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第38話【元勇者、パーティーに勧誘される】

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「私たちのパーティーに入りませんか?」

 いきなりカレンが立ち上がり俺のそばにきて両手を握りしめながらそう告げる。

「いきなりだな。せっかくの誘いだが俺は今依頼の途中だしそう言ったことは受けることは出来ない。それに君はパーティーのリーダーなのか? 他のメンバーの同意無しに他人を勧誘するのもどうかと思うぞ」

 治療する時は余裕がなくゆっくりと彼女を見る余裕が無かったが間近でみると顔立ちも整った美人だ。そんな彼女に両手を握られたままお願いされれば男として思うところはある。だが、敢えてこの場は断りをいれた。

「同意はこの場でも取ることは出来ますわ。そしてあなたを受け入れる事を否定する人もいないはずです」

 カレンはそう言って周りのメンバーの顔を見回し全員がうなずくのを見て微笑む。

「いかがですか? これで納得してもらえると思うのですが……」

「まあ、確かに君のパーティーメンバーは同意をしているようだがやはり加入は断らせてもらうよ。さっきも言ったが今は依頼の旅の途中だ、俺がこの依頼を途中でキャンセルして君たちの中に入るのはありえない選択だとは思わないか?」

「でしたらその依頼の後でも良いですよ。私たちはこのギルド所属ですので護衛依頼が終わってから戻られる時に声をかけてくれればと思います」

 カレンはそう言って何度も条件を変えながら俺にアプローチをしてきた。

「――すまない。とりあえず今はその気がないということでおさめてくれないか? 俺も事情があって彼女の依頼が完了したら自分のやりたい事があるんだ。だからパーティーは組めない」

 俺がはっきりと断るとカレンはため息をついて残念がった。

「カレンさん、ギルドとしましてもこれ以上の勧誘はペナルティの範囲となりますのでお気をつけください」

 隣で話を聞いて今まで発言を控えていた受付嬢が俺がはっきりと否定したところで話に介入してくれた。

「わかりました。諦めます。ですが今度お会いした時にまだフリーだったらご一緒してくださいね」

「悪いがそれも約束は出来ないが、まあ縁があればまた何処かで会うこともあるだろう」

 俺はそう言って受付嬢に話を振る。

「これで話は終わりでいいか? 俺たちも数日後には街を出なければならないから少々急いでいるのだが」

「それは失礼しました。報酬に関しては明日の朝までには準備させて頂きますのでお手数ですが取りに来てもらえますでしょうか?」

「ああ、わかった。では明日の朝一番に受け取りに来るとするよ」

「よろしくお願いします」

 俺は受付嬢にそう言ってから深緑の風のメンバーに軽く会釈をすると彼らは全員で深く頭を下げてリーダーと見られる男性が再度感謝の意を言葉にした。

「自分はパーティーリーダーでラックという。今日はカレンの命を救ってくれてありがとう。メンバー全員で最大限の感謝をする。パーティーメンバーの件は前向きに考えてくれると嬉しいがあなたの意を反してまでとは言わないので検討だけでもしてみてくれると嬉しい。また、何処かで出会ったときはよろしく頼む」

「まあ、出会った時にはな」

 俺はそう言うラックと握手を交わしてからマリーと共に部屋を出た。


「――パーティーの打診を断って良かったのですか?」

 部屋を出た時、マリーが俺にそう問いかける。

「ん? ああ、そのことを気にしてたのか。なに、構わないさ。確かにパーティーとして活動することには意味があるだろうが今は君の依頼が最優先だから特に君が気にすることはないさ」

「ありがとうございます。こんな割の良くない依頼なのに受け入れてくれて」

 マリーはそう言いながら俺の横に並んで歩いていく。


「この後、商業ギルドで地図と情報を買ったら今日は早めに休んで明日の朝には出発しましょう」

「ん? もう一日街に滞在する予定じゃなかったか?」

「そのつもりだったんですけど、なんだか一日余計に滞在してるとあなたの気持ちが変わってやっぱり残るってなるかもしれないから……」

 マリーはこっちを見ないままにそうぽそりと言ってうつむきながら歩いていく。

「そんな心配はいらないんだが分かった、マリーさんがそう言うならば護衛の俺はそれに従うまでだよ」

「本当に勝手を言ってごめんなさい」

 謝るマリーに俺は頭をぽんと軽く叩いて「商業ギルドに着いたぞ。さっさと用事をすませて美味いメシでも食べようぜ」と優しく笑いかけた。

 ◇◇◇

 ――からん。

 商業ギルドのドアを開けるとスッと受付嬢がそばに寄ってくる。相変わらず接客の教育が徹底されているようで感心をする。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付嬢のマニュアル通りの質問がきたのでこちらもいつも通りの答えをマリーが返す。

「マイルーン農業国国境までの地図と安全上の情報を購入したいのですが……」

「承りました。では3番の窓口へお進みくださいませ」

 受付嬢は用件の内容と空いている窓口を選んで俺たちを誘導してくれた。

「――特に重要な情報はありませんでしたね」

「まあな、だが重要な情報がないことが特に問題が起きていない証拠でもあるのだから良かったと考えるべきとも言えるぞ」

「そうですね。無事にたどり着く事が最優先ですからそうなのですよね」
 大きな問題もなく順調に進めそうなことに安堵して宿へ向かった俺たちだったが宿に着いた俺たちを待っていたのは店員のとんでもない一言だった。
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