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9 赤毛の王子と赤ずきん
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赤いずきん(フード)で顔を隠した女性占い師『赤ずきん』。
彼女の占いは不思議とよく当たり、未来視の占い師と話題になっていた。
確実に当たる占いは占いではなく、何か裏があるのではないか。
そう考えた第三王子クリスティアーノはお付きの自由騎士リオネルと件の占い師が現れる絶海の孤島の街フェンネルに旅立った。
遠くリジュボーでも話題になる噂の占い師である。
フェンネルの街で聞き込みを始めた二人は特に苦労することもなく、赤ずきんの情報を手に入れることができた。
「その赤ずきんとやらが占いではなく、何かをしているのかと疑ったがそうでもないようだな」
「そうですね。本当に未来を視ているとしか思えない占いとは信じられませんが、彼女に悪意はないように思えます」
互いの集めた情報を突き合わせ、まとめればまとめるほど、赤ずきんにかけた嫌疑は薄れていった。
彼女の占いはいいことばかりを読んでくれる訳ではない。
これから起こる不幸な出来事も包み隠さず、教えるのだ。
これだけであれば、クリスティアーノが疑いを抱くのも無理はない。
赤ずきんは未来を視ているのではなく、自作自演で未来を確定させているだけに過ぎないと考えれば、悪質な詐欺師の可能性もあるからだ。
ところが赤ずきんは不幸な出来事をどうすれば、乗り切れるのかも懇切丁寧に教授するのだと言う。
この事実に二人は首を傾げるしかなかった。
「本当に未来が視えることなど、ありうるのか?」
「ないとも言えませんね。何しろ、神はそこにいて、あそこにいる。ほら、ここにも。そうではありませんか?」
「まあ。そうではあるんだが。何だか、腑に落ちんな」
未だに納得できないクリスティアーノはエール酒を一杯呷る。
「ぬるいな」と文句を言いながらも一息に飲む彼の姿にリオネルは、苦笑しながらも「それなら、実際に目で確認すればいいのでは」と進言した。
「その手があったな。それでいこう」
クリスティアーノは先程までの不機嫌さは嘘のように少年のような笑顔を見せる。
良くも悪くもこれが彼の持ち味だった。
それから、主従二人は一週間に渡り、フェンネルの路地裏を捜索した。
赤ずきんが路地占いを行うのは路地裏であり、月の出る夜と限定されていたからだ。
方々を探すも中々、思うようにいかない。
だが、クリスティアーノは不屈の意思を持つ男である。
見つからないとなれば、かえって闘志が燃えてくるらしい。
「しかし、路銀の方が……」
「何、問題はないさ」
フェンネルは首都よりも暮らしやすい街である。
路銀はあまり多くなかったが、フェンネルであれば、一週間はゆうに問題なく過ごせる。
その一週間の期限を超えそうになり、リオネルは不安になった。
しかし、クリスティアーノに焦った様子は全く、見られない。
これは彼が王子だから、生活感覚に疎く理解していないせいではない。
彼にはいざという時に頼れる存在がフェンネルにあったのだ。
この時、運が味方したのか、リオネルの願いが天に届いたのか。
二人の探し求める件の占い師が下町で辻占いを始めたのである。
「占いを頼めるだろうか」
クリスティアーノはようやく見つけた赤ずきんを前にして、第一声でしくじったと感じた。
占い師に占いを頼むとは何とも頭の悪い台詞を吐いたものだと自己嫌悪に陥りかけた。
そして、彼は誤魔化すようにとっておきで隠しておいた金貨一枚を代金として、テーブルに置いた。
「あのお客様。お釣りは出せないのですが、よろしいですか?」
「かまわない。お釣りはチップとでも思ってくれ」
「か、かしこまりました」
深紅のケープマントを羽織り、フードを目深に被っているが赤ずきんは噂通り、年若い女だと声が物語っている。
金貨を置いた瞬間、クリスティアーノとラヴィニアの視線が一瞬、交差した。
クリスティアーノの目に入ったのは仄かな光できらきらと煌く、色素の薄い髪と不思議な色合いの瞳だった。
金貨一枚に余程驚いたのだろう。
目を丸くすると表現するのにぴったりな表情をしていた。
彼は不思議な既視感を抱いた。
不思議な色合いの瞳はクリスティアーノの妹マリアの紫水晶の瞳によく似ている。
だが少し、趣が違った。
マリアの瞳よりも薄い色合いをしていた。
どこかで見覚えのある印象的な瞳だったが、それがどこだったのか思い出せない。
クリスティアーノが思索の海に溺れかけた頃、ぶつぶつと呟くような囁き声を発していたラヴィニアの呟きが止まった。
「出ました」
「そ、そうか」
占いとは「何を占いましょうか」と聞かれるものだという思い込みがクリスティアーノにもあった。
ところがラヴィニアの発した言葉は既に結果の出た「出ました」だったのである。
「くれぐれもお気をつけください。あなたの身近な人に危険が迫っています。危険はすぐそこまで迫って……あ」
「あ?」
「少し、遅かったようです」
ラヴィニアはゆっくりと立ち上がるとクリスティアーノの背後を指差した。
訝しむクリスティアーノがラヴィニアの指した方を見やり、愕然とした。
占いが終わるまで見えない場所で控えている予定だったリオネルが、受け身を取ることなく吹き飛ばされていたのである。
体術に優れたリオネルは身体能力も高く、後れを取るところを一度も見たことがない。
そのリオネルが受け身を取る暇すら与えられず、吹き飛ばされたのだ。
幸いなことに命に別状はないようだが、すぐに起き上がれる状況にない。
「お釣りの代わりです。アフターケアはサービス外ですが気にしないでください」
しかし、それよりも信じられない出来事がクリスティアーノの前で起きた。
自分よりも遥かに小柄な赤ずきんが、自分を庇うようにその前に躍り出たのである。
彼女の占いは不思議とよく当たり、未来視の占い師と話題になっていた。
確実に当たる占いは占いではなく、何か裏があるのではないか。
そう考えた第三王子クリスティアーノはお付きの自由騎士リオネルと件の占い師が現れる絶海の孤島の街フェンネルに旅立った。
遠くリジュボーでも話題になる噂の占い師である。
フェンネルの街で聞き込みを始めた二人は特に苦労することもなく、赤ずきんの情報を手に入れることができた。
「その赤ずきんとやらが占いではなく、何かをしているのかと疑ったがそうでもないようだな」
「そうですね。本当に未来を視ているとしか思えない占いとは信じられませんが、彼女に悪意はないように思えます」
互いの集めた情報を突き合わせ、まとめればまとめるほど、赤ずきんにかけた嫌疑は薄れていった。
彼女の占いはいいことばかりを読んでくれる訳ではない。
これから起こる不幸な出来事も包み隠さず、教えるのだ。
これだけであれば、クリスティアーノが疑いを抱くのも無理はない。
赤ずきんは未来を視ているのではなく、自作自演で未来を確定させているだけに過ぎないと考えれば、悪質な詐欺師の可能性もあるからだ。
ところが赤ずきんは不幸な出来事をどうすれば、乗り切れるのかも懇切丁寧に教授するのだと言う。
この事実に二人は首を傾げるしかなかった。
「本当に未来が視えることなど、ありうるのか?」
「ないとも言えませんね。何しろ、神はそこにいて、あそこにいる。ほら、ここにも。そうではありませんか?」
「まあ。そうではあるんだが。何だか、腑に落ちんな」
未だに納得できないクリスティアーノはエール酒を一杯呷る。
「ぬるいな」と文句を言いながらも一息に飲む彼の姿にリオネルは、苦笑しながらも「それなら、実際に目で確認すればいいのでは」と進言した。
「その手があったな。それでいこう」
クリスティアーノは先程までの不機嫌さは嘘のように少年のような笑顔を見せる。
良くも悪くもこれが彼の持ち味だった。
それから、主従二人は一週間に渡り、フェンネルの路地裏を捜索した。
赤ずきんが路地占いを行うのは路地裏であり、月の出る夜と限定されていたからだ。
方々を探すも中々、思うようにいかない。
だが、クリスティアーノは不屈の意思を持つ男である。
見つからないとなれば、かえって闘志が燃えてくるらしい。
「しかし、路銀の方が……」
「何、問題はないさ」
フェンネルは首都よりも暮らしやすい街である。
路銀はあまり多くなかったが、フェンネルであれば、一週間はゆうに問題なく過ごせる。
その一週間の期限を超えそうになり、リオネルは不安になった。
しかし、クリスティアーノに焦った様子は全く、見られない。
これは彼が王子だから、生活感覚に疎く理解していないせいではない。
彼にはいざという時に頼れる存在がフェンネルにあったのだ。
この時、運が味方したのか、リオネルの願いが天に届いたのか。
二人の探し求める件の占い師が下町で辻占いを始めたのである。
「占いを頼めるだろうか」
クリスティアーノはようやく見つけた赤ずきんを前にして、第一声でしくじったと感じた。
占い師に占いを頼むとは何とも頭の悪い台詞を吐いたものだと自己嫌悪に陥りかけた。
そして、彼は誤魔化すようにとっておきで隠しておいた金貨一枚を代金として、テーブルに置いた。
「あのお客様。お釣りは出せないのですが、よろしいですか?」
「かまわない。お釣りはチップとでも思ってくれ」
「か、かしこまりました」
深紅のケープマントを羽織り、フードを目深に被っているが赤ずきんは噂通り、年若い女だと声が物語っている。
金貨を置いた瞬間、クリスティアーノとラヴィニアの視線が一瞬、交差した。
クリスティアーノの目に入ったのは仄かな光できらきらと煌く、色素の薄い髪と不思議な色合いの瞳だった。
金貨一枚に余程驚いたのだろう。
目を丸くすると表現するのにぴったりな表情をしていた。
彼は不思議な既視感を抱いた。
不思議な色合いの瞳はクリスティアーノの妹マリアの紫水晶の瞳によく似ている。
だが少し、趣が違った。
マリアの瞳よりも薄い色合いをしていた。
どこかで見覚えのある印象的な瞳だったが、それがどこだったのか思い出せない。
クリスティアーノが思索の海に溺れかけた頃、ぶつぶつと呟くような囁き声を発していたラヴィニアの呟きが止まった。
「出ました」
「そ、そうか」
占いとは「何を占いましょうか」と聞かれるものだという思い込みがクリスティアーノにもあった。
ところがラヴィニアの発した言葉は既に結果の出た「出ました」だったのである。
「くれぐれもお気をつけください。あなたの身近な人に危険が迫っています。危険はすぐそこまで迫って……あ」
「あ?」
「少し、遅かったようです」
ラヴィニアはゆっくりと立ち上がるとクリスティアーノの背後を指差した。
訝しむクリスティアーノがラヴィニアの指した方を見やり、愕然とした。
占いが終わるまで見えない場所で控えている予定だったリオネルが、受け身を取ることなく吹き飛ばされていたのである。
体術に優れたリオネルは身体能力も高く、後れを取るところを一度も見たことがない。
そのリオネルが受け身を取る暇すら与えられず、吹き飛ばされたのだ。
幸いなことに命に別状はないようだが、すぐに起き上がれる状況にない。
「お釣りの代わりです。アフターケアはサービス外ですが気にしないでください」
しかし、それよりも信じられない出来事がクリスティアーノの前で起きた。
自分よりも遥かに小柄な赤ずきんが、自分を庇うようにその前に躍り出たのである。
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