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第50話【元勇者、情報を集める②】
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――リンリン。
商業ギルドのドアを開けると鈴の音が鳴り冒険者ギルドと同じく直ぐに用件伺いの案内嬢が歩み寄ってくる。
「本日のご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」
全てマニュアル通りなのだろう効率をよくするための対応が良くなされている。
「ダクト行きの乗り合い馬車が出ていないかを知りたいのだが……」
「乗り合い馬車の運行情報ですね。2番窓口へお進みください」
案内嬢は俺の案件に見合った窓口へと誘導すると次に入ってきた者の対応へと移っていった。
「乗り合い馬車の情報ですね。行き先はダクトの町ですか……そうですね、現在乗客を募集中ですが乗り合い馬車は最低10名集まらないと運行出来ませんので今のところいつの出発になるかは未定ですね」
「今、何人が集まっているんだ?」
「あなたで1人目ですのであと最低9名は必要ですね」
「そんなに集まらないものなのか?」
「先日出たばかりですので仕方ないと思いますが急いでおられるのならば専属馬車をご用意することも出来ます。但し馬車の料金に加えて護衛費などの経費をお支払いして頂きますが……」
「いやいや、単独で専用馬車を借りるなんでどこの富豪だよ。俺みたいな冒険者がそんな金を持ってないのは分かってるよな?」
「ちっ 貧乏人が……」
なんか受付嬢の口から聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がしたが大人な俺は華麗にスルーして受付嬢に質問をする。
「他に移動手段は無いのか?」
「そうですね。冒険者の方ならばランク次第では商隊の護衛をされながら移動する人も若干ながらおられます」
「護衛依頼か……。だが、それは冒険者ギルドの管轄じゃないのか?」
「そうですね、ですから必要な場合は商業ギルドから冒険者ギルドへ依頼を出す形になります。大商隊ならともかく、個人で冒険者ギルドへ行っても相手にされない事があるようですので代わりに依頼主となるのです」
「それで出発予定の商隊は存在するのか?」
「商隊ではありませんが今すぐにでもと言われている方がおられまして既に冒険者ギルドへ依頼していますので今ならば護衛依頼の空きがあると思いますよ」
(すぐにある冒険者ギルドの護衛依頼と言えば……先ほどのあれか、商業ギルドにも依頼していたのか)
「うーん、護衛依頼かぁ。今は受ける気がないんだよな」
「乗り合い馬車も今のところは出る予定もありませんし、護衛依頼も受ける気が無いのでしたら出来ることは徒歩での移動になるでしょうね。冒険者の方ならば途中1日野営をされればラウの村までたどり着けるでしょうし、自分の身を守るだけならばそう難しい事ではないでしょうから」
(そうなんだよな。勇者時代は馬車に乗って移動なんてありえなかったんだから町のひとつやふたつ歩くのなんて対した事じゃ無かったけどマリーとの旅があまりにも楽だったから体が鈍ってきたのかもしれないな)
「分かった、そうしてみる事にするよ。ただ、簡易なものでいいから地図を売ってくれないか?」
冒険者ギルドでの情報は馬車で進んだ時の話だったので自分が地図を持つ必要は無かったが歩いて行くのであればやはり地図は必要だ。
「冒険者ギルドでも買うことは出来ると思いますが?」
「冒険者ギルドはさっき行ってきたばかりで護衛依頼を断ったばかりなんだよ。だからちょっと戻りづらいんでな」
「なるほど、そういう事でしたか。では、こちらがダクトまでの地図となりますので規定の料金をお願いします。また、地図には休憩ポイントは書かれていますが野営ポイントの記載はありませんのでご了承くださいね」
本来、商業ギルドが推奨する移動手段は馬車での移動なのでこの区間は野営の必要がないため記載されていないようだ。
「野営は慣れてるので問題ない。それに今はそれほど獣たちの凶暴化も酷くないと聞いているから大丈夫だ。まあ、急ぐ旅じゃないからゆっくりと行ってみるさ」
俺がそう言って受付を離れようとした時、受付嬢の後ろから男性の声で俺を引き止める声がした。
「少し待ちたまえ。ダクトの町に向かうと聞こえたが?」
「ええ、乗り合い馬車がタイミングがあわないようなので歩いて行くつもりですが」
「そうか、それは間が悪かったな。こちらとしても採算のあわない便は出せないものでね。ああ、すまない。私はこの商業ギルドを統括させてもらっているリッツという者だ」
なんとなく雰囲気のある男だと思っていたらまさかのギルドマスターであったことに内心驚きながらも平静を装い聞き返す。
「ギルドマスター様がただの冒険者である俺にどんな用件があるんだ?」
大体がギルドのお偉い方からの直接依頼は面倒なものが多く、あまりやりたくない部類のものの上位に位置するものであるため俺も思わず身を構えてしまう。
「ちょうど明日からダクトの商業ギルドへ向かう馬車を出すつもりだったのだがやはり護衛の人数が足りなくてね。先程聞いた話ではBランクだそうじゃないか」
「ん? ダクト行きの乗り合い馬車はまだ出ないと聞いたばかりだが?」
「乗り合い馬車はな。今回の馬車は私がギルドの公用でダクトに向かうための特別馬車になる。その場合は商業ギルドが直接冒険者を雇っても良いことになっているから声をかけさせて貰ったのだよ。どうだ頼まれてくれんか?」
正直、面倒なことこの上ないが仮にも商業ギルドのギルドマスターが乗る馬車なのだから俺以外にも護衛は居るだろうし立場もあるから無茶は言わないだろう。先の冒険者ギルドであった護衛依頼よりはまだマシな方だと判断した俺は引き受けることにした。
商業ギルドのドアを開けると鈴の音が鳴り冒険者ギルドと同じく直ぐに用件伺いの案内嬢が歩み寄ってくる。
「本日のご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」
全てマニュアル通りなのだろう効率をよくするための対応が良くなされている。
「ダクト行きの乗り合い馬車が出ていないかを知りたいのだが……」
「乗り合い馬車の運行情報ですね。2番窓口へお進みください」
案内嬢は俺の案件に見合った窓口へと誘導すると次に入ってきた者の対応へと移っていった。
「乗り合い馬車の情報ですね。行き先はダクトの町ですか……そうですね、現在乗客を募集中ですが乗り合い馬車は最低10名集まらないと運行出来ませんので今のところいつの出発になるかは未定ですね」
「今、何人が集まっているんだ?」
「あなたで1人目ですのであと最低9名は必要ですね」
「そんなに集まらないものなのか?」
「先日出たばかりですので仕方ないと思いますが急いでおられるのならば専属馬車をご用意することも出来ます。但し馬車の料金に加えて護衛費などの経費をお支払いして頂きますが……」
「いやいや、単独で専用馬車を借りるなんでどこの富豪だよ。俺みたいな冒険者がそんな金を持ってないのは分かってるよな?」
「ちっ 貧乏人が……」
なんか受付嬢の口から聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がしたが大人な俺は華麗にスルーして受付嬢に質問をする。
「他に移動手段は無いのか?」
「そうですね。冒険者の方ならばランク次第では商隊の護衛をされながら移動する人も若干ながらおられます」
「護衛依頼か……。だが、それは冒険者ギルドの管轄じゃないのか?」
「そうですね、ですから必要な場合は商業ギルドから冒険者ギルドへ依頼を出す形になります。大商隊ならともかく、個人で冒険者ギルドへ行っても相手にされない事があるようですので代わりに依頼主となるのです」
「それで出発予定の商隊は存在するのか?」
「商隊ではありませんが今すぐにでもと言われている方がおられまして既に冒険者ギルドへ依頼していますので今ならば護衛依頼の空きがあると思いますよ」
(すぐにある冒険者ギルドの護衛依頼と言えば……先ほどのあれか、商業ギルドにも依頼していたのか)
「うーん、護衛依頼かぁ。今は受ける気がないんだよな」
「乗り合い馬車も今のところは出る予定もありませんし、護衛依頼も受ける気が無いのでしたら出来ることは徒歩での移動になるでしょうね。冒険者の方ならば途中1日野営をされればラウの村までたどり着けるでしょうし、自分の身を守るだけならばそう難しい事ではないでしょうから」
(そうなんだよな。勇者時代は馬車に乗って移動なんてありえなかったんだから町のひとつやふたつ歩くのなんて対した事じゃ無かったけどマリーとの旅があまりにも楽だったから体が鈍ってきたのかもしれないな)
「分かった、そうしてみる事にするよ。ただ、簡易なものでいいから地図を売ってくれないか?」
冒険者ギルドでの情報は馬車で進んだ時の話だったので自分が地図を持つ必要は無かったが歩いて行くのであればやはり地図は必要だ。
「冒険者ギルドでも買うことは出来ると思いますが?」
「冒険者ギルドはさっき行ってきたばかりで護衛依頼を断ったばかりなんだよ。だからちょっと戻りづらいんでな」
「なるほど、そういう事でしたか。では、こちらがダクトまでの地図となりますので規定の料金をお願いします。また、地図には休憩ポイントは書かれていますが野営ポイントの記載はありませんのでご了承くださいね」
本来、商業ギルドが推奨する移動手段は馬車での移動なのでこの区間は野営の必要がないため記載されていないようだ。
「野営は慣れてるので問題ない。それに今はそれほど獣たちの凶暴化も酷くないと聞いているから大丈夫だ。まあ、急ぐ旅じゃないからゆっくりと行ってみるさ」
俺がそう言って受付を離れようとした時、受付嬢の後ろから男性の声で俺を引き止める声がした。
「少し待ちたまえ。ダクトの町に向かうと聞こえたが?」
「ええ、乗り合い馬車がタイミングがあわないようなので歩いて行くつもりですが」
「そうか、それは間が悪かったな。こちらとしても採算のあわない便は出せないものでね。ああ、すまない。私はこの商業ギルドを統括させてもらっているリッツという者だ」
なんとなく雰囲気のある男だと思っていたらまさかのギルドマスターであったことに内心驚きながらも平静を装い聞き返す。
「ギルドマスター様がただの冒険者である俺にどんな用件があるんだ?」
大体がギルドのお偉い方からの直接依頼は面倒なものが多く、あまりやりたくない部類のものの上位に位置するものであるため俺も思わず身を構えてしまう。
「ちょうど明日からダクトの商業ギルドへ向かう馬車を出すつもりだったのだがやはり護衛の人数が足りなくてね。先程聞いた話ではBランクだそうじゃないか」
「ん? ダクト行きの乗り合い馬車はまだ出ないと聞いたばかりだが?」
「乗り合い馬車はな。今回の馬車は私がギルドの公用でダクトに向かうための特別馬車になる。その場合は商業ギルドが直接冒険者を雇っても良いことになっているから声をかけさせて貰ったのだよ。どうだ頼まれてくれんか?」
正直、面倒なことこの上ないが仮にも商業ギルドのギルドマスターが乗る馬車なのだから俺以外にも護衛は居るだろうし立場もあるから無茶は言わないだろう。先の冒険者ギルドであった護衛依頼よりはまだマシな方だと判断した俺は引き受けることにした。
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