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13 祝福という名の呪い
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白の聖女オデット。
黒の聖女オディール。
同じ癒しでありながら、相反する力に左右される奇妙な双子の姉妹。
二人が魔女の血を引いているからこそ、起きたと言っても過言ではない。
それは体に流れる古き血の祝福であり、呪いである。
そして、この祝福に悩まされる者は少なくないのだ。
古き血を伝えている家に生まれた者ほど、その影響が大きく各地の王族や貴族などといった被支配者階層にその傾向が大きかった。
リジュボーを治めるデ・ポルトゥガル王家もその一つだった。
もっともこれまでは顕著にその特質が表層化していなかった。
当代の王ジョアンと王妃クリスティナの代になってから、起きた。
これにはジョアンの血がデ・ポルトゥガルの血と混じり、古き血が活性化した為である。
次代の王となるべく期待された優秀な第一王女イザベルが、王位継承権を返上したのも呪われし祝福のせいだった。
あの夜、赤ずきんと呼ばれる必中の占い師と出会い、この世ならざる恐るべき獣に襲撃されたクリスティアーノとリオネルの姿がフェンネルでも名の知れた酒場にあった。
「実に不思議だ」
「そうですね」
海老と貝柱といった魚介類とブロッコリーやパプリカを香りづけのされた油で煮込んだ料理に舌鼓を打ちながら、ちびちびとエール酒を呷る二人だがその表情は決して、芳しいものではない。
それまでにも幾度もの怪奇極まりない様々な体験をこなしてきた二人である。
ところが不思議な占い師を訪ねたばかりに一晩で体験した出来事はあまりに異質だった。
「聖女の力とは違うのか?」
「それとは少々、違うと感じました。以前、セレス王国で見た聖女の力とは明らかに違うものです」
「そうか」
「ええ」
ラヴィニアの癒しの力を受けたリオネルはお世辞にも顔色がいいとは言えなかった。
血の気が悪い少しばかり、青白い顔をしているのだ。
結構な量の血液を失った為、顔面蒼白と言っても顔色をしているリオネルだが普段はちょっと浅黒い肌の健康的な男である。
それを知っているだけにクリスティアーノの顔も浮かない物があった。
これがラヴィニアの使った癒しが、オデットのような白の聖女と呼ばれる者が使う癒しとの相違点だった。
白の癒しは欠損した部位をも復元できる者がいる。
失った血液すらも元通りにしているからこその奇跡でもあるのだ。
だが、ラヴィニアの黒の癒しは根本的に異なる。
癒すことはできるが、そこに限度があると言ってもいいだろう。
「そういえば、彼女は最後に不思議なことを言っていたな」
「はい?」
クリスティアーノは顎に利き手である右手を添えた。
彼お得意の一考する姿勢に入ったのだ。
こうなると誰が何を言おうとも彼が考えを変えることはないとリオネルは思った。
長年の付き合いで友人の分かりやすい癖が分からないリオネルではない。
「まずはシルヴァ卿を訪ねるとしよう」
リオネルは言葉を発さず、首肯するだけ。
それにはちょっとした理由がある。
クリスティアーノが名を挙げたシルヴァ卿とは元神殿騎士のフェルナンド・シルヴァのことだ。
神殿騎士はまたの名を聖騎士、聖戦士などとも呼ばれる。
神官であり、神に仕える戦士としても知られる厳格な掟に縛られた騎士のことである。
所属している神殿にもよるが一般的には排他的かつ保守的な思想を持つ者が多いのでも知られていた。
出自ゆえにリオネルはその手の人間に苦手意識を持つ。
それゆえに感情を押し殺したように首肯したのである。
フェルナンド・シルヴァは元々、首都リジュボーの神殿に所属する神殿騎士だった。
しかし、今の肩書はリオネルと同じ自由騎士だ。
思うところあり職を辞したフェルナンドは仕えるべき主に従い、ここフェンネルにあった。
フェルナンドが仕える主こそ、ラヴィニアが会うべきだと最後にアドバイスしたクリスティアーノの姉イザベルだった。
イザベルは王位継承権を返上すると喧騒を避けるように辺境へ蟄居した。
その辺境が絶海の孤島の街フェンネルである。
離宮などあろうもはずがない。
構わずイザベルは手頃な屋敷を手に入れ、修築するとそこが終の棲家と言わんばかりに腰を落ち着けていた。
彼女に従う供回りは第一王女という身分を考えれば、驚くほどに少ない。
気心の知れた侍女一人と護衛を務める騎士二人。
たった三人なのだ。
その護衛騎士の一人がフェルナンドだった。
フェルナンドとの面識があったクリスティアーノは一縷の望みを懸け、渡りを付けたのである。
なぜなら、イザベルは家族である王家の者とすら、一切の面会を拒否している。
手紙や使者の言上はちゃんと受け取る。
丁寧な返信には彼女の細やかな心遣いが感じられる。
何らかの理由があるにせよ、明らかにされないままフェンネルに引き籠った第一王女は姿を全く、見せないでいる。
黒の聖女オディール。
同じ癒しでありながら、相反する力に左右される奇妙な双子の姉妹。
二人が魔女の血を引いているからこそ、起きたと言っても過言ではない。
それは体に流れる古き血の祝福であり、呪いである。
そして、この祝福に悩まされる者は少なくないのだ。
古き血を伝えている家に生まれた者ほど、その影響が大きく各地の王族や貴族などといった被支配者階層にその傾向が大きかった。
リジュボーを治めるデ・ポルトゥガル王家もその一つだった。
もっともこれまでは顕著にその特質が表層化していなかった。
当代の王ジョアンと王妃クリスティナの代になってから、起きた。
これにはジョアンの血がデ・ポルトゥガルの血と混じり、古き血が活性化した為である。
次代の王となるべく期待された優秀な第一王女イザベルが、王位継承権を返上したのも呪われし祝福のせいだった。
あの夜、赤ずきんと呼ばれる必中の占い師と出会い、この世ならざる恐るべき獣に襲撃されたクリスティアーノとリオネルの姿がフェンネルでも名の知れた酒場にあった。
「実に不思議だ」
「そうですね」
海老と貝柱といった魚介類とブロッコリーやパプリカを香りづけのされた油で煮込んだ料理に舌鼓を打ちながら、ちびちびとエール酒を呷る二人だがその表情は決して、芳しいものではない。
それまでにも幾度もの怪奇極まりない様々な体験をこなしてきた二人である。
ところが不思議な占い師を訪ねたばかりに一晩で体験した出来事はあまりに異質だった。
「聖女の力とは違うのか?」
「それとは少々、違うと感じました。以前、セレス王国で見た聖女の力とは明らかに違うものです」
「そうか」
「ええ」
ラヴィニアの癒しの力を受けたリオネルはお世辞にも顔色がいいとは言えなかった。
血の気が悪い少しばかり、青白い顔をしているのだ。
結構な量の血液を失った為、顔面蒼白と言っても顔色をしているリオネルだが普段はちょっと浅黒い肌の健康的な男である。
それを知っているだけにクリスティアーノの顔も浮かない物があった。
これがラヴィニアの使った癒しが、オデットのような白の聖女と呼ばれる者が使う癒しとの相違点だった。
白の癒しは欠損した部位をも復元できる者がいる。
失った血液すらも元通りにしているからこその奇跡でもあるのだ。
だが、ラヴィニアの黒の癒しは根本的に異なる。
癒すことはできるが、そこに限度があると言ってもいいだろう。
「そういえば、彼女は最後に不思議なことを言っていたな」
「はい?」
クリスティアーノは顎に利き手である右手を添えた。
彼お得意の一考する姿勢に入ったのだ。
こうなると誰が何を言おうとも彼が考えを変えることはないとリオネルは思った。
長年の付き合いで友人の分かりやすい癖が分からないリオネルではない。
「まずはシルヴァ卿を訪ねるとしよう」
リオネルは言葉を発さず、首肯するだけ。
それにはちょっとした理由がある。
クリスティアーノが名を挙げたシルヴァ卿とは元神殿騎士のフェルナンド・シルヴァのことだ。
神殿騎士はまたの名を聖騎士、聖戦士などとも呼ばれる。
神官であり、神に仕える戦士としても知られる厳格な掟に縛られた騎士のことである。
所属している神殿にもよるが一般的には排他的かつ保守的な思想を持つ者が多いのでも知られていた。
出自ゆえにリオネルはその手の人間に苦手意識を持つ。
それゆえに感情を押し殺したように首肯したのである。
フェルナンド・シルヴァは元々、首都リジュボーの神殿に所属する神殿騎士だった。
しかし、今の肩書はリオネルと同じ自由騎士だ。
思うところあり職を辞したフェルナンドは仕えるべき主に従い、ここフェンネルにあった。
フェルナンドが仕える主こそ、ラヴィニアが会うべきだと最後にアドバイスしたクリスティアーノの姉イザベルだった。
イザベルは王位継承権を返上すると喧騒を避けるように辺境へ蟄居した。
その辺境が絶海の孤島の街フェンネルである。
離宮などあろうもはずがない。
構わずイザベルは手頃な屋敷を手に入れ、修築するとそこが終の棲家と言わんばかりに腰を落ち着けていた。
彼女に従う供回りは第一王女という身分を考えれば、驚くほどに少ない。
気心の知れた侍女一人と護衛を務める騎士二人。
たった三人なのだ。
その護衛騎士の一人がフェルナンドだった。
フェルナンドとの面識があったクリスティアーノは一縷の望みを懸け、渡りを付けたのである。
なぜなら、イザベルは家族である王家の者とすら、一切の面会を拒否している。
手紙や使者の言上はちゃんと受け取る。
丁寧な返信には彼女の細やかな心遣いが感じられる。
何らかの理由があるにせよ、明らかにされないままフェンネルに引き籠った第一王女は姿を全く、見せないでいる。
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