【完結】その令嬢、キリングマシーンにつき

黒幸

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妄執

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 コンスタンス・コンプリス。
 コンプリス子爵家の令嬢である。
 コンプリス家は家格こそ、子爵であり低位貴族に属しているが裕福で古い血筋を継ぐ家柄だった。
 燃え盛る火炎のように鮮やかなレディッシュブラウンの髪と空の色を映した美しい瞳の見目麗しい美少女。
 しかし、コンスタンスはこう評価されている。
 見た目だけが整った問題だらけの令嬢と……。

 コンスタンスは妄執に憑りつかれた激しい気性の持ち主である。
 その気性は抑えがたいもので幼少期から、危険な予兆と片鱗をうかがわせるものだった。
 初めのうちは少しばかり、拘りが強く、物事への執着度合いが強いだけと考えられた。
 差し障りがないと判断され、コンスタンスはことなく成長した。
 だがその考えが如何に甘いものだったか、コンプリス家の者は大きく後悔することになる。

 正常ではない。
 異常であると認識されるまでさして時を要さなかった。
 コンスタンスが妄執を抱いた相手がよりにもよって王族、第二王子エクトルだったのだ。

 強すぎる執着はコンスタンスを狂気を帯びたストーカーへと変貌させた。
 熱に浮かされたようにただ、一心にエクトルを見つめる彼女の姿は恐怖そのものだった。
 そこにいたのは恋に恋する乙女ではない。
 ありえない愛に一人で溺れ、勝手に狂った女だったのである。
 その為、コンスタンスに近付く者は誰もいない。

 彼女がエクトルに執着するきっかけとなったのは何気ない一言である。
 エクトルはコンスタンスの鮮やかな赤毛を見て、「きれいだね」と呟いたに過ぎない。
 それをもって、彼女は自分がエクトルに愛されていると合点した。
 以来、エクトルの一挙手一投足がコンスタンスの全てとなった。

 ではコンスタンスに執着された悲劇の王子エクトルとは一体、どういう人物なのか。
 兄である王太子オーギュストと弟エクトルの関係は極めて、良好だった。
 兄弟仲は良く、権勢に拘る素振りもなく、常に兄を立てる理想的な弟。
 それがエクトルの一般的な評価だ。

 強ちその見方は間違っていない。
 正しい評価だった。
 ただ、違うところがあるとすれば、エクトルが兄に対して、必要以上に傾倒していることだろう。
 エクトルにとって、オーギュストは尊敬すべき唯一の男であり、彼の為ならば何をするのもやぶさかではない。
 そういった危険性を孕んだ不安定な精神を持っているのがエクトルという王子だった。

 エクトルとコンスタンス。
 両者は決して、混ぜてはいけない危険物と言えるだろう。
 しかし、時の流れは残酷である。
 交差することのなかった二人の道が、徐々に近づいていた。
 それは自然ではなく、意図的なものだった。
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