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お月様だけが見ている
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子爵令嬢コンスタンス・コンプリス、身柄を拘束される。
衝撃的な報せに国が揺れた。
罪の無い貴族令嬢を殺害した罪だった。
彼女の手にかかり、凄惨な死を遂げた令嬢は六人。
いずれも第二王子エクトルの婚約者候補として、名を挙げられた令嬢である。
かねてより、コンスタンスはエクトルへの妄執を知られていた。
嫌疑をかけられ、容疑者となるのも時間の問題と考えられた。
しかし、そうはならなかった。
一人、二人と犠牲者が増えていく中、当の容疑者は放任された。
そうして、六人もの令嬢が殺害されてしまったのである。
明らかに何者かの干渉を疑われる状況だった。
拘束されたコンスタンスは犯罪者収容施設に収監されることなく、隔離施設へと移された。
精神に異常を来していると診断されたからだ。
彼女の知能指数は決して、低くない。
だが、拘束された当時、コンスタンスは十歳の子供程度の受け答えしかできない状態だった。
無垢な少女が人の死を理解せず、殺意衝動にただ動かされたものである。
そう判断された。
コンスタンスが収監された隔離施設は、彼女の為に用意された離宮と言っても過言ではない。
そう揶揄されることがある。
都会の喧騒とは無縁の寂れた港町に建てられた貴族の別宅を改築した洋館だった。
館は眼下に荒れ狂う波が打ち寄せる崖の上に建っている。
コンスタンスの身の回りの世話をする若干名の人間だけが館の住人だった。
「…………」
窓から見えるどんよりと曇った空。
空の色を映し、昏い色で染まった海を物言わず、眺めるだけ。
収監されてから、コンスタンスは一切の感情を表すことなく、ただ漠然と生きていた。
残虐な犯行に及んだとはとても思えない。
まるで魂を失った抜け殻のような少女がそこにいたのである。
しかし、ある日のことだった。
コンスタンスの世話を任された老女が部屋に入ると部屋の主の姿がなかった。
観音開き窓が大きく開いた状態になっており、折から吹き付ける風でカーテンがはためいている。
コンスタンスの部屋が面するのは崖上で下には荒れ狂う極寒の海しかない。
部屋に差し込む月の優しい光が、虚しく部屋を照らした。
老女の通報ですぐに捜索隊が組織されたが、何の遺留品も見つけられなかった。
コンスタンス・コンプリスと言う名の少女など、最初からいなかったかのように……。
衝撃的な報せに国が揺れた。
罪の無い貴族令嬢を殺害した罪だった。
彼女の手にかかり、凄惨な死を遂げた令嬢は六人。
いずれも第二王子エクトルの婚約者候補として、名を挙げられた令嬢である。
かねてより、コンスタンスはエクトルへの妄執を知られていた。
嫌疑をかけられ、容疑者となるのも時間の問題と考えられた。
しかし、そうはならなかった。
一人、二人と犠牲者が増えていく中、当の容疑者は放任された。
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無垢な少女が人の死を理解せず、殺意衝動にただ動かされたものである。
そう判断された。
コンスタンスが収監された隔離施設は、彼女の為に用意された離宮と言っても過言ではない。
そう揶揄されることがある。
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館は眼下に荒れ狂う波が打ち寄せる崖の上に建っている。
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「…………」
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収監されてから、コンスタンスは一切の感情を表すことなく、ただ漠然と生きていた。
残虐な犯行に及んだとはとても思えない。
まるで魂を失った抜け殻のような少女がそこにいたのである。
しかし、ある日のことだった。
コンスタンスの世話を任された老女が部屋に入ると部屋の主の姿がなかった。
観音開き窓が大きく開いた状態になっており、折から吹き付ける風でカーテンがはためいている。
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部屋に差し込む月の優しい光が、虚しく部屋を照らした。
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