イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音

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第八話 絶体絶命と真打登場

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 すぐに助けに入るべきかもしれないが、まだエルレは諦めていない。
 それなら今はまだ、俺の出番じゃない……そんな気がしたのだ。
 
 レイリーたちの配置は覗き見た時に大体把握はしていたが、再度確認しておく。
 屋敷の炎は水魔法で一気に消火するとして、アイツ等はどう無力化するべきか。下手に動くと獣人が助からなくなるかもしれない。

 火の勢いは強いが、どうやらレイリーが自分たちの周りに火が回らないよう調整しているようで、リビングの中は他と比べると異様に燃えていない。この様子ならレイリーの気が済むまでエルレたちが炎に飲み込まれることは無いだろう。

「となると、タイムリミットはあの子犬族の獣人次第かな……」

 覗き見た時には立派な青年に見えたが、成体ではあるものの、どうもあの獣人はまだ子どものような気がする。そうだとしたら精神的にも肉体的にもあまり長くは耐えられないだろう。すでに十分深手を負っている。

「……大体さぁお前はヴェルダード殿下に嫌われてるの! そんなこともわかってないの?」

 はぁ?!?!?!? 
 誰が誰を嫌っている、だって? そして何故ここで俺の名前が出てくる??

「黒持ちだから仕方なく付き合ってくれてんだよ」
「……違うっ! 殿下は僕を、あ、愛してくれている!!」

 そうそう、俺はエルレを愛して……へ? まって、いまエルレが、俺の愛を主張してくれた?

 呆けた俺の思考を無視して、レイリーとエルレの言い争いは続く。

「馬鹿なこと言うなよ、身の程知らずが! お前が闇魔法を使うために生贄を殺してる残忍な悪魔だって、ヴェルダード殿下は仰ってたぞっ!!」
「っ!!」

 まてまて、俺はそんなこと一言も言ってないぞ。どう湾曲したらそうなるんだよ。

 レイリーの言葉にエルレはグッと唇を噛む。

「ボクがちゃーんと、そこの犬とお前がデキてるってことも報告しといてあげたからさー、安心してここで死んでよ」
「そんなこと、信じない……」
「はぁ? お前がどう思おうとかんけーないの! 筋書きはこうだよ! 殿下と婚約してるのに獣人と通じていたお前はその罪深さに気づき無理心中した。屋敷に火を放って使用人たちも巻添えにしてね!」

 レイリー……それこそちょっと色々と無理がないか……?

 自分の策に酔っているのか、醜い顔で笑うレイリーをエルレも啞然と見上げている。言葉もない、という顔だ。
 だがそんなエルレが気に入らなかったのだろう、レイリーはエルレの頭を踏みつける。

「エルレ、ボクに逆らえばそこの犬、殺すからね!」

 そのままグリグリと踏み込み、土下座をさせるかのようにエルレの頭を床に押し付ける。

「大体さぁ、お前がとっとと婚約破棄しないからこんなことになってんだよ! お前がいなきゃなぁ! ボクがヴェルダード殿下と結婚できたんだよ! おら、とっととボクに殿下を返すって言いなよ!!」
「………言わない」
「あぁ? なんだって?」
「絶対に、言わない!! ヴェルは物じゃない! 返すとか、返さないとか……うぐっ」

 グイグイと頭を床に押し付けられながらもエルレは抵抗する。

「はぁ? 聴こえないんですけど? 状況わかってるの? バカなの?」

 ほんと、エルレは馬鹿だなぁ。
 こんな時は適当に相手に話を合わせてしまえばいい。それをなにも馬鹿正直に受け答えする必要なんてないのに。

 それに使用人を人質にされたからって、素直に魔法を使わないなんてお人好しが過ぎるだろう。

 ――… こんな善良な人間が魔に落ちるのだとしたら、それは滅ぼされるべき理由がこの世界にあるというだけだ。

 エルレは本当に優しいんだ。
 だから、誰かがエルレを傷つけるというのなら俺が必ず守ってやりたい。例えエルレが俺のことを気に入らなくても、これからも側に……あ、いや、そうか。

 エルレは……あんなよそよそしい態度を取ってたけど、俺の愛はちゃんと感じてくれていたし、婚約も望んでくれていたのか……。

 やばい、嬉しい。

 うんうん、やはりエルレを魔王にするわけにはいかないな!

「もういいや、その犬、殺しちゃって」
「!? やめっ……」

 レイリーの人身売買に関する証言も欲しかったが、もういいや。それは兄上に任せよう。
 それにそろそろ潮時だ。

 俺は閃光弾をレイリー達めがけて打ち込む。物凄い強さの光が部屋の中に炸裂した。
 ちなみに光魔法である。見た目こそ派手だが殺傷能力はない。

「ぐわぁっ! なんだ、眩しい!!!」
「え、なに……うわっ??」

 光に驚きひるんだレイリーの隙をつき、エルレが体を起こす。その反動でレイリーが蛙のようにみっともない姿で後ろにひっくり返った。


 
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