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第29話【メイシス王女の錬金工房合宿 その四】

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 場面変わって、買い物に出かけたメイシス王女は日頃出来ない庶民的お出かけに内心興奮していた。

『いつもだと馬車で目的地まで窓から外を見ているだけで何一つ手に取ることも出来なかったし誰とも話す事も出来なかった。
 馬車が通れば人々は道を開け、頭を下げて通過するのを待った。だから私は民の笑ってる顔を見たことがなかった。
 でも今は違う!みんな笑顔で商売に雑談に花をさかせている』

 もちろんメイシス王女は今回お出かけするのに変装していた。
 いくら日頃人々の前に顔を出さないとはいえ王女殿下の顔を知っている者は少なくない。
 バレたら大騒ぎになる事は容易く想像できた。なのでミルフィに頼んで髪型を変え、服もセジュから借りてフードを少しばかり深めにかぶってパッと見王女とは分からないようにしていた。

「これから行きつけの服屋に行きますが他に何か気になる事はありますか?例えばそこの屋台で買い食いとか……」

「はい!やってみたいです!!」

 メイシス王女即答であった。

「じゃあこれで串焼きを3本買ってきてください。買ってきたら3人で食べましょう」

 ミルフィはそう言うと300リアをメイシスに渡した。

「買い方が分かりませんわ。どうすれば良いのですか?」

「そうですね。まず屋台の前に行って、店主に「串焼きを3本ください」と言います。
 そしたら店主が串焼きを袋に入れてくれますのでお金を払ってください。
 1本で100リアですので3本で300リア払えば商品と交換してくれますので袋を受け取って戻れば大丈夫です」

 説明を聞いたメイシスは頭の中で行動をシミュレーションすると頷いて屋台へ歩いて行った。

「すみませんがそこの串焼きを3本ほど頂けますでしょうか?」

「あいよ!お嬢さんあまり見ない顔だね!この辺りは初めてかな?
 どうだい?この市場は活気があるだろう!
 この近くには錬魔士様がいらっしゃって自分達の商売や暮らしに役立つ道具を次々と発明して最初に使わせてくれるんだ。
 だから他所に比べても発展してるし、みんなの活気も上々なんだよ!」

 串焼き屋の店主はそう言うと4本串焼きを袋に入れてメイシスに言った。

「全部で300リアな。お嬢さん初顔だから1本はサービスだ。
 食ってみて旨かったらまた頼むな!」

「あ、ありがとうございます。それではこれで大丈夫でしょうか?」

 メイシスは店主に300リアを支払うと串焼きの袋を受け取りおじぎをしてミルフィ達の所に戻っていった。

「無事に買えましたわ。サービスと言って1本多く頂きましたが良いのでしょうか?」

「メイシス様。それが商売と言うものですよ。
 たとえ今回はサービスとして損をしてもまた買ってくれたり常連になってくれたら継続して商品が売れますよね?
 そうして売り上げを伸ばしていくやり方もあると言うことですよ」

 セジュが串焼き屋の店主の考え方を説明するとメイシス王女は「なるほど!勉強になります」と言って何やらメモをしていた。

 その後、3人は目的地の服屋に到着するとミルフィが店主に服の注文をすると「少々お待ち下さい」と奥に案内された。
 暫くすると「お待たせしました。こちらにどうぞ」とメイシス王女を試着室に招いて用意した服を差し出した。

「私が手伝いますの」

 ミルフィはメイシスが王女の為、日頃から侍女に着替えを手伝ってもらっていると考えて手伝いを申し入れたが「大丈夫、自分で出来ますよ」と言われ少し驚いたが「分かりました」と言いメイシス王女に任せることにした。

 数分後「出来ましたわ。どうでしょうか?」とメイシス王女が試着室から香りを出した。
 メイシス王女に渡された服はララが王宮に出向いた際に来ていた服の色違いで空色の錬金服であった。

「まあ、よくお似合いですわ」

 服屋の店主はメイシス王女の試着服を見て素直に誉めた。

「そうですね。私も良いと思いますわ」

 動きやすいデザインでありながらおしゃれなデザインとも言える服はメイシス王女によく合っていた。
 メイシス王女も気に入ったらしく鏡に写る自分をしげしげと眺めて言った。

「それでは明日よりこの服でマスターの講習を受けてくださいね。
 ああ、洗い替えの予備をもう2着準備しますので大丈夫ですの」

 ミルフィはそう言うと店主に明後日までにあと2着届けるように注文していた。

「今日はありがとうございました。
 とても有意義なお休みでしたわ。
 色々な経験をさせて貰えるだけでも講習をお願いして良かったと思いますわ。
 明日からもよろしくお願いしますわ」

メイシスはふたりにお礼を言って3人で工房へ戻って行った。

   *   *   *

「よーし。それでは今日からメイシス様の錬金術実技講習を始めるぞ。今日からはララも一緒にやるからよろしく頼むよ」

「はーい!まかせて!」

「よろしくお願いいたしますわ」

 僕はメイシス王女とララのふたりに同じ素材を渡して錬金釜の前に立たせた。

「いきなりだがまずはこれを作ってもらおうかな。
 ララは当然出来るだろうけどメイシス様は何をどうやるか分からないと思うので、この紙に書かれている手順に従ってやってみて下さい。
 大丈夫ですよ基本的に手は出さないですが僕が後ろに控えてますので危ないようなら止めますから」

「分かりました。頑張りますのでよろしくお願いします」

 僕がふたりに渡した物で出来る物は「傷薬」であった。
 これを知っていると何かにつけて助かる確率が上がるので是非とも習得させたいレシピであった。

「とりあえずララ作ってみろ。メイシス様は作り方のレシピと手順書を見ながらララの錬金術をまず見てください」

「了解、いくよー。えーと、カナルの実とスズの花弁を入れて魔力液を規定量入れたら魔方陣を描いて蓋にしてからかき混ぜ君でぐーるぐーるして魔力の高まりを感じたら仕上げに定着石を入れて3分待つと……出来た!」

 ララの錬金釜から青い光が登った後薄いピンクの液体が出来上がっていた。

「よし。効果を確認するぞ」

 僕は薬の効果を確認するための人形に傷を付けてから出来上がった液体をかけてみた。

『しゅわわわわわ!』

 人形の傷口から泡が出てきたかと思うと数秒後には傷が消えていた。

「よし。充分な効果だ!なかなか腕を上げたなララ」

「えへへー。まあこのくらいなら楽勝ね。伊達でタクミの弟子を名乗ってる訳じゃないんだからね」

 ララは無い胸を張って自慢気にしていた。

「次はメイシス様やってみて下さい。今のララと同じ手順で大丈夫ですよ」

「分かりました。やってみます!」

 メイシス王女は素材を錬金釜に入れて魔方陣を組始めた。
 大体の場合はここでつまずく事が多いのだが座学を真面目に学んでいた為ゆっくりではあるがきちんとした魔方陣を組む事が出来ていた。

「これで蓋をしてかき混ぜ棒で混ぜて……魔力の高まりを感じる……」

『んー。そろそろ定着石を入れるタイミングなんだけど魔力の高まりが分かりにくいのかな?
 まあ、失敗しても爆発とかはないからまだ黙っておくか』

 隣のララも気がついているけど僕が何も言わないのでおとなしく黙っているな。

「錬魔士様。多分このくらいだと思うのですが、先程のララさんの時間からするとかなり長過ぎるような気がして不安なのですが」

「やはりそうでしたか。もうずいぶん前に入れるタイミングは過ぎてしまってますが、タイミングを間違えたらどうなるかを知る良い機会ですので今から定着石を入れてみて下さい」

「はい。分かりましたわ。えい!定着石投入!」

 定着石を入れたメイシスの錬金釜は赤い光を出して定着した。中を見ると液体は濃い赤色をしていた。
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