ホンモノの自分へ

真冬

文字の大きさ
36 / 39

第35話「修学旅行準備」

しおりを挟む


 6限が開始するチャイムがなって5分経ってから福原は当たり前のようにノソノソと教室に入ってきた。
「今月、修学旅行あるからグループを決めるからなー」
 グループ決め…嫌な言葉だ。
 福原はカツカツと音を立てて黒板に数字を1から6まで書き並べた。
「クラス35人で6人ないし、5人グループが6つだ。いいな?」
 これから修学旅行を迎えることにテンションが上ってる者たちが「はーい」と元気の良い小学生のように返事をして、その返事をしっかりと耳で聞き取ったことを確認した福原が口を開いた。
「じゃあ好きなやつとグループを決めてくれ」
 福原は軽はずみにそう言うが、その言葉が今までの僕にどれだけ苦痛を与えてきただろうか。
 集団内でグループを作れといつも教師は当たり前のように言うし、生徒にグループを決めさせたほうが楽だからそうしてるのかもしれないけど、こういうグループを決めるときは必ず僕だけ余る。
 別に誰かと一緒になりたいなんて思わない。でも、余るということはその集団から必要とされていないということだ。誰も僕を求めるやつ無いんていない。それどころか拒絶してきた。
 そして、余った僕は教師から人数が足りていないグループはないか探されて、嫌な顔をされながら無理やり人数が足りてないグループへ押し込まれるというのが常だった。

「樹、どこ行くよ」
「私シカ見に行きたーい」
「理奈、それ奈良だよ…」
「土日暇じゃなくなったね、樹」

 でも、今は違うのかもしれない。
 目の前には今までとは違った世界が広がっている。
 そこには、クラス全員から集まる冷たく刺さるような視線は無く、4人の太陽のような笑顔が僕の世界に広がっていた。
 だから、今までの学生生活の中で初めてこのメンバーで修学旅行に行ってみたいと思えた。


「女子が私と理奈の2人だからあと一人誘わないとね」
 明島が同じ班だからか教室を見渡してみるとやたら男子と目が合ったような気がしたけど、それ以上に気になったのが教室の前で福原の隣に立っている女性だ。
「おーい、西岡が余ったんだが誰か入れてくんないかー」
 相変わらず残った人に対する配慮のかけらもない言葉だ。僕は今の西岡さんの気持ちは痛いほどわかる。
「私達女子2人なので入れますよ」
「じゃあ、西岡は明島のグループな」
 西岡さんの全く面識のないグループに勝手に押し込まれるのではないかと不安だったが、成川も明島も西岡さんとは最近仲良くなっていたらしいので、僕は自分のことのように安堵した。
 
 ただ、僕は福原の無神経さに気を取られていたけど何か大事なことを忘れているような気がした。
 またこっちをジロジロと見る男子がいるけどその中に明らかに視線が違いニヤニヤとした不敵な笑みを浮かべる男子がいた。それは、柿原だ。
 僕は柿原と目があってその忘れていたことを思い出した。
 そう、西岡さんは大場と付き合っていたことだ。
 僕はこの前聞いたから2人が付き合っていたということを知ってるけど、大場は周りには付き合ってることがほとんど知られていなかったと言っていた。
 だから、あの時の反応から察するにあまり触れない方が良いような話題なのかもしれない。
 しかし、宮橋や明島、成川はその事を知ってるのだろうか。
 話している様子だといつも通りだし、そんなことは知らなそうな感じがする。それとも、2人が気まずくならないようにそう取り繕っているだけだろうか。
 最近、コミュニケーションの経験の差なのか彼らにとっての当たり前が僕にとっては当たり前じゃないことが多いから、彼らが表面で作っている感情や言葉が空気を読んでだ上で発しているのかどうか曖昧になってきていた。
 以前までの自分とコミュニケーションを取っていた彼らには、そういう苦労をさせていたのかと思うと、なにか申し訳ない気持ちが急に沸き上がってきた。

 そんな事を考えているうちに西岡さんが男女向かい合って座っている僕らのグループに来て僕の正面に静かに着席した。
 西岡さんと会話した記憶は文化祭で挨拶をしたくらいだから薄っすらとしか覚えていないが、この机2個分程の距離に接近したのはそれ以来になるかもしれない。

 僕は明島と成川と会話している西岡さんを一度顔と名前を忘れてしまっていたので、記憶に鮮明に刻もうとしばらく見ていた。
 まず、西岡さんは色白なのが一番印象的だ。単に色白という言葉で形容するにはまだ不足しているかもしれない。まるで血の通っていないぐらい白い肌というのが最もイメージが付きやすい表現だろう。だから、大場も色白だが西岡さんはそれ以上に白いような気がする。
 そして、西岡さんから一番強く感じたことは乾いたような眼差しをしていることだ。それは、初めて大場と2人で話したときに感じたものと同じだった。だから、2人にはそういった共通点があるように思える。恋愛では似た者同士は惹かれ合うらしいけどこの共通点で2人は付き合うきっかけになったのかもしれない。勝手な推測だけど。
 ただ気になったのは、西岡さんが着席してから数分経つけど大場と西岡さんは一言も会話するどころか目も合わせていないことだった。
 
 グループでは成川や明島が行き先を話し合っていたらしいが殆ど聞いていなかった僕は、修学旅行の見学先が書かれた紙を渡され、さも聞いていたかのように頷いて受け取ったが、どうやらグループ行動する際の見学場所がいつのまにか決まっていたらしい。


 6限は終了して、結局グループで話してるときも大場は西岡さんと一言も会話していなかった。別れたカップルがその後どういう関係に落ち着くとか交際経験の無い僕には何もわからないので、こういう関係に落ち着くこともあるのかもしれないと受け入れて余計な詮索をすることを辞めた。
 西岡さんも大場と一言も言葉を発していない僕以外は仲良く話しているようなのでこのままでもいいだろうと思った。

 帰りのHRを終え女子は残って他の友だちと駄弁っている中、僕ら男子3人は先に教室を出たが偶然にも柿原も一緒に帰ることになった。偶然にも…。
「いやぁ京都楽しみだよな。午後さ自由行動だしみんなでエッチな店行かね?」
「行かねぇよ。そもそも、年確されるだろ」
 柿原がまた不敵な笑みを浮かべた。それは宮橋の発言に対するものでないことはなんとなく推測できた。
「でも、お前らのグループは午後何すんの?」
「京都の名所まわんじゃねぇの?成川たちがなんか決めてたぜ」
「えーめっちゃいいじゃん。お前らのグループなんか楽しそうで羨ましいわー」
 さっきから柿原の返しが、なにか白々しい演技のように見える。というか、わざとそうしているようにも見えるけど。
「柿原のグループも楽しそうだろ、長内も烏丸もいるし」
「俺、烏丸さんに嫌われたんだよなー」
「お前一体何したんだよ…」
「俺らに比べたらお前らは男女仲良くていいじゃん。いつメンだし」
「まあな。西岡も俺は仲いいし」
 その単語を引っ張り出すために会話を続けてきた柿原は視線を用済みの宮橋から大場に移して、柿原の内側からにじみ出る笑顔を抑えきれずに溢れていた。
「俺と宮橋は西岡ちゃんと仲いいけどさ、周はどうなの?」
 白々しいというか意地の悪い質問を柿原は楽しむように大場に投げつけた。
 そもそも疑問に思ったが、2人は「仲いい」という言葉を使っているけど、普段は一緒にいるわけでもない相手との関係を仲がいいと言うのはどのぐらいが基準で使い始めるものなのかわからず「仲いい」という言葉を使う定義がわからず困惑していた。
「…僕も仲…いいけど」
 言葉を出すのが億劫という様子の大場は「いいけど」の部分が歯切れの悪い言い方だった。
 それは、言える言葉までは言ってから後出しで考えた痕跡のように思えた。
 そして、僕の目から見ても大場と西岡さんが仲が良いいようには全く見えなかったので流石にその嘘はばれることは決定的だった。
 当然ながら、柿原の狙い通りの結果になった。
「周、西岡と仲いいの?さっき、全く話してなかったよな?」
 柿原はさっきまでニヤニヤしていたけど計画通りに言ったことが嬉しかったようで抑えられずに白い歯を見せて声を殺して笑っていた。
「普段、西岡と周って話してたっけ?」
 宮橋は当然悪気はないが、当然湧き上がる疑問を解消するための質問が無意識に大場に追い打ちをかけていることなんて夢にも思わないだろう。
 ただ、ずっと黙って会話を聞いていた僕だったが、なんだか目の前で柿原に追い詰められている大場が可愛そうになってきたので大場をかばうことにした。
「仲の良さは人それぞれだからもう良いんじゃないかな?」
 しかし、努力も虚しく僕の発言は通り過ぎる空気のように消えていき柿原どころか大場にさえも届かなかった。
 その証拠に段々と大場の白い頬が赤く染まってきて、限界を迎えたように大きく息を吐いて長いまばたきをした。
「もう、わかったよ。言えば良いんだろ柿原」
「柿原?なんで柿原なんだ?」
「西岡さんは僕の元カノです。これでいい?」
「え!?マジか周」
 柿原は宮橋のリアクションを噛みしめるように頷きながら眺めていた。
 そして、宮橋は文字通り目を見開いて大場のことを目で突き刺すくらい凝視している。
「意外な組み合わせだなー」
 宮橋は驚いた余韻の力だけで唇を動かさずに喉から音だけが出てきたような言い方だった。 
 でも、僕も宮橋の気持はよく分かる。初めて訊いたときは確かに意外な組み合わせだと思った。
「てか、柿原知ってたのか?」
「もちろんもちろん、ちなみに天野っちも知ってるよ」
「この前の土曜日にバッタリあってその時に訊いたんだよね…」
 事実だけど、なにか言ってはいけないことを言っているような罪悪感が僕を支配しているようだった。
 宮橋は「そうだったのかぁ」と3回くらい呟いた後、再び大場の方を見て親指を突き立てて
「気まずかったら言えよ。俺らがサポートするから」
「別にそんなんじゃないって」
 大場の頬はいつもの白色に戻っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...