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本編
(31)裏切り・1
しおりを挟む「ヴェルヘレック様、こちらです。先ほど歩いていたら綺麗な花の咲いているところを見つけました。よろしければご一緒ください」
屋敷を出れば、暗闇からエールックに声をかけられて、一瞬身を縮めてしまった。
こんな夜に花を? と思ったが明日にはここを出立する。せっかくの誘いだ。俺はそう思えば頷き、エールックの後に続いて歩いた。
「エールック。まだ遠いのか?」
「もう少しです、もう少し」
あれからどのくらい歩いただろうか。
俺は後ろを振り返るが生い茂る木々しか見えず、ここから来た道を帰れと言われても迷わず帰れる自信はない。
「ほら、あちらです」
エールックの声に視線を前方に向ければ、そこは木々の間に出来た小さな広間のように見えた。
正面に大きな樹が見える。月明りに照らされるそこには、確かに白とも水色ともつかない小さな花が絨毯のように群生していて綺麗だった。
「こんな夜更けに花を見たことはなかったが、綺麗なものだな」
俺はそこへ足を踏み入れる。そんなに大きな場所ではないが5、6人でお茶会をしたら良さそうな場所だ。母上やダフィネが喜びそうだな、と思った。
そのまま立派な樹に近寄り、その幹に触れる。
後ろに気配を感じ、振り返ろうとした時。
「……え?」
後ろ手に両手首を掴まれ足払いをされた。
体勢を崩して膝をついたが手首を掴まれているので、手を高く掲げる状態になり、肩に変な痛みが走る。
そのまま両手首にガチャリと何か嵌められたかと思えば、解放された。
手首に感じる冷たさにぞわりと悪寒が走る。
後ろ手に両手を拘束された、そう俺が認識するのに数秒かかった。
「エール…ック?」
「はい、なんでしょうか。ヴェルヘレック様」
俺は恐る恐る、後ろを振り返った。そこには俺を見下ろすエールックが立っている。
確かにエールックだ、良く知っている顔。だけどその表情は、この前あった髭面の男と同じような下品な笑みを浮かべていた。
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