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第55話【元勇者、ラウの村に到着する】

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「あの商人と以前なにかあったのか?」

 アールドたちの馬車を尻目に出発したリッツに興味が湧いてそう尋ねてみていた。

「彼の商会はなかなか大きくてね、取り扱う商品が多くてギルドとしては重宝してはいるのだがあの男、アールドは先代からの2代目で少々目に余る行為もちらほらとあるんだよ。たとえば、ウチの受付嬢に手を出そうとしたり業績の伸びてきた商会の主力を引き抜いたりね」

「引き抜きですか」

「先代の残した莫大な資金を有しているからな。気に入った人材は金にものを言わせて引き抜くんだよ。まあ、引き抜いたら終わりって訳じゃなくてちゃんと高給のまま面倒をみてることだけは評価するがな。そうじゃなければ既にギルドとして厳しい対処をしているさ。まあ、私個人としてはあまり好きでは無いがな」

「なるほど、そういう事情があるのか。俺としてもあまり関わり合いになりたくない部類だな」

「しかし、このままラウの村に泊まると向こうもまた接触してくるかもしれんな。道中野営になっても良いなら村に寄らずに進むのも手だが……」

(どれだけ会いたくないんだよ)

 リッツがそう言うのを聞いていたガーネットは「そんなワガママを言ってはいけませんよ。野営は危険度が一番高い行為で回避出来るのであれば回避するのが定石です」と戒めた。

「ううむ、君には敵わないな。わかった、予定どおりにラウに泊まることにしよう」

 リッツは苦笑いを見せながらもガーネットの言葉に素直に従ってくれた。

 ◇◇◇

「ギルマスに意見するとか実はガーネットさん影の支配者だったりしないか?」

 馬車をラウの村に向けて走らせる御者台の上で俺はガーネットにそう聞いてみた。

「おっしゃる意味がわかりませんがもとより必要な事ははっきりと意見するようにとリッツギルドマスターより指示されておりますので問題はないかと」

 相変わらずの冷静な受け答えに俺は苦笑しながらも仕事を完璧にこなそうとする彼女に興味がわいていた。

「そろそろ村が見えてくると思いますが村には宿屋は1軒しかありませんので先ほど話にあがったアールド殿も同じ宿に泊まることは明白ですので宿ではあまり外には出ないようにお願いします」

 口ではいろいろと言うガーネットだったがやはりリッツの事もしっかりと考えて行動しているのだと良く分かる発言をしてくる。

「了解、今回の俺は雇われ冒険者だからな。依頼主の要望は出来るだけ聞くようにするさ。あと、俺もあのハゲ頭には会いたくないからな」

「それを聞いて安心しました。宿の手配はこちらでしますのでお任せください」

 ガーネットがそう言っている間に馬車はラウの村の門までたどり着いていた。

 ◇◇◇

「――これはリッツ殿、ようこそおいでくださいました。本日は公務でお泊りでしょうか?」

 村に到着した俺たちは村唯一の宿に入ると店主がリッツに気がつき直ぐにこちらに飛んできた。

「公務でダクトに向かう途中だ。すまないが一泊ほど世話になる。今日はいつもよりも護衛が一人多いので大部屋が空いていればそこで頼む」

「大部屋でございますか? 大部屋となると1階の端から3部屋になりますがご希望はありますでしょうか?」

「一番端の部屋でいいだろう。移動中の寝泊まりなんて夜露が凌げて夜襲がなければ十分だからな」

 リッツはそう言うと階段から一番遠い大部屋に決めていた。

「しかし、ガーネットさんも同室で良いのですか?」

 俺が余計な考えでそう彼女に聞くとガーネットは表情を変えずに「公務で来ているので当然ではないですか?」と返してきた。

(そういえばいつもギルドマスターが公務に出る時は彼女がついてまわっていると言っていたな。いつも通りの事で特に気にするものでは無いのだろう)

 冒険者のパーティでは男女混合で大部屋に泊まるなんてことは経費の節約面からよくある事だと知っていたのでそれと同じなんだと俺は勝手に納得しておいた。

「少し早いが食事を済ませておこうか。部屋に荷物を置いてから食堂にて夕食にするとしよう」

 リッツはそう言うと宿の店主から部屋の鍵を預かり一度荷物を置きに部屋に入った。

 部屋は最大6人が泊まれるようにベットが6つ置いてあるだけの簡易な作りの部屋でそれぞれがカーテンで仕切れるようになっていた。

「荷物と言っても貴重品などはマジックバックに入れてあるから無いに等しいのだが着替えなどまでは入れられないからな。やはりもう少し容量の大きいマジックバックを探さなければならんか」

「マジックバック自体が貴重なものですから性能が高いものは滅多に出回らないと聞いていますし、出ても相当に高額になりますのでとても公費で買うことは認めて貰えないと思われます」

 リッツのマジックバック購入の話にガーネットは即座に却下の判断をくだしてくる。

「――ああ、このくだりはいつもの事だから気にしないでくれたまえ。私も公費でマジックバックを新しくすることが難しい事は十分にわかっているつもりだ」

 俺がなんとも言えない表情をしていたようで、それに気がついたリッツがすぐに説明をしてくれた。

「さあ、食事をとってから明日の予定の確認をするとしようか」

 俺がそれ以上に何も聞かないのでリッツはそう言って俺たちを連れて食堂へと向かった。
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