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18 初恋
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透はうつぶせの状態で両手を前へ伸ばしていた。後ろから貫いている慶が、その両手を上からきゅっと握って来る。指と指の間に慶の指が入ってきて、けして逃がさないというように強く力を入れてくる。
「……あっ…………あっ…………」
突かれるたびに喘いでしまうせいで、透の声はだいぶ掠れてしまっていた。
体重をかけるように深く、強く、奥へ打ち付けられ、もう少しで絶頂しそうになってぎゅっと体に力を入れると、慶は焦らすように後ろへ退き、入り口のあたりを小刻みに動き始める。
「や……だぁ……そんな風にしないでぇ……おかしくなるよぉ……!」
透が尻を突き出すように腰を浮かせると、慶は右手の指からするりと手を離して今度は下腹部を押さえて来た。
「ひぅっ……」
中から深く挿れてきて、外から手で押して来る。
「あ……あ……」
内側の肉が押し付けられて、慶のものの形がくっきり分かるようだ。
「すごいな、透……。俺のものを搾り取ろうと中が動いている……」
自分でもひくひくと蠢いているのが分かっているのに、慶が声に出して言うから、さらにそこに意識が集中してしまう。
「やぁ……大きいぃ……」
慶とつながっているところが熱く疼いてたまらない。
まるで期待するかのように、じゅわじゅわと愛液が溢れてくる。
「透……動くぞ」
「あ、あ、だめ……今動いたら……ああんっ」
慶は透の腹を押さえたまま大きなストロークで出し入れを始めた。
「…………!!!」
快感の小爆発がいくつも起こり、透は痙攣するようにがくがくと震えながら、射精できないまま頂点に達してしまった。
が、慶はそれでも腰を振り続ける。
「ふぁっ、あぁっ」
きゅうきゅうと透が締め付けるのを楽しむように慶が中をこすり続ける。
「やぁ……」
「ふっ……イキっ放しだな、透……」
楽しそうに囁く慶の息も熱く弾んでいる。
「あー……あぁー……」
意味のない声を返して、透はぽろぽろと涙を流した。
「透、可愛い……透……俺の透……」
慶は透のケロイドになった首にキスして吸い付き、舌を出して舐めてくる。
透の体がビクンと慶の下で震えた。
「透……俺の透……!」
熱い息が首にかかり、また慶がそこを舐めてくる。
「んん……!」
また透の体がビクンと跳ねた。
首の後ろを舐められると、快感と寒気の両方がぞわりと沸き上がって、勝手に体が跳ねてしまう。
「好きだ、透……」
慶はしつこくそこを舐め続け、さらに跡を残すように強く吸ったりし始める。
「……け、い……」
このまま慶に噛まれてしまいたいと強烈に思った。
きっと、このまま噛んでしまいたいと慶も強く思っている。
でも、今ここで慶が透を噛んだとしても、その傷は『番の印』にはならずにゆっくり治って消えていくだけだ。
それを分かっているはずなのに、慶は透の首筋に軽く歯を当てては離し、当てては離す動作を何度も何度も繰り返し始めた。
「や……」
透は首を振った。
「だ……め……」
慶がハッとしたように首から口を離す。
「とお……」
「慶……! 俺、前からがいいよぉ。慶の顔を見てしたいよぉ……!」
透は子供みたいに甲高く甘える声を出した。
慶は慌てたように、すぐに透の中からずるっとそれを引き抜いた。
「ん……!」
力が入らず、シーツに突っ伏している透を慶が抱き上げる。
「透、すまな……」
「キスして」
謝ろうとする慶の言葉を遮り、透はニコッと笑った。
「いっぱい、キスして、慶」
慶はつられるように微笑み、優しく唇を重ねてきた。
ついばむように軽く音を立てて吸い、下唇を甘噛みして、少し開いた口に舌を入れてくる。歯列を裏側からなぞり、上あごの裏をくすぐり、いやらしく透の口の中で動き続ける。
「ん……んん……」
ゾクゾクと震えるほど感じて、透は夢中で慶の舌を吸い返した。溢れてくる唾液とからめあう舌でいやらしい音が室内に響く。
「慶……いつもみたいにして……。抱っこするみたいにして、俺を揺さぶって……」
「……。下から、突き上げて欲しいのか」
「うん、うん、そう……。キスしながらいっぱい突いて」
慶は透の体を持ち上げるようにして、入り口に大きなものをピトッと押し当てた。十分に柔らかく濡れている透の体は自分の体重で沈み込み、簡単にそれを飲み込んでいく。
「うぁ……あぁ……」
入ってくる質量の分、押し広げられて苦しいはずなのに、それ以上の快感が透の体を痺れさせる。
「すんなり根元までいったな」
「うん……」
「びくびくしてる」
「うん……慶のを中に出して欲しくて、たまらないから……」
慶が透を抱く腕の力をぎゅうっと強める。
「好きだ……好きだ、透」
「うん、俺も……」
体に力の入らない透は慶にもたれかかるようにくっつく。
慶は透の腰と背中を支えてゆすゆすと揺さぶって来る。
当たって欲しいところに慶のものが当たる。
ちょうどいいリズムで慶が腰を動かす。
「う……うぅ……すご……」
「いいか、透」
「うん……うん……すごくいい……」
(こんなにずっと、体力が無くなるまで交り続けているのに、ずっと気持ちが良いなんて。体も心も信じられないくらいにピッタリとはまって、最初から二人がこうなる運命だったみたいにあまりにも自然で……)
透の高まりに合わせるように、慶がリズムを速めていく。
髪が乱れる。
汗が流れる。
慶のものが力強く透を中から責め立てる。
「また、イク……」
「何度でもイッていい。何度でも、透が満足するまで」
「一緒がいい……慶、お願い、一緒に……」
透は慶の首元にしがみつく。
「ああ、一緒にいこう」
「うん、うん、中に出して……! 慶のをいっぱい出して……!」
(慶の赤ちゃんが欲しい)
Ωの本能で叫びそうになった言葉を、透は必死に飲み来んだ。
「透、透……!」
慶が透の名前を連呼する。
「あっ、あぁ、イク、イッちゃう……!」
ぴゅくっと少量の精液が出た。慶の腹にかかったそれは、もうほとんど白くなかった。
「透、可愛い、可愛い、俺の透」
慶がぎゅうっと透を抱きしめ、ぶるっと震えた。
ドクドクと注がれているのが分かるほど、中が熱い。
Ωの体が、αの精を受けて歓喜に震える。
「はぁ……すごい……」
「好きだ、透、好きだ」
慶が、ちゅ、ちゅ、と顔中にキスをしてくる。
余韻を感じていたい透の気持ちが分かるのか、慶はすぐには出て行かなかった。
穿たれたままのところがまだじんじんと熱く疼いている。
「慶、好き……」
うっとりして言うと、慶の顔がほわりとほころんだ。
「ああ……それいいな。何回言われてもいい」
「何回だって言うよ。慶、大好き」
「ああ、俺も好きだ。死ぬほど好きだ。好きすぎて怖いくらいに好きだ」
「ふふ……なにそれ」
「笑うな、透。本気なんだ」
「うん。俺だって、誰より慶が好きだよ」
「誰よりとか……そういう普通の次元はもうとうに超越しているんだ」
「え……?」
慶は真剣な顔で透の目をじっと見てきた。
「俺は、俺の感情が怖い。天にも昇る気持ちっていうやつが、実際にあるのを初めて知った。透が俺に笑いかけるだけで、透が俺を好きと言うだけで、俺の心は舞い上がって世界一の幸せ者になる」
満面の笑みを浮かべ、慶はまたちゅっと透にキスをする。
「うん、俺だって幸せだよ……」
「でも、幸せを感じれば感じるほどにとても怖くなる。透を好きすぎて恐ろしくなる」
「……? どうして……?」
「天国があるなら地獄もまたあるんだろう? もしも透が俺を嫌ったら? もしも透がほかの男に魅かれたら? もしも透が俺から離れて行ったら……?」
「そんなこと、あるわけ……」
軽く否定しようとした透は、慶の目の中にはっきりとした怯えを見てドキリとした。
「もしもそうなったら、俺はどうなるか分からない。何をするか分からない。俺は力を持っているんだ。腕力だけじゃない、神崎慶には権力も財力もあるんだ。途方もない怪物になるかも知れない」
大げさだと笑って流すには、確かに大きすぎる力だった。
「あの、慶……」
「ただひとつ分かるのは……透がいなくなったら俺はもうまともに生きてはいけないということだけだ」
慶は透の肩に頭を乗せた。そして母親にすがる子供みたいに抱きついて来た。
「こんな感情は初めてなんだ。透の一挙手一投足で一喜一憂する俺がいる。こんなに感情が乱高下するのは初めてで、どうしたらいいのか分からない」
ごまかしも無く、見栄も張らず、慶は思ったままのことを透に話してくれる。
「透だけなんだ……。透を前にすると、俺はいつもの俺でいられなくなる」
(どうしよう)
透はあまり力の入らない腕を上げて、慶の髪の毛をそっと撫でた。
(どうしよう、慶が可愛すぎる)
ニマニマと笑ってしまわないように気を付けて、透は穏やかに声を出した。
「慶、いいことを教えてあげる」
優しく、優しく、その頭をなでなでして、透は囁く。
「あのね、人は誰でも恋をするとそうなるんだよ」
「なに」
慶ががばっと顔を上げた。
「誰でも?」
「うん、人を好きになるってそういうことだもん」
「こ、こんな風にまるで病気みたいに熱くなったり心臓が割れそうになったりするのか? 誰でも? 想像だけで苦しくなったり泣きたくなったりするのか? 誰でも? 本当に?」
「あ、う、うん……。多分、中学生でもなるよ」
どの性別からもモテそうで、実際にモテてきたはずの男が、しかもどの性別も抱いたことがあるような百戦錬磨みたいなセックスをする男が、こんな純情少年みたいなことを言うとは思わなかった。
「慶は……人を好きになったのが初めてなんだね」
「いや、俺はこれまで何人も……」
と言いかけて、慶ははたと言葉を止めた。
そして考え込むように黙り込んだかと思うと、やがて外から見て分かるくらいに耳まで赤くなった。
赤面する神崎慶を見られるのは、もしかしたら透だけかもしれない。
(あぁどうしよう、本当に可愛すぎる)
慶は深呼吸すると、透の前髪をそっとかきあげて正面から目を見てきた。
「透」
「うん」
「好きだ」
「うん……」
「たぶん、初恋だ」
透は小さく笑った。
「それは言わなくてもいいのに」
「だが」
「でも嬉しい」
笑った透の目の端に、涙が滲んだ。
「すごく、嬉しい」
慶の唇に唇を寄せて、透は泣きながらキスをした。
繰り返し何度も唇を合わせている内に、透の中にある慶のものがゆっくりと復活してくる。
「まだ、できるか」
「うん……俺を慶でいっぱいにして」
透は溺れかけた人間のように慶にしがみつき、さらなる快楽の渦に備えた。
「……あっ…………あっ…………」
突かれるたびに喘いでしまうせいで、透の声はだいぶ掠れてしまっていた。
体重をかけるように深く、強く、奥へ打ち付けられ、もう少しで絶頂しそうになってぎゅっと体に力を入れると、慶は焦らすように後ろへ退き、入り口のあたりを小刻みに動き始める。
「や……だぁ……そんな風にしないでぇ……おかしくなるよぉ……!」
透が尻を突き出すように腰を浮かせると、慶は右手の指からするりと手を離して今度は下腹部を押さえて来た。
「ひぅっ……」
中から深く挿れてきて、外から手で押して来る。
「あ……あ……」
内側の肉が押し付けられて、慶のものの形がくっきり分かるようだ。
「すごいな、透……。俺のものを搾り取ろうと中が動いている……」
自分でもひくひくと蠢いているのが分かっているのに、慶が声に出して言うから、さらにそこに意識が集中してしまう。
「やぁ……大きいぃ……」
慶とつながっているところが熱く疼いてたまらない。
まるで期待するかのように、じゅわじゅわと愛液が溢れてくる。
「透……動くぞ」
「あ、あ、だめ……今動いたら……ああんっ」
慶は透の腹を押さえたまま大きなストロークで出し入れを始めた。
「…………!!!」
快感の小爆発がいくつも起こり、透は痙攣するようにがくがくと震えながら、射精できないまま頂点に達してしまった。
が、慶はそれでも腰を振り続ける。
「ふぁっ、あぁっ」
きゅうきゅうと透が締め付けるのを楽しむように慶が中をこすり続ける。
「やぁ……」
「ふっ……イキっ放しだな、透……」
楽しそうに囁く慶の息も熱く弾んでいる。
「あー……あぁー……」
意味のない声を返して、透はぽろぽろと涙を流した。
「透、可愛い……透……俺の透……」
慶は透のケロイドになった首にキスして吸い付き、舌を出して舐めてくる。
透の体がビクンと慶の下で震えた。
「透……俺の透……!」
熱い息が首にかかり、また慶がそこを舐めてくる。
「んん……!」
また透の体がビクンと跳ねた。
首の後ろを舐められると、快感と寒気の両方がぞわりと沸き上がって、勝手に体が跳ねてしまう。
「好きだ、透……」
慶はしつこくそこを舐め続け、さらに跡を残すように強く吸ったりし始める。
「……け、い……」
このまま慶に噛まれてしまいたいと強烈に思った。
きっと、このまま噛んでしまいたいと慶も強く思っている。
でも、今ここで慶が透を噛んだとしても、その傷は『番の印』にはならずにゆっくり治って消えていくだけだ。
それを分かっているはずなのに、慶は透の首筋に軽く歯を当てては離し、当てては離す動作を何度も何度も繰り返し始めた。
「や……」
透は首を振った。
「だ……め……」
慶がハッとしたように首から口を離す。
「とお……」
「慶……! 俺、前からがいいよぉ。慶の顔を見てしたいよぉ……!」
透は子供みたいに甲高く甘える声を出した。
慶は慌てたように、すぐに透の中からずるっとそれを引き抜いた。
「ん……!」
力が入らず、シーツに突っ伏している透を慶が抱き上げる。
「透、すまな……」
「キスして」
謝ろうとする慶の言葉を遮り、透はニコッと笑った。
「いっぱい、キスして、慶」
慶はつられるように微笑み、優しく唇を重ねてきた。
ついばむように軽く音を立てて吸い、下唇を甘噛みして、少し開いた口に舌を入れてくる。歯列を裏側からなぞり、上あごの裏をくすぐり、いやらしく透の口の中で動き続ける。
「ん……んん……」
ゾクゾクと震えるほど感じて、透は夢中で慶の舌を吸い返した。溢れてくる唾液とからめあう舌でいやらしい音が室内に響く。
「慶……いつもみたいにして……。抱っこするみたいにして、俺を揺さぶって……」
「……。下から、突き上げて欲しいのか」
「うん、うん、そう……。キスしながらいっぱい突いて」
慶は透の体を持ち上げるようにして、入り口に大きなものをピトッと押し当てた。十分に柔らかく濡れている透の体は自分の体重で沈み込み、簡単にそれを飲み込んでいく。
「うぁ……あぁ……」
入ってくる質量の分、押し広げられて苦しいはずなのに、それ以上の快感が透の体を痺れさせる。
「すんなり根元までいったな」
「うん……」
「びくびくしてる」
「うん……慶のを中に出して欲しくて、たまらないから……」
慶が透を抱く腕の力をぎゅうっと強める。
「好きだ……好きだ、透」
「うん、俺も……」
体に力の入らない透は慶にもたれかかるようにくっつく。
慶は透の腰と背中を支えてゆすゆすと揺さぶって来る。
当たって欲しいところに慶のものが当たる。
ちょうどいいリズムで慶が腰を動かす。
「う……うぅ……すご……」
「いいか、透」
「うん……うん……すごくいい……」
(こんなにずっと、体力が無くなるまで交り続けているのに、ずっと気持ちが良いなんて。体も心も信じられないくらいにピッタリとはまって、最初から二人がこうなる運命だったみたいにあまりにも自然で……)
透の高まりに合わせるように、慶がリズムを速めていく。
髪が乱れる。
汗が流れる。
慶のものが力強く透を中から責め立てる。
「また、イク……」
「何度でもイッていい。何度でも、透が満足するまで」
「一緒がいい……慶、お願い、一緒に……」
透は慶の首元にしがみつく。
「ああ、一緒にいこう」
「うん、うん、中に出して……! 慶のをいっぱい出して……!」
(慶の赤ちゃんが欲しい)
Ωの本能で叫びそうになった言葉を、透は必死に飲み来んだ。
「透、透……!」
慶が透の名前を連呼する。
「あっ、あぁ、イク、イッちゃう……!」
ぴゅくっと少量の精液が出た。慶の腹にかかったそれは、もうほとんど白くなかった。
「透、可愛い、可愛い、俺の透」
慶がぎゅうっと透を抱きしめ、ぶるっと震えた。
ドクドクと注がれているのが分かるほど、中が熱い。
Ωの体が、αの精を受けて歓喜に震える。
「はぁ……すごい……」
「好きだ、透、好きだ」
慶が、ちゅ、ちゅ、と顔中にキスをしてくる。
余韻を感じていたい透の気持ちが分かるのか、慶はすぐには出て行かなかった。
穿たれたままのところがまだじんじんと熱く疼いている。
「慶、好き……」
うっとりして言うと、慶の顔がほわりとほころんだ。
「ああ……それいいな。何回言われてもいい」
「何回だって言うよ。慶、大好き」
「ああ、俺も好きだ。死ぬほど好きだ。好きすぎて怖いくらいに好きだ」
「ふふ……なにそれ」
「笑うな、透。本気なんだ」
「うん。俺だって、誰より慶が好きだよ」
「誰よりとか……そういう普通の次元はもうとうに超越しているんだ」
「え……?」
慶は真剣な顔で透の目をじっと見てきた。
「俺は、俺の感情が怖い。天にも昇る気持ちっていうやつが、実際にあるのを初めて知った。透が俺に笑いかけるだけで、透が俺を好きと言うだけで、俺の心は舞い上がって世界一の幸せ者になる」
満面の笑みを浮かべ、慶はまたちゅっと透にキスをする。
「うん、俺だって幸せだよ……」
「でも、幸せを感じれば感じるほどにとても怖くなる。透を好きすぎて恐ろしくなる」
「……? どうして……?」
「天国があるなら地獄もまたあるんだろう? もしも透が俺を嫌ったら? もしも透がほかの男に魅かれたら? もしも透が俺から離れて行ったら……?」
「そんなこと、あるわけ……」
軽く否定しようとした透は、慶の目の中にはっきりとした怯えを見てドキリとした。
「もしもそうなったら、俺はどうなるか分からない。何をするか分からない。俺は力を持っているんだ。腕力だけじゃない、神崎慶には権力も財力もあるんだ。途方もない怪物になるかも知れない」
大げさだと笑って流すには、確かに大きすぎる力だった。
「あの、慶……」
「ただひとつ分かるのは……透がいなくなったら俺はもうまともに生きてはいけないということだけだ」
慶は透の肩に頭を乗せた。そして母親にすがる子供みたいに抱きついて来た。
「こんな感情は初めてなんだ。透の一挙手一投足で一喜一憂する俺がいる。こんなに感情が乱高下するのは初めてで、どうしたらいいのか分からない」
ごまかしも無く、見栄も張らず、慶は思ったままのことを透に話してくれる。
「透だけなんだ……。透を前にすると、俺はいつもの俺でいられなくなる」
(どうしよう)
透はあまり力の入らない腕を上げて、慶の髪の毛をそっと撫でた。
(どうしよう、慶が可愛すぎる)
ニマニマと笑ってしまわないように気を付けて、透は穏やかに声を出した。
「慶、いいことを教えてあげる」
優しく、優しく、その頭をなでなでして、透は囁く。
「あのね、人は誰でも恋をするとそうなるんだよ」
「なに」
慶ががばっと顔を上げた。
「誰でも?」
「うん、人を好きになるってそういうことだもん」
「こ、こんな風にまるで病気みたいに熱くなったり心臓が割れそうになったりするのか? 誰でも? 想像だけで苦しくなったり泣きたくなったりするのか? 誰でも? 本当に?」
「あ、う、うん……。多分、中学生でもなるよ」
どの性別からもモテそうで、実際にモテてきたはずの男が、しかもどの性別も抱いたことがあるような百戦錬磨みたいなセックスをする男が、こんな純情少年みたいなことを言うとは思わなかった。
「慶は……人を好きになったのが初めてなんだね」
「いや、俺はこれまで何人も……」
と言いかけて、慶ははたと言葉を止めた。
そして考え込むように黙り込んだかと思うと、やがて外から見て分かるくらいに耳まで赤くなった。
赤面する神崎慶を見られるのは、もしかしたら透だけかもしれない。
(あぁどうしよう、本当に可愛すぎる)
慶は深呼吸すると、透の前髪をそっとかきあげて正面から目を見てきた。
「透」
「うん」
「好きだ」
「うん……」
「たぶん、初恋だ」
透は小さく笑った。
「それは言わなくてもいいのに」
「だが」
「でも嬉しい」
笑った透の目の端に、涙が滲んだ。
「すごく、嬉しい」
慶の唇に唇を寄せて、透は泣きながらキスをした。
繰り返し何度も唇を合わせている内に、透の中にある慶のものがゆっくりと復活してくる。
「まだ、できるか」
「うん……俺を慶でいっぱいにして」
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