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私の使命です!

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あっけらかんと爆弾発言をしたティナを全員が目を皿のようにして見詰めていた。
オルフェウス大神官がおずおずと口を開く。

「聖女ティナロア様?それはどういう意味・・・でしょうか?」

ティナは目を泳がせながら少し考えていたが、意を決して全てを話すことにした。

「アーレントの父親はアルベッシュ帝国の皇帝、ハーベスト・ルドルフ・ローリエ・アルベッシュ陛下です」

全員の目がさらに大きくなった。

「神の御子では?」

フェルナンド神官が呟く。

「ああ、それは誤解です。アルが・・・いえ、神があまりにも可愛がるのでそんな感じになっちゃってましたが、間違いなくアーレントはハーベスト様の子です。なぜ絶対って言い切れるのか?ってお顔ですね・・・それは、私が純潔を捧げたのがハーベスト様で、私とハーベスト様が契りを結んだのはその一夜だけだからです。それ以降はこちらの教会にお世話になっておりますので、私の身の潔白は教会が保証してくださると思います」

オルフェウスが慌てて発言した。

「教会で働く女性の身の潔白は私が全責任をもって証明できます。それなのにティナロア様は出産なさった・・・だから神の御子だと考えたのですが。来られた時にはすでに妊娠しておられたのですか」

「すみませんでした。実は私も自分が子を宿しているなど考えてもみなかったので・・・。だってたった一晩ですよ?まあ、何回かはしましたが・・・それにしても処女を抱きつぶすなんて・・・ハーベストもどんだけぇ~って感じですよねぇ」

ハロッズ侯爵が慌ててナサーリアの耳を両手で塞いだ。
慌てていたので力が入ったのだろう、ナサーリアは両頬を軽くビンタされたような状態でクラクラと目を回している。
それに気づいたユリアが侯爵から娘を奪い取り、両腕でしっかり抱きしめた。
その様子を数秒見るともなく見ていたキアヌが口を開く。

「ティナロア様・・・いや、君が聖女ではないと言ならティナロア嬢と呼ぶことにしよう・・・私だったら赤子の父親は神だと言い続けて今の生活を守ることを選ぶ方が賢明だと考えるが、なぜあなたはそれをせず茨の道を選ぶ?」

ティナはにっこりとほほ笑んだ。

「仰る通りかもしれませんね・・・しかし私には使命があるのです。それは聖女ナサーリア様をあらゆる危険から守り、天寿を全うしていただく事。それが私の存在理由です!」

ティナは拳を固く握り言い切った。
ティナの迫力になぜか全員が薄い拍手をしている。
その光景を見ている神が涙を流して笑っていた。
ユリアがティナに聞いた。

「ティナロア嬢・・・あなたの熱意は理解した。しかしあなたの使命とハーベスト陛下との関係、それにあなたがアルベッシュに行く事のつながりが私に見えないのだが・・・皆はわかったか?」

全員が静かに首を横に振る。

「ああ~そうですよね・・・話すと長いし、たぶん全て理解するのは不可能です。なので信じてください。私は信用できなくても神は信じますよね?全ては神の思し召しなのです」

胸の前で十字を切り祈る振りをしながら全員の反応をティナは盗み見た。

『そうだ。全ては私の望むところだ』

オルフェウス大神官がフェルナンド神官と顔を見合わせナサーリアを見た。
ナサーリアも見つめ返し三人で頷いて同時に声を発した。

「そうだ。全ては私の望むところだ」

その声にその場の全員が弾かれた様に背筋を伸ばした。
ユリア殿下が跪き言った。

「全ては神の望むままに」

全員が同じ言葉を復唱して跪いた。

「全ては神の望むままに」

こうして神とティナの力技によるアルベッシュ帝国訪問事案は決定した。
それからの数日、何度も会議が重ねられアルベッシュ帝国訪問団が結成された。
団長は第二王子殿下のキアヌ、訪問の主目的はルイーダ山水源の治水工事及びダム建設に関する提案だが、当然裏の目的も存在する。
ティナとアーレントの存在は、関係構築の鍵でもあった。
出立まで後半月となった時、ティナはオルフェウス大神官に話があると言い出した。

「どうしました?ティナロア様」

「お時間をいただき感謝します。大神官様・・・実は私、アルベッシュに向かう前にどうしても会っておきたい方々がありまして」

「会っておきたい?それは・・・どなたでしょう」

「はい、私の実家にいた使用人たちです。本当に私を愛してくれた人たちです。あの人たちがいなかったら私は今生きていないと言っても過言ではありませんわ」

「なるほど・・・ご実家はランバーツ伯爵領でしたか?」

「ええ、今は領地ではなく自治区となっておりますが、数日戻ってきても良いでしょうか」

「それはもちろん御心のままに。しかし殿下にはご報告させるがよろしいかと」

「承知しました。ちょっと王宮に行ってきますね」

ティナはシスタードレスにショールをまとっただけの姿で部屋を出た。
教会の正門に駐屯している騎士団に声をかけ、三人の護衛に守られながら王宮に向かった。
ユリアの側近に案内されてユリアの執務室に向かう。
部屋の中にはキアヌもハロッズもいた。

「こんにちは、皆さん。数日ぶりですね」

「ああ、ティナロア嬢。オルフェウスからの先ぶれで集まって待っていたのだよ」

「お忙しいのに申し訳ございません」

「それで?ランバーツ領に行きたいと?」

キアヌが微笑みながら言った。

「ええ、アルベッシュに行ったらなかなか会えなくなるかもだし・・・万が一帰ってこれない事も想定するべきかと思いまして」

「ティナロア嬢はアルベッシュに留まるつもりなの?」

ユリアが不安そうに言う。

「でもアーレントのことがありますでしょう?もしもハーベスト様がアーレントを手放さないという選択をされたら、私も残ることになりますから」

「そうだね。ハーベスト陛下は未だに独身だ。婚約者もいなかったような?」

ハロッズ侯爵が続けた。

「婚約者は弟君の後宮に入られましたよ。結構なスキャンダルでしたが上手く乗り切られましたな」

「ああ、そんなことがあったね。でもあれは兄弟で反逆者をあぶりだす作戦だった聞いたが」

ハロッズ侯爵が笑いながら言った。

「さあ?鶏が先か卵が先か・・・本人達にしかわかりませんな」

「ははは。ティナロア嬢、護衛をしっかり付けていくなら問題ないよ。しかしナサーリアは納得するだろうか」

四人は小さくため息をついた。
ハロッズ侯爵が肩を竦めながら言う。

「そこは納得させるしかないでしょうな。ユリア殿下の手腕に期待しましょう」

「えっ!私が説得係なのか?う~ん・・・責任重大だな・・・」

ユリアを除く三人が生ぬるい視線を第一王子殿下に向けた。
キアヌが場を取り繕う。

「ティナロア嬢はいつ向かうつもりなの?」

「できるだけ早く行きたいと思っています。明日とか?」

「明日か!ティナロア嬢は相変わらずフットワーク軽いなぁ・・・護衛は?」

ハロッズ侯爵が提案した。

「侯爵家の騎士団を付けましょう」

「それはありがたい。それでは準備が整い次第ということで」

ティナがきれいなカーテシーを披露して退出した。
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