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7 占いをする赤ずきん

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 わたしは冒険者ギルドに登録して、活動している。
 ただし、これは不定期なお仕事だと言える。

 幽霊が出た。
 お化けが出た。
 何とかして欲しいなんて話はそうないのだ。

 この世界には魔法がある。
 何よりも不思議な生物がそこいらにいる。
 多少、不思議な物音がしたり、ラップ現象が起こってもそれを気にする人がいるかと言えば、それどころではないと無視する人の方が圧倒的に多い。

 おばちゃんの宿はちょっと特殊な状況にある。
 そうとも言ってられないんだろう。
 客あっての商売だから、変な噂が立つと差し障りが出る。
 お化けが出ることを宣伝文句にしている宿も確かにあるんだけど、それには危険性の少ない善良な霊体であることが大前提になってしまう。

 おばちゃんの宿に出る霊はお世辞にもそんな安全とは言えない代物だ。
 それでも説得して退去してくれるのはまだ、ましな方。
 最終手段でお帰りいただいた子供の霊に至ってはあまりにも危ない霊体だった。
 もはや、おばちゃんは常連さんと言ってもいいだろう。
 お化けが良く出るのでお化け退治の専門家の常連なんて、ちっとも嬉しくないだろうけど。

 このお化け退治がメインとなるゴーストハンター業は特殊な案件だけに冒険者ギルドの死後でもそれなりに稼げる。
 稼げるんだけど、仕事は不定期にしか来ないし、滅多にない。
 だから、楽にがっぽりと稼いで華やかなスローライフを……。
 とはいかないのだ。

 だから、その気持ちを歌う!
 何か、言いたそうなシルを後目にわたしは池の畔に腰掛けるとリュートを奏で歌う。
 ストレス発散も兼ねているから、憚ることなく大きな声で歌えるのは実に気持ちがいい。

 シルはなぜか、両耳を抑えている。
 小刻みに震えているのがさらに意味の分からないところだ。
 ぬいぐるみに聴覚はあるのか。
 それ以前に音楽を理解する心を持っているのか。
 ゴーレムは人造生命体だから、感性が人間に似たように造られているとでも言うのだろうか。
 どっちにせよ、わたしの高尚な歌と音楽は理解できない。
 そうに決まっている……。

 夕闇の中、静かな水面を見つめつつ、こうして歌っていると少しだけ、スローライフを感じられる。
 そんな気がした。

 

 ラヴィニアは知らない。
 彼女の奏でるリュートの音色はフェンネルで噂になっている。
 決して、いい意味ではない。
 この世の者とは思えない何とも気味の悪い音色とまるで呪詛を込めたように不気味な歌声が聞こえてくる郊外の池の噂である。



「そろそろ先立つ物が必要な頃ね」
「こっちを本業にした方がいいうさよ?」
「その語尾、いい加減にやめない?」
「分かったぴょん」
「それもやめとこうか」

 肩乗りうさぎと化しているシルと取り留めのない会話をしながら、わたしが向かうのはフェンネルの下町だ。
 わたしの副業はこの下町の路地裏が舞台となる。
 それも日が落ちてからが勝負。
 お日様が出ている時間では照明効果など諸々の心理的な舞台装置が、効力を発揮しない。

「今日はここでお仕事にしましょうか」
 
 携帯式のテーブルと椅子を並べ、セッティングをする。
 テーブルの上には白い布ではなく、濃い紫色に染められた布を引いておく。
 心理効果を期待できる照明は灯りとしては光量の弱い蝋燭一本だけ。
 これで準備は完了だ。
 あとは深紅のケープマントに付いたフードを深く被って、お客さんが来るまで待っていればいい。

 そう。
 わたしの副業は占い師なのである。
 魔女の娘だから、占術の心得があったから始めたと思われがちだがそうではない。
 占いに必要なのはリーディングの技術や深い知識ではなく、別の物。
 実は視える力を使っているのだ。

 彼ら――亡者は色々なことを知っている。
 それは生者が知る由もない真実だったり、秘密だったりする。
 時には過去に起きた出来事だけではなく、これから起こり得る未来を予知できるのだから馬鹿にならない。

 お代はそれほど高く設定していない。
 でも、足元を見られるほどに低くもしていない。
 絶妙な匙加減にしておくのが肝になっている。

 さて、今日のお客様はどんな人なのだろうか。
 理由は分からないのに期待できるかもしれないと浮揚感の伴う不思議な感覚を抱いた。
 なぜかいつも以上に亡者の影が多かったのだ。
 こんなにたくさんの影を見るのは初めてのことだった。
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