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もののけとの出会い
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「まずは確認やけど、美裕さんは普通の人間やんね?」
旅行バッグに入っている金平糖を取り出して机の上に並べていると、楓さんから軽い感じの質問が飛んできた。
普通の人間?
どういう意味だろう? 私は普通のOLだし、昨日までは不思議体験をした事すらない人間だったんだよ? まあ、昨日と今日でビックリするくらい濃厚な体験をしてるけどね!
「平凡な人生を送ってきた普通の人間ですよ」
私の言葉に楓さんはくすくすと笑いながら「普通の人ねー」なんて言ってる。そういえば葉子ちゃんに鎖の拘束? だっけ? そんな事が出来たよね。それの事かな?
「いや、本当に普通ですって。でも陰陽師でも出来ない拘束をしたと、葉子ちゃんが言ってましたけど、それの事ですか?」
「そうそう。そうなんよ。あの術は凄いと思うよ。術の残滓ざんしを見たら、だいたいの力量は分かるんよねー。あのレベルの術が発動出来る能力者は、ここ数百年見た事がないわ。でも、今はそんな話よりも大事なことがあると思うんやけど?」
私の疑問より大事なこと? 難しい顔をしている楓さんの視線を追うと金平糖に釘付けになってた。
そんなにか! そんなに食べたいか!
「じゃあ、金平糖を食べながら話します? まる餅はどうします?」
「そうやね。難しい話は食べながらやね。まる餅はきな粉もあるし、お喋りしながらには向いてへんから後でゆっくりと味わいたいわー。ん? どうかしたん?」
間延びした口調でニコニコとしている楓さんに思わず見惚れる。背筋はピンとしてて、肩まである黒髪ストレート。青の着物を物凄く優雅に着こなしている。すました感じも似合っていて、これでスーツを着てたら超有能な美人秘書さんの出来上がりだよね。
そしてだよ! そして、そんな人にケモミミと尻尾が出ているのだよ! もう、これは垂涎すいぜんの的だよね! モフりたいよね。ちょっとくらいなら……。
「やめとくれやす。大人の妖狐にモフモフしてもええのは番つがいだけどすえ」
「……。それにしても微妙な京都弁はなぜ? いや、それよりもなんでバレました? まさか心を読めるとか?」
思わず聞いた私に、楓さんは苦笑しながら桃味の金平糖を食べ始めた。そして頬をゆるめながら答えてくれる。
「心の声って……。思いっきり喋ってたよ? あと京都弁の方は京都伏見稲荷大社のいる妖狐だからね。それっぽいでしょ?」
あれ? 心の声ではなかったのか。昔から「美裕って声出し過ぎだよねー」とは言われてたけどさ! そんな事より、楓さんは今なんて言った?
「ソレッポイ?」
「そう、その方が京都にいる妖狐っぽいと思わへん?」
思わず棒読みな感じになった私に、ニコニコしながらうんうんと頷きつつ、楓さんが次々と他の味の金平糖を開け始めた。
いいのか、それで? それっぽいで終わらせていいのか、この会話を? 私の困惑をよそに楓さんは金平糖を1個ずつ味見していた。
「うーん。うちはこっちのレモン味がすきやなー。でも口の中が甘うてしゃあないわー。なんか温かい飲み物が欲しいなー。ちらちら」
「え? はいはい、お茶ですね。すぐに用意しますよ」
「ちらちら」と言葉に出す人を初めて見たよ。楓さんのあからさまな催促に私は困惑している事はいったん横に置いといて、苦笑しながらお茶の用意をするため台所に向かった。
ドミトリーって建物にもよるのだろうけど、台所まで付いてて本当に便利だよね。でも私以外にも宿泊客がいたなら、葉子ちゃんにも会う事も楓さんにお茶を用意する事もない普通の旅行になったんだろうなー。
そんな事を思いながらお湯を沸かしていると、楓さんも台所にやってきて袖からなにかを取り出し渡してくれた。
「せっかくやからお茶はこっちを使ってくれる? 城陽市じょうようしのお茶なんやけど、結構好きなんよね。お湯は温ぬるめでいいよ」
こだわりのお茶なのかな? 私も備え付けのお茶パックは飽きてたから助かるけど。まさか急須きゅうすまで用意して渡してくるなんて――おっと。そうだ、これは聞いとかないと。
「やっぱり猫舌なんですか?」
「うん。狐やけどね。ちなみに狐ってネコ目イヌ属イヌ科なんよ。知ってた?」
なんの情報!? いや、私も今聞いてビックリだけどさ! どっちなのよ!? 犬なの? 猫なの?
「ふふ。うちもようは知らんのよー。この前、ネットで見たら載ってたから」
ネット見るのかよ! そんな私の心の声は漏れてなかったらしなく、楓さんは私のお茶を入れる動きをじっと見ていた。美人さんに見られていると少し緊張する上に照れるよね。
「美裕さんは葉子ちゃんを見てどう思う?」
私の動作を見てるわけではなかったようで、真剣な表情で確認してくる楓さんに答える。
「え? どう思うと言われても……。まずは可愛いですよね! 特に幼女なのに『妾』と言って、無理に大人ぶっているのはヨダレものです。それにケモミミと尻尾も似合って可愛いし、ピコピコと動いている耳を見たらお持ち帰りしたくなりますよね。それと全力で油断する時がありますよね。私の腕の中に入ってきた時なんて萌え殺されるかと――」
あれ? 楓さんが聞いてくるから熱く葉子ちゃんについて語ったのに、引きつった顔をしないでよ。なにが聞きたかったんだろう?
「い、いや。そうやのうて。人の前に簡単に現れて、一緒にお菓子を食べたりするなんて、もののけとしての自覚が足りひんと思わへん?」
ああ、そっちか。それは思うかなー。いや、それを言ったら楓さんも同じでは?
「うちは美裕と話したいから、あえて姿を見せてるんよ」
そうですか。
旅行バッグに入っている金平糖を取り出して机の上に並べていると、楓さんから軽い感じの質問が飛んできた。
普通の人間?
どういう意味だろう? 私は普通のOLだし、昨日までは不思議体験をした事すらない人間だったんだよ? まあ、昨日と今日でビックリするくらい濃厚な体験をしてるけどね!
「平凡な人生を送ってきた普通の人間ですよ」
私の言葉に楓さんはくすくすと笑いながら「普通の人ねー」なんて言ってる。そういえば葉子ちゃんに鎖の拘束? だっけ? そんな事が出来たよね。それの事かな?
「いや、本当に普通ですって。でも陰陽師でも出来ない拘束をしたと、葉子ちゃんが言ってましたけど、それの事ですか?」
「そうそう。そうなんよ。あの術は凄いと思うよ。術の残滓ざんしを見たら、だいたいの力量は分かるんよねー。あのレベルの術が発動出来る能力者は、ここ数百年見た事がないわ。でも、今はそんな話よりも大事なことがあると思うんやけど?」
私の疑問より大事なこと? 難しい顔をしている楓さんの視線を追うと金平糖に釘付けになってた。
そんなにか! そんなに食べたいか!
「じゃあ、金平糖を食べながら話します? まる餅はどうします?」
「そうやね。難しい話は食べながらやね。まる餅はきな粉もあるし、お喋りしながらには向いてへんから後でゆっくりと味わいたいわー。ん? どうかしたん?」
間延びした口調でニコニコとしている楓さんに思わず見惚れる。背筋はピンとしてて、肩まである黒髪ストレート。青の着物を物凄く優雅に着こなしている。すました感じも似合っていて、これでスーツを着てたら超有能な美人秘書さんの出来上がりだよね。
そしてだよ! そして、そんな人にケモミミと尻尾が出ているのだよ! もう、これは垂涎すいぜんの的だよね! モフりたいよね。ちょっとくらいなら……。
「やめとくれやす。大人の妖狐にモフモフしてもええのは番つがいだけどすえ」
「……。それにしても微妙な京都弁はなぜ? いや、それよりもなんでバレました? まさか心を読めるとか?」
思わず聞いた私に、楓さんは苦笑しながら桃味の金平糖を食べ始めた。そして頬をゆるめながら答えてくれる。
「心の声って……。思いっきり喋ってたよ? あと京都弁の方は京都伏見稲荷大社のいる妖狐だからね。それっぽいでしょ?」
あれ? 心の声ではなかったのか。昔から「美裕って声出し過ぎだよねー」とは言われてたけどさ! そんな事より、楓さんは今なんて言った?
「ソレッポイ?」
「そう、その方が京都にいる妖狐っぽいと思わへん?」
思わず棒読みな感じになった私に、ニコニコしながらうんうんと頷きつつ、楓さんが次々と他の味の金平糖を開け始めた。
いいのか、それで? それっぽいで終わらせていいのか、この会話を? 私の困惑をよそに楓さんは金平糖を1個ずつ味見していた。
「うーん。うちはこっちのレモン味がすきやなー。でも口の中が甘うてしゃあないわー。なんか温かい飲み物が欲しいなー。ちらちら」
「え? はいはい、お茶ですね。すぐに用意しますよ」
「ちらちら」と言葉に出す人を初めて見たよ。楓さんのあからさまな催促に私は困惑している事はいったん横に置いといて、苦笑しながらお茶の用意をするため台所に向かった。
ドミトリーって建物にもよるのだろうけど、台所まで付いてて本当に便利だよね。でも私以外にも宿泊客がいたなら、葉子ちゃんにも会う事も楓さんにお茶を用意する事もない普通の旅行になったんだろうなー。
そんな事を思いながらお湯を沸かしていると、楓さんも台所にやってきて袖からなにかを取り出し渡してくれた。
「せっかくやからお茶はこっちを使ってくれる? 城陽市じょうようしのお茶なんやけど、結構好きなんよね。お湯は温ぬるめでいいよ」
こだわりのお茶なのかな? 私も備え付けのお茶パックは飽きてたから助かるけど。まさか急須きゅうすまで用意して渡してくるなんて――おっと。そうだ、これは聞いとかないと。
「やっぱり猫舌なんですか?」
「うん。狐やけどね。ちなみに狐ってネコ目イヌ属イヌ科なんよ。知ってた?」
なんの情報!? いや、私も今聞いてビックリだけどさ! どっちなのよ!? 犬なの? 猫なの?
「ふふ。うちもようは知らんのよー。この前、ネットで見たら載ってたから」
ネット見るのかよ! そんな私の心の声は漏れてなかったらしなく、楓さんは私のお茶を入れる動きをじっと見ていた。美人さんに見られていると少し緊張する上に照れるよね。
「美裕さんは葉子ちゃんを見てどう思う?」
私の動作を見てるわけではなかったようで、真剣な表情で確認してくる楓さんに答える。
「え? どう思うと言われても……。まずは可愛いですよね! 特に幼女なのに『妾』と言って、無理に大人ぶっているのはヨダレものです。それにケモミミと尻尾も似合って可愛いし、ピコピコと動いている耳を見たらお持ち帰りしたくなりますよね。それと全力で油断する時がありますよね。私の腕の中に入ってきた時なんて萌え殺されるかと――」
あれ? 楓さんが聞いてくるから熱く葉子ちゃんについて語ったのに、引きつった顔をしないでよ。なにが聞きたかったんだろう?
「い、いや。そうやのうて。人の前に簡単に現れて、一緒にお菓子を食べたりするなんて、もののけとしての自覚が足りひんと思わへん?」
ああ、そっちか。それは思うかなー。いや、それを言ったら楓さんも同じでは?
「うちは美裕と話したいから、あえて姿を見せてるんよ」
そうですか。
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