクトリー」

 倒れ伏すお姫様を踏んづけて、高らかに自身の勝利を宣言するティナ。その雄々しい姿に俺の胃はキリキリと痛んだ。

「ねぇ、サーラ」
「何ですか? アロスさん」
「コレ、大丈夫かな? 今更だけど国際問題とかにならない?」
「そうですね。一応口裏を合わせておきますか?」
「いや、既に何をどう言いつくろっても無駄な気が……」
「無駄かどうかこれから分かりそうですよ」

 ティナがお姫様の身体から足を退けて、倒れ伏す彼女に手を差し伸べた。その手をじっと見つめるお姫様。俺とサーラはそんな二人を固唾を呑んで見守った。

「この童を足蹴にするとは……。ふっ、やるではないか」
「アンタこそ、中々だったわよ」

 お姫様はティナが差し伸べた手をしっかりと掴んで立ち上がった。

「どうやら国際問題は防げたようですね」
「初めてのダンジョン潰しよりも余程緊張したんだけど」

 ホッと一息つく俺とサーラ。

「ティナ、お主幾つだ?」
「十八よ」
「ほう、妾の一つ下か。それでその実力、流石は剣聖の弟子よな」
「アンタ、私の一個上でそんな偉そうな喋り方してんの?」
「ティナ、相手はお姫様だから」
「それが何よ、私は勝者よ」

 胸を張るティナ。そんな彼女を何故かお姫様は嬉しそうに見つめる。ふと、その瞳がこちらを向いた。

「ところで、そこにいる術聖の弟子とお主はどちらが強いのだ?」
「私よ」
「私です」

 仲良く声を揃えた二人の視線が激突する。

「ちょっと、サーラ。この間私にぶっ飛ばされておねんねしたの忘れたわけ?」
「ティナこそ、先月私の魔術を受けて三日間寝込んだのを忘れたんですか?」
「二人とも先週俺に奥義とか言って凶悪な技をぶつけたこと忘れてないよね?」
「「アロス(さん)は黙ってって」」
「……アロス、黙ります」

(こわっ。まぁ、周りの傭兵達も毒気を抜かれたようだし、この分だと大丈夫か)

 もしも傭兵達が数の力でティナやサーラに危害を加えようとしたら、ギルドごと潰してやろうかとちょっと考えてたけど、どうやらその心配はないようだ。

「おおう、妾のせいで何やら面白そうなことに」

 いつものバトルに発展する二人を楽しそうに眺めるお姫様。

「そういえばお姫様」
「む? お主は……二人の付き人だな」
「付き人って……まぁそれでもいいですけど」
「それで? 付き人が何の用だ」
「試合前の取り決めのことですけど、ティナが勝ったので幾つかお願いしたいことがあるのですが」
「なんで戦ってないお主の言うことを聞かねばならんのだ……と言いたいところだが、一応聞くだけ聞いてやろう」

 ここで今まで黙って事の成り行きを見ていたお姫様の護衛がやってくる。

「言っておくが、妾に不埒な要求をだそうものなら、この二人が黙ってはおらんぞ」
「別にそんな要求を出す気はないので問題ありませんが……」

 姫様の背後にいる二人。一人は三十代半ばくらいと思われる大男で、全身甲冑に身を包んだ身体から尋常ならざる闘気が溢れている。その横にいるのは二十代後半と思われる栗色の髪の美女で、頬に入った傷を見るまでもなく、その立ち姿から歴戦の兵であることが窺えた。

(さすがに強いな)

 リリラさん程ではないが侮れない強者の気配に少しだけ警戒心が沸き起こるが、別に敵対するつもりはないので放っておく。

「実は俺達ギルドに傭兵登録をしに来たのですが、リラザイアさんの一件のせいでまだできてないんですよ。姫様が口をきいてくれませんか?」
「なんだ、そのようなことか。おい」

 お姫様に言われて護衛の人が建物の中に入っていく。

「これでいいな?」
「ありがとうございます。……後、これはできればでいいのですが、危険度がⅮ前後のダンジョンの情報はありませんか?」

 俺の質問にお姫様の瞳がギラリと光る。

「そうだな。ではこんな情報はどうだ?」

 



「っふ、必然の勝利ですわ」
「き、きぃいいい!! 疲労さえ、疲労さえなければ」

 いつもの優しい微笑みを何処かに落っことしたサーラがサディスティックな瞳で親友を見下ろす。

 ティナが悔しそうに地面を叩いた。

「お疲れ、満足した?」
「すみませんアロスさん、恥ずかしい所をお見せして」
「うん。わりといつも見せてるよね」
「いっとくけどね、アロス。疲労さえなければ私が勝ってたからね」
「ティナ、この間は言い訳なんて実戦で通用しないとか言ってたよね?」

 竹刀で叩かれた時のことを当て擦ってやればティナの頬がタコのように膨らんだ。

「ぐぬぬぬ! くやしぃ~」
「はいはい。分かったから。ほら、立って。そろそろ宿にいこう」
「……ギルド登録はどうすんのよ?」

 ティナは俺の手を取ると、渋々といった様子で立ち上がった。

「それなら妾がしておいてやったぞ」
「あら、お姫様。気が利くじゃない」
「ありがとうございますお姫様」
「サラステアでよい。ティナ、サーラ、そして付き人よ」
「アロスです」

 さりげなく自己主張してみたが、姫様もといサラステアには届かなかったようだ。

「お主らの付き人に幾つか依頼を見繕っておいた。お主らの実力なら問題ないとは思うが、心配ならこのギルドで仲間を募ってから挑むとよい」
「依頼?」

 ティナの視線に俺は依頼書を見せた。

「このあたりのダンジョンの情報。宿に着いたらみんなで見よう」
「アロスのくせになかなかいい手際じゃない。褒めてあげるわ」
「そりゃどうも」
「では名残惜しいが妾はもう行く。ティナ、サーラよ、今度リラザイアをつれて城を訪ねてくれ。いつでも歓迎する」
「美味しいモノ用意しておきなさいよね」
「出来れば魔術具とか見せてもらえると嬉しいです」
「俺の名前はアロスです」

 ティナとサーラの遠慮のない要求に楽しそうに笑って、サラステアは去っていった。最後までアロスな俺の言葉には基本スルーなお姫様だった。

「……まさかと思うけど、俺ってひょっとして影が薄い?」

 ふと沸いた疑問を口に出せば、幼馴染で親友な二人は黙って俺の背中を撫でてくれた。
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