22 / 50
ちゃんと「好き」だと伝えたい
2.「あんたが変なこと言ったからだろ」
しおりを挟む九月になっても残暑厳しく、せっかくだから普段行かないところにデートに行くかと思っていたけど屋外は遠慮したい。
となると映画くらいしか思いつかなかった俺のレパートリーを増やしてくれたのは同僚の槇さんだ。
すでに夏休みを消化済みの主婦の槇さんは家族で水族館に行ったらしい。涼しくて暗いから子どもはずっと寝てたけど大人しくしててくれて良かった、と感想を述べていた。
ちなみに同じ部署の谷内くんの方が俺より年齢も各務くんに近いし、若い子がデートに行きたい場所の参考になるのでは? と思うものの彼からはいつも同じ大型テーマパークの話しか聞けないので参考にならないのだと最近気づいた。
「来週のデートは水族館とかどうかな?」
「ぶっ!?」
そんなわけでいつも通り夕飯を一緒に食べている各務くんに提案をしてみたのだが、何故か食べていたドリアを吹き出しかけた。
「大丈夫、熱かった?」
「あんたが変なこと言ったからだろ」
「え、デートで水族館って変なの?」
「そっちじゃねぇ……」
慌てて口の中のものを飲み込んだ各務くんはジロリと俺を睨むと額に手を当てて、ため息を付きながら俯いてしまった。
「ほんと、あんた気にしないんだな」
なんとなく恨めし気な視線を向けてくる各務くんの言わんとすることが判らず、俺は首を傾げる。
「デートって……こんなとこでわざわざ言わないだろ、ふつう」
そう言われて見れば今日はお互いの家ではなく、チェーン店のレストランなので周りには他のお客さんも当然いる。他人の会話を意識して聞く人がいるとは思えないが、居ないとも限らない。
しかもよく考えればこの辺りには俺の知り合いはあまり居ないけど、各務くんの通ってる大学は近い。つまり、彼の知り合いはその辺にいる可能性があるのだ。
男同士というのは昔ほど奇異の目では見られないと思うけど、それでも受け入れられない人たちが居るのも判る。大学生なんて多感なお年頃だ。中高生よりは分別はあるものの、ちょっとしたことでイジメとかに発展してしまうかもしれない。
迂闊だった。
「ご、ごめん。変なこと言って」
「………」
俯いてる各務くんの表情は見えない。怒ってないといいなと思いつつ、俺は目の前のカルボナーラを食べる。二人で沈黙していたのはほんの数秒だろう。
「……水族館ならどこでもいいの?」
俯いたままボソリと各務くんが呟く。
「え、うん。水族館は涼しいって聞いて、最近行ってないし、普段と違っていいかなって思って」
「……ふーん判った、なら調べとく。あんたって夏苦手?」
「え、うーん、どうだろう。気にしたことなかったけど」
特に夏が好きとか冬が好きとか考えたことはなかった。言われれば暑いよりは寒いほうがいいかなぁとは思う。ただそれは今が夏で、暑すぎる日差しを浴びているからそう思うのかもしれない。冬になったら夏がいいとか思いそうだ。
だけど。
「冬になったらまたカニ鍋食べたいから、うん、やっぱり、今は冬の方が好きかな」
「ぶっ!?」
思わず俺が呟けば、各務くんが今度はコーラを喉に詰まらせ、肩を震わせた。
「はっ、あんた、ほんとに食べるの好きだな」
肩を震わせ笑うのをこらえつつ顔を上げた各務くんと視線が合う。
確かに美味しいものを食べるのは好きだ。だけど、カニ鍋はまた各務くんと食べたいと思ったのだ。今度は美味しい日本酒もお取り寄せしたい。
でも、それを本人に言うのは恥ずかしい気がしたし、また困らせてしまう気がして「石狩鍋もやってみたい」と関係のないことを言って誤魔化した。
33
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た
キトー
BL
【BLです】
「俺と秋さんは恋人同士です!」「そうなの!?」
無気力でめんどくさがり屋な大学生、露田秋は交通事故に遭い一時的に記憶喪失になったがすぐに記憶を取り戻す。
そんな最中、大学の後輩である天杉夏から見舞いに来ると連絡があり、秋はほんの悪戯心で夏に記憶喪失のふりを続けたら、突然夏が手を握り「俺と秋さんは恋人同士です」と言ってきた。
もちろんそんな事実は無く、何の冗談だと啞然としている間にあれよあれよと話が進められてしまう。
記憶喪失が嘘だと明かすタイミングを逃してしまった秋は、流れ流され夏と同棲まで始めてしまうが案外夏との恋人生活は居心地が良い。
一方では、夏も秋を騙している罪悪感を抱えて悩むものの、一度手に入れた大切な人を手放す気はなくてあの手この手で秋を甘やかす。
あまり深く考えずにまぁ良いかと騙され続ける受けと、騙している事に罪悪感を持ちながらも必死に受けを繋ぎ止めようとする攻めのコメディ寄りの話です。
【主人公にだけ甘い後輩✕無気力な流され大学生】
反応いただけるととても喜びます!誤字報告もありがたいです。
ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる