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それでも「好き」が止まらない

3.「懐かしいな」

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 ちなみに無意識にたどり着いたわけではないし、もちろん各務くんに会いに来たわけでもない。ただ単に会社へ提出する必要書類を母校に取りに来ただけである。各務くんの通う大学は俺の出身校なのだ。

 代わり映えのしない懐かしい構内に足を踏み入れれば、学祭のポスターが目立つところに貼り出されていた。

「あ、もうすぐかぁ、懐かしいな」

 日程を見れば十一月初旬の祝日とのこと。卒業してからも近所に住んではいたが、わざわざ来たことはない。なんとはなしに構内を見渡せば大きなベニア板なども放置されており、学祭準備の慌ただしい雰囲気を垣間見れた。

 仮所属らしいが三年生になった各務くんも夏休みには研究室を手伝っていると言っていた。もしかしたら学祭関連で研究室での作業が忙しいのかもしれない。慣れないことをするのは大変だ。学生の頃と比べれば社会人になってからの方が一年の変化は少なく感じる。もちろんそれは俺が転職をしてないからというのもあるけど、目まぐるしく毎日変化のあった大学時代を思い出せば、各務くんの忙しさも腑に落ちた。やっぱり年寄りは若人の邪魔をすべきではない。

 思い出に浸りつつ、ふと視線をガラス張りのカフェに向ければ見知った姿を見つけた。すでに夕方近い時間帯なので食事というよりはただ仲間内で席を陣取って喋っているのだろう。

 各務くんが男女数人の学生と何やら楽しげに話している。

 見ていれば隣の男子が各務くんの頭に手を置き髪をぐしゃぐしゃにして怒られていた。なんとも仲良しで微笑ましい光景だ。俺も学生の頃はあんな風にバッチリ決めてきた友人の髪を乱してめちゃくちゃ怒られたっけ、懐かしい。各務くんもあれでいて髪型にこだわりがあるのかもしれない。今度会った時にでも聞いてみよう。
 見た感じでは先日の先輩くんはいないようだった。かなり距離もあるし、あちらは室内にいるので会話どころか声も全く聞こえてこない。楽しげな雰囲気だけが伝わってくる。

 気付けば俺は各務くんの姿をジッと見つめていた。

 これがドラマや小説であれば、見つめる恋人の視線に何故か気付くものである。だけど現実でそんなことは勿論ない。
 どのくらいその場に俺は佇んでいたのか分らないけど、各務くんがこちらを見ることはついぞなかった。

 俺は小さく息を吐き出すと、書類を受け取るために事務棟へ向かった。

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