魔王のいない世界に勇者は必要ないそうです

夢幻の翼

文字の大きさ
表紙へ
19 / 49
2巻

2-3

しおりを挟む
「――普通の部屋だな。問題はなさそうだ」

 その後、俺はマリーと共にあてがわれた部屋にベッドが二つあることを確認して、ホッと息を吐く。ダブルベッドだったりしたらクレームものだ。

「マリーは奥のベッドでコトラと一緒に眠るといい。何かあった時に対処しやすいように、俺が入口近くのベッドを使わせてもらうから。仕切りカーテンもあるようだしゆっくり休んでくれ」
「は、はい。ありがとうございます」

 マリーは少し緊張したような声で俺の言葉に答えると、鞄を棚に置いてベッドにボスンと倒れ込んだ。

「はー、今日は疲れました。確かに馬だけでなく馬車にも強化魔法をかければ速く進めますけど、あの振動はどうにも慣れそうにないですね」
「そうだな。俺たちだけならゆっくりとした旅になったと思うが、ダクトの町までは仕方ないだろうな。それに、商業ギルドに恩を売れる機会なんてそうあるものじゃあないからな」

 俺がそう言った時、部屋のドアがノックされ、ガーネットの声が聞こえてきた。

「先に食事を済ませますので、一階の食堂へお願いします」
「分かりました」

 ガーネットの気配が部屋の前からなくなったので、俺は寝転がっているマリーに声をかけて食堂へ行く準備をした。

「美味い食事だといいな」
「そうですね。お酒が飲めないのは残念でしょうけど、食事が美味しいと気分が上がりますものね」

 マリーと一緒に部屋から出た俺は、そんな会話をしながら一階の食堂へと下りていく。

「――だからと言って、公費での買い替えは無理ですよ」

 食堂に入ると、先にテーブルについていた二人がなにやら口論している声が聞こえてくる。

「何かあったのか?」

 二人の雰囲気から喧嘩けんかをしている感じではなかったので、俺は興味本位で聞いてみた。

「ああ、いや。特に問題があったわけではないが、荷物を運ぶのに魔法鞄を使うことがあるだろ? 現在使っている鞄は容量が少なすぎて、必要な物が入らないことが多いのだ。なんとか新調出来ないかと交渉していたところだ」

 キースの愚痴ぐちにガーネットは表情のひとつも変えずに淡々と答える。

「魔法鞄そのものが貴重ですし、性能が高い物は滅多に出回らないと聞いています。ですので、かなり高額になりますから公費で買うことは認めてもらえないと思われます。もしどうしてもと言われるのであれば、キース様の個人資産から捻出ねんしゅつをお願いしますね」

 キースの魔法鞄を公費で購入する話をガーネットが即座に却下していたようだ。この人、本当にギルマスより権限が上のような気がする。

「容量によって値段が変わるんだったよな? 欲しいやつはかなりの高額商品なのか?」

 先日、マリーに魔法鞄の価値を教えられたばかりだったが、話の流れで口を挟んだ。

「キース様が欲しいと話されているものは、末端価格で金貨千枚は下らないと思われますので、全くの論外ですね」

 ガーネットは怒っているわけではなさそうだが、現実的に無理なものは無理とはっきり言うタイプなのだろう。きつい言い方だが、キースにしてもそのことを咎めるつもりはないようだった。

「ん? ああ、こういったくだりはいつものことだから気にしないでくれたまえ。私も公費で魔法鞄を新しくすることが難しいのは、十分に分かっているつもりだ」

 キースはそう話すと口角を上げて笑い、俺たちに席に座るように言ったのだった。

「そういえば、二人はずいぶんと距離が近いように見えるが、実は親子だったりするのか?」

 俺は椅子に座りながら二人の年齢差を考えて、ふと思ったことを聞いてみた。

「はっはっは。まあ、話と態度だけ見ればそう見えるかもしれないが、ガーネット君は私の有能な部下というだけだ。まあ、ギルド内で私にはっきりと苦言を言ってくれる貴重な存在ともいえるがな」

 笑いながら説明をしてくれるキースに、ガーネットはほぼ無表情のまま頷くのだった。

「店主、全員揃ったので夕食を頼む。料理はオススメでいいが、公務中なので酒はなしで頼むよ」

 俺たちが席につくとキースが店主を呼び、夕食の手配を頼む。

「かしこまりました。少々お待ちください」

 キースの言葉に、店主は慣れた様子でその場でお辞儀すると、くるりと向きを変えて厨房へと消えていった。

「この村は王都とダクトを繋ぐ中継地点だから、どちらの料理も作れるようにしてあるのだよ。そして、今回のようにオススメを選択すると、どちらでもないこの村独自の料理が振る舞われる。私はそれが気に入っていてね」

 初めて村を訪れた俺に対して、キースはそう教えてくれる。

「ムム鳥の香草蒸こうそうむきとマルイモのサラダです。お飲みものは果実水となります」

 話しながら十分ほど待つと、厨房ちゅうぼうから給仕きゅうじの女性が料理を運んでくる。

「おお、ムム鳥は久しぶりだな。前に来た時に言っていたことを覚えていてくれたのか」
「はい。店主が、以前キース様にめて頂いた時のことを覚えていたようで、すぐに決めたようです」
「それはありがたい。店主にお礼を伝えておいてくれ」

 給仕の言葉を聞いてキースはそう言うと、満面の笑みを浮かべながら料理を頬張った。

「これは美味いな」
「はい。お肉の柔らかさもですが、この味付けがいいですね」

 俺たちの前にも並べられたので遠慮なく手をつけると、予想以上の味に思わず言葉が漏れる。

「そうだろう? この宿の料理人は腕がいいから、安心して料理を頼めるのだよ」

 キースが上機嫌にそう語っていた時、入口辺りが騒がしくなった。声から察するに、思ったよりも早くアールドの馬車が到着したようだ。

「個室の一番いい部屋は空いているか?」
「これはアールド様、ようこそお越しくださいました。いつもの二階の一番奥の部屋でよろしいでしょうか?」

 宿屋の主人は慣れている様子で、アールドの要望に応えた部屋を勧める。

「ん? 今日は先に王都のギルマスが来ているはずだが、あの部屋へは案内しなかったのか?」
「キース様は別の部屋をご指定されましたので、そちらへご案内させて頂いております」

 アールドは拍子抜けした様子で部屋へと向かおうとしたが、食事中のこちらに気がつくと、ニヤニヤとした表情ですぐ傍まで歩いてくる。

「これは、お早いご到着で。先ほどはとんだ醜態しゅうたいをさらしてしまいましたな。いや、申し訳ない」

 つい先ほどやり込められた相手に対してこの態度とは、相当に図太い神経をしているのだろう。

「ふん。君も思ったより早い到着のようだが、先ほど言ったことは忘れていないだろうな?」
「護衛の休憩時間のことならばしっかりと確保しておりますよ。気になるようでしたら本人たちに聞いてみればよろしいかと」

 にやりと笑って白々しらじらしくそんな言葉を吐くアールド。キースはちらりと彼を見て「そうだな、そうさせてもらうとするか」と言って席を立った。

「おやおや、本当に信用がないですな」

 アールドはため息をついてキースの行方を目で追った。

「日頃の行いのせいではないのでしょうか」

 目も合わせないでガーネットがそう淡々と告げると、その言葉に反応してアールドが彼女に絡んでくる。

「おや、そういえば今回もガーネット嬢が同行されているのでしたね。まあ、見目みめがよいので傍に置くにはいいですが、もう少し女性らしく愛嬌あいきょうを持たれたら可愛げが出るというものですよ」

 ――ぴしっ。
 ガーネットの持つグラスが急激に冷やされて音を発した。

「おっと、こんな所で攻撃魔法など使うと、キース殿の立場が悪くなりますぞ」

 ガーネットは冷めた視線をアールドに向けて何か言おうとするも、フイと視線を外して無視を決め込んだ。

「そちらは先ほど活躍された冒険者の方と、そちらのお嬢さんは服装からして商人ですかな?」

 ガーネットが無視を決め込んだことで、今度はアールドの興味がマリーへと向く。

「今どき、個別単体の行商などもうかりはしないだろうに。どうしても商売がやりたいのならば、うちで雇ってもいいのですがね」

 アールドはマリーをめるように見てそう告げる。

目障めざわりだな」

 俺はアールドの不躾ぶしつけな視線がマリーに向いていることに嫌悪感を抱き、こっそりと収納から取り出した酒精の高い酒に魔法をかけた。

水球ウォーターボール

 テーブルの下で、数センチほどの大きさの酒の球を作り、追尾の魔法を付与。下品に大口を開けて笑いながら話すアールドの口に、隙を見てねじ込んだ。

「大体がワシの誘いをことわ……ガボッ!? ゴクリ」

 アールドは突然口の中に液体が飛び込んできたことに驚いたが、反射的に飲み込んでしまう。

「な? なんだ、今の液体は? ガボッ!?」

 続けて何度も口に飛び込んでくる液体が酒だと気がついた時には、彼は既に許容量を超えたアルコールを飲まされており、ベロベロに酔っ払ってその場に崩れていた。

「おいおい、酔っぱらって絡むのは勘弁してくれよ。おーい、この迷惑な男を部屋に運んでくれ!」

 俺は床で寝てしまったアールドを、宿屋の主人に頼んで部屋に連れていってもらう。そして主人に礼を言うと、少し冷めた料理の残りに手をつけた。

「何かあったのか? アールドが店員に抱えられて運ばれていったようだが、まさか魔法でふっ飛ばしていないだろうな?」

 アールドの護衛たちの事情聴取を済ませて戻ってきたキースが、疑いの目を向けて聞いてくる。

「俺がふっ飛ばしていたら彼も店も無事ではないだろう。急に彼が酔っ払って眠ってしまっただけだ」
「そうか、それならばいいが、あまり無茶をしないようにな」

 キースもおそらくだが、俺が起こしたことだと認識していたようだ。だが、それ以上追及することもなく食事を済ませ、部屋へと帰っていった。

「ありがとうございます」

 ガーネットが食事を終え、部屋に戻るために席を立ったタイミングでお礼を口にしてきた。当然彼女が気づかないはずはないと思っていたが、俺はとりあえずとぼけておく。

「なんのことかな」
「いえ、別に……。なんとなく言ってみたかっただけです」

 そう言って業務連絡をし始めるガーネットは、いつもの無表情ではなく優しく微笑んでいるように見えたのだった。


 ◇◇◇


「――それではダクトへ向けて出発しますね」

 翌日の早朝のこと。俺たちは早めに準備してもらった食事を早々に食べ終えると、アールドが起きて絡んでくる前に宿を出た。ダクトに向かうため馬車に乗り込んでいく。

「ここからだと、この時間に出発すれば、昨日のような強行でなくとも夕暮れにはダクトの町に辿り着ける想定です。今日は強化魔法を使わずに進みますね」

 昨日のうんざりする馬車の振動を今日も体験するのかと身構えていたマリーは、彼女がそう告げたので心底ホッとした表情を見せていた。

「やはり、マリー様には無理をさせてしまっていたようですね」

 マリーの心情をくみ取ったガーネットが、そう言って頭を下げる。

「い、いえ。大丈夫ですよ」

 マリーは恐縮したようにそう答え、コトラを抱いて補助席に座る。それを見たガーネットはゆっくりと馬車を走らせ始めた。
 無理のない走行スピードに気持ちのいい風を感じながら、俺が先のことを考えていると、御者席のガーネットから声をかけられる。

「どうかしたか?」
「いえ、アルフ様は見た目は剣士ですが、昨日の魔法を見る限り魔法にもかなりの適性を持っているように感じました。わたくしも多少の魔法を使う者として大変興味があるのですが、一度お話を聞かせて頂けたらと思いまして……」
「ああ、奴の口に酒を押し込んだ魔法のことか。あれはそれほど高度なものじゃないんだが、確かにそれなりの魔力制御は必要かもしれない。簡単にでよければ次の休憩時に教えてやるよ」
「本当ですか? ありがとうございます」

 ガーネットは俺の言葉に珍しく笑顔で返した。


 馬車が休憩場所に着くと、ガーネットはすぐに俺の所に駆け寄り、話を聞きたいと願ってきた。

「本当に初歩だけだからな」

 俺はそう言って、傍に流れていた小川の水で右手に数センチ大の水球ウォーターボールを作る。それをガーネットに見せると、水球を指先に移動させてからクルクル回し、ピンと指先で弾く。すると、水球は勢いよく飛んでいったかと思うと、向かい側に生えていた木の枝をくるりと旋回して、俺の手のひらに戻ってきた。

「それは、どうやっているのですか!?」
「基本は攻撃魔法の打ち出しと変わらないぞ。あれも結局は打ち出す方向を決めて魔力を放出させているだけだからな。ガーネットさんもその感覚は分かるだろ?」
「はい」
「ならば、あとはその打ち出す物質をコントロールする制御魔法を加えてやるだけで、思い通りの軌道で制御出来るようになる」
「制御魔法……ですか?」
「ああ、知らなければ使うことは出来ないか。すまないが、少し手を握るぞ」

 俺はガーネットにそう伝えて、彼女の手に自分の手を重ねて魔力を流すことで、制御魔法のコツを教える。

「どうだ? なんとなくでも理解出来そうか?」

 俺の言葉を聞いて、自分の手を見つめていたガーネットは、いきなり目の前の木に向かって攻撃魔法を発動させる。

氷の矢アイスアロー

 ガーネットは右手を前に突き出して魔法を発動させると、こともあろうか左手で制御の魔法を重ね合わせた。

制御コントロール

 その手から打ち出された氷の矢は、始めはまっすぐに進み、彼女が右手を右に振ると大きく右に軌道を変えて進み出した。
 ザン!
 結果、氷の矢は右に生えていた木の幹に当たり、細かく砕けて霧散した。

「これは驚いた。まさか一発で成功させるとは」

 もともと魔法の扱いは上級レベルであろうガーネット。彼女は俺が教えたコツをすぐに掴み、休憩時間中にほぼ習得してしまっていた。

「いやいや、ガーネットさん優秀すぎやしないか? 俺がコイツを出来るようになるまでには、少なくとも一週間はかかったぞ」

 俺の言葉にガーネットは少し照れた表情で言う。

「教え方がよかったのだと思いますわ。そもそも、あれだけ分かりやすく教えてもらえれば誰でもすぐに習得出来るはずです」

 そんなはずはないのは明白だったが、ガーネットがそう言い切ったので、俺も諦めて称賛しょうさんを受け入れることにした。

「本当にありがとうございました」

 俺の講義に満足したガーネットは俺に礼を言うと、機嫌よく御者席に戻り馬車を走らせる。

「このご恩は何かで返さなければいけませんね。アルフ様は何かお好きなものはありますでしょうか?」
「酒だな。どこにでもあるものじゃなくて、その土地特有の地酒なら最高だな」
「ふふっ。やはり冒険者にはお酒の好きな方が多いのでしょうかね。わたくしの知り合いにも冒険者をしている者がいますが、やはりお酒が好きでこちらに戻るたびにオリブ酒を好んで飲んでいましたよ」
「ほう。ダクトの町には美味い地酒があるのか?」
「わたくしはあまりお酒を飲みませんのでよく分かりませんが、その知り合いは最高に美味いと絶賛していましたので、美味しいのではないかと思いますよ」
「その知り合いはダクトにいるのか? もしいるなら、是非とも一緒に飲みたいものだな」

 俺は町に美味い地酒があると聞いたことで、期待から饒舌じょうぜつになる。

「残念ながら、今はエンダーラ王国にいるはずです。もともとはマイルーンで活動していたのですが、エンダーラの方が稼げるとのことで拠点を移したと聞きました」
「エンダーラか。王都なら俺も住んでいた時期があるから、もしかしたら出会っているかもしれないな」
「そうですね。腕が立つ冒険者ではあるのですが、お酒が絡むと我を失うこともあるようで。ほどほどにして頂きたいものですね」

 俺はなんだか自分のことを言われているようで気まずくなり、話題を変えることにしたのだった。


「見えてきました。休憩を少しばかり長くとってしまいましたので予定より遅れましたが、日没までに間に合ってよかったです」
「ううっ。やっぱりこの揺れは慣れませんね」

 平然と話すガーネットに対して、マリーがぽつりと弱音を吐くのが聞こえる。

「ああ、申し訳ありません。わたくしが出発時間を遅らせたばかりに……。今夜もギルドで宿の手配をしますのでゆっくりと休まれてください」

 結局のところ、あれから半分の距離を進んだ辺りから、日没に間に合わなそうだということで、前半と同様に馬車に強化魔法を施して進んだのだった。

「帰りの馬車は大丈夫なのか?」

 マリーの様子も気にはなったが、依頼者であるキースに今後のことを確認すると、彼からは気楽な言葉が返ってきた。

「ああ、ダクトのギルドで馬車の手配はしてもらうつもりだ。おそらく乗合馬車か商隊の世話になるだろうが、たかだか馬車で二日の距離だ。たまには旅人との交流もいいだろう。君たちのようにな。それよりもまずは公務だ、私はこれから三日間ほどダクトにいるので何か話があればギルドを訪ねてくるといい」

 キースはそう言ってにやりと笑った。



  4


 ――リンリン。
 ダクトに到着するなり、俺たちはキースに連れられて商業ギルドにやってきた。

「これは、キースギルドマスター。予定を過ぎても到着されないので心配しておりました」

 中に入ると、受付嬢がキースの姿を確認するなりすぐに駆け寄ってきた。

「すまないな。専用馬車が壊れてしまい、その代替馬車の確保に手間取ってしまったのだ。彼らに依頼の報酬を渡してやってくれ。これがその内容だ」

 キースはそう言って、受付嬢に報酬内容の書かれた紙を手渡す。

「君たちとの旅は楽しかったよ。珍しくガーネット君の機嫌もよかったようだし」
「キース様。余計なことを言う暇がおありなら、明日の書類確認をして頂けると助かるのですが」

 キースの言葉に、冷ややかな空気を漂わせながらガーネットがそう口をはさむ。

「ははは。それでこそガーネット君だ。すぐに確認を済ませることにしよう」

 キースはそう言って奥の執務室へ向かう。

「――マリー様。この度は馬車に乗車させて頂き、誠にありがとうございました。そして、アルフ様。道中にて教えて頂いた制御魔法については、鍛錬たんれんを重ねて自分のものにしたいと思います」

 ガーネットは丁寧なお辞儀をしながら感謝の念を俺たちに告げ、その場を後にしたのだった。


「それでは、依頼報酬をお渡ししますので、窓口までお越し頂けますでしょうか?」

 タイミングを見て受付嬢がそう声をかけてくる。

「ああ。ただ、報酬の受け取りは俺じゃなくて、馬車の所有者であるマリエルで頼む」
「分かりました。では、報酬の受取人をマリエル様にて報告書を作成させて頂きますね」

 俺の言葉にマリーが異を唱えようとするのを手で制す。彼女は少し不満そうな表情を見せながらも頷いたのだった。

「では、こちらが報酬の金貨になります。それと、商業ギルドが提携している宿の数日分の宿泊券もお渡しするように指示が出ておりましたので、こちらをお持ちください」

 キースは通常の報酬に加えて、律儀にも宿の手配までしてくれたようだ。疲れた様子のマリーを見た俺は早々に休ませる選択をする。

「せっかくの厚意だ。ありがたく受け取ることにしよう。この宿はどこにある?」
「ギルドのすぐ隣にありますよ。受付で宿泊券を提示すれば部屋を案内してもらえるはずです」
「ありがとう。行ってみることにするよ」

 俺はマリーと共に商業ギルドを出ると、隣にある宿に入り、受付で宿泊券を提示。すると、すぐに部屋へ案内をしてもらえたのだった。

「お疲れのようだからマリーは先に休んでいるといい。俺は冒険者ギルドで情報収集をしてくるから。コトラ、マリーの傍にいてやってくれ」 
「にゃー」

 俺はそうコトラに指示を出すと、彼女が頷くのを見てから冒険者ギルドへと向かう。


しおりを挟む
表紙へ
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。