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最後の帰郷

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さすがに今日の明日というわけにはいかなかったが、それでも王宮で報告してから三日後に旧ランバーツ領に到着した。
実家はすでに娼婦館となっているため町で一番大きな宿を手配してもらった。

「ティナロア様、お出かけですか?」

ハロッズ侯爵家騎士団の団長が宿のロビーで出掛けようとしていたティナに声をかけた。

「ええ、知り合いの店に顔を出してきます」

「わかりました、お供いたします」

「一人で大丈夫ですよ?」

「お願いですから単独行動はお控えください」

「は~い」

宿を出てさっさと歩くティナの後ろに二人、横に騎士団長が張り付いている。

(護衛されるって結構鬱陶しいわね・・・)

宿からものの十分程度で懐かしい市場町の食堂に到着した。騎士たちに目くばせして入口に待機してもらう。
お土産を持ってくれていた騎士団長だけがティナと一緒に店に入った。

「いらっしゃいませ!定食は売り切れたのですが大丈夫ですかって・・・ティナロアお嬢様!あ~ティナロアお嬢様だ!よくぞご無事で・・・ちょっとあんた!おじさん呼んできて!」

ほんの二年前に別れただけなのに、まるで生き別れた姉妹に出会ったような感激ぶりを見せるリアにティナの方が感動してしまった。

「リア・・・元気そうで嬉しいわ。お店も上手くやっているのね」

「はい・・・はいお嬢様・・・すべてお嬢様のお陰です。ああ・・・お嬢様・・・」

リアは泣き出してしまった。
ティナがおろおろとリアをなだめているとバタバタという大きな音が天井で響き、ビスタが店に駆け込んできた。

「お嬢様!」

「ビスタ~会いたかったよ~ビスタ~ビスタ~」

今度はティナが泣き出してしまった。
そんな三人を見ながらもらい泣きしていたリアの夫のジャンが店の外に駆けて行った。
三人は固く抱き合いながら再会を喜び合った。

「あれからどうだったの?大丈夫だった?」

ティナが心配そうにビスタに聞いた。

「お嬢様が心配しておられるのはジャルジュのことですね?」

「ええ、あのゲスヤロウが怒鳴りこんでこなかった?」

「やはりお嬢様はご存じなかったのでね・・・ハーベスト殿下が手を打ってくださっていたのですよ」

「ハーベスト様が?」

「ええ、ジャルジュは来ました。お嬢様の替え玉がバレたのではなく、私とリアにこの店を譲れと迫ってきたのです。そして娼婦館の下働きをさせようという魂胆でした。おそらく私たちは残っていると思っていたのでしょう」

「どこまでも厚かましい奴ね!騎士団長に頼んで切り捨ててもらいましょうか!」

ティナは怒った顔で付き添っている騎士団長の顔を見た。
騎士団長は意味も分からずOKサインを出している。

「ははは、お嬢様は相変わらず頼りになりますな。しかし奴は死にましたよ。娼婦館の客に酔って喧嘩を吹っ掛けて斬られて死にました」

「斬られて死んだ?」

「ええ、その斬った男というのがハーベスト殿下の配下の方です」

「まあ!私も事件の後すぐに見に行ったのですが、あの時お世話した騎士の方でした」

「その方は捕えられたりしなかったの?」

「ええ、もともとジャルジュは嫌われ者でしたし、根回しはしてあったのでしょう。娼婦館を買い取る形で責任を取るという決着をつけられました」

「へぇぇぇぇ~鮮やかなものねぇ~。ではあの屋敷はハーベスト殿下の所有なの?」

「いいえ、マダムラッテの所有です。マダムが再購入されたのです。それも相当格安に」

「初めから出来レースだったのね。私の苦労は何だったのかしら・・・」

「いえいえ、ティナロアお嬢様が頑張ったから皆さんが手を差し伸べられたのです。それにハーベスト殿下もマダムラッテもお嬢様が繋いだご縁ではありませんか」

「まあそうね・・・お二人には足を向けて寝られないわ・・・テラは?どうしてる?」

「マダムラッテの所有になって娼婦館はすぐに廃業しました。今では淑女教育の学校ですよ。テラは教官として君臨してます。妹さんを引き取って学校にも通わせていますから」

「あの屋敷が学校とは・・・でも彼女には本当に悪いことをしたと思うわ」

「ああ、そうだ。テラは結婚しましたよ」

「えっ!」

「予定通りと言ったらお嬢様は傷つくでしょうが・・・ジャルジュを誑しこんで骨抜きにした後、アル中にしてからお客に絡むように仕向けて。凄い手腕ですね」

「さすがマダムラッテのお仕込みだわね・・・」

「ジャルジュが死んで半年くらいしてからでしょうか、ここの市場の若い衆と良い仲になりましてね。旦那は毎日幸せそうにしてますよ」

リアが楽しそうに言った。

「うちに野菜を納品してくれているんですよ」

「まあそうなの・・・たった二年、されど二年ね。でもね、私にも重大な発表があるのよ」

ビスタとリアは顔を見合わせた。
ティナは嬉しそうな顔をしながら言った。
その時店のドアを開けてテラが飛び込んできた。

「ティナロアお姉さま!」

「テラ!」

二人は抱き合って涙を流した。
事情も理由も知らない騎士たちがなぜかもらい泣きをしている。
ひとしきり近況報告をしあった後、マダムラッテも呼んでささやかな食事会を開くことになった。
自分たちで作るとビスタ達は言ったが、ティナはみんなで話したいからと町のレストランを貸切ることにした。

「では後でね」

感動の余韻の中、手を振りあってその場は解散した。
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