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結婚式
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そんな光景を神と一緒に見ていたティナが、意を決したように神に言う。
『ねえアル。これから私ってどうなるの?』
『うん・・・本来ならお前は即死してたんだ。今は俺がお前の命を繋いでいるし、ナサーリアが胎児の命を繋いでいるっていう状況だな。お前が事故に遭った時よりヤバい状況だ』
『じゃあ回復の見込みは無いのね?』
『うん。正直に言うとそうだ。お前がもういいっていえばそこであの体の命は尽きる』
『これって寿命だよね?自死じゃないよね?』
『そうだな。多少拡大解釈にはなるが自死とは言えない。まあ、寿命だな』
『じゃあ死んじゃうっていう選択をしたらここにずっといられるの?』
『ああ、お前の葬儀が我らの結婚式となるな』
『じゃあもう諦めるからさあ。ひとつだけお願いを聞いてくれない?』
『なんだ?』
『私、赤ちゃんをちゃんと産みたいの。そしてハーベストとの約束も守りたい。アーレントをもう一度抱きしめたい・・・ダメ?』
『・・・そうだな。でもあの体で出産すると、その瞬間に死ぬぞ?』
『だから頼んでいるんじゃない。一か月だけ意識を戻してほしいの。その間に全部片づけてくるから』
『一か月の間で出産してハーベストと結婚式を挙げるのか?』
『うん。今のままじゃ誰も前に進めない・・・そう思うの』
『そうだな・・・ハーベストにも悪いことしてたしな・・・なんとか頑張るか』
『神様でもそんなに大変なの?』
『そりゃそうだが・・・まあ心配するな。そうなると早い方がいい。お腹の子が心配だ』
『じゃあちょっくら戻ってくるわ』
ティナは明るく立ち上がり、アルにキスをしてすたすたと歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
眠り続けているティナの手を握っていたハーベストは、指先にほんの少し違和感を覚えた。
「ティナ?」
ティナの顔を覗き込むと、瞼がゆっくりと開いていくのが分かった。
「ナサーリア!来てくれ!ティナが・・・」
部屋に詰めていた使用人たちがあたふたと動き出す。
ソファで疲れ切って眠っていたナサーリアが飛び起きて駆けてきた。
「ティナ様・・・ああ・・・神よ・・・感謝します」
そう言うとナサーリアは持てる力の全てをティナに注ぎ込んだ。
ハーベストはアーレントを抱きしめてその光景を見守っている。
「アル?アーレント?・・・ああ・・・サーリ様」
「ティナ!」
ハーベストが駆け寄った。
「アル・・・ごめんね?心配かけちゃった・・・アーレントも、ごめんね?」
ティナの顔に顔を擦り付けてハーベストとアーレントは何度もティナの名前を呼んでいた。
バタバタという足音をたてながらキリウスが駆け込んでくる。
急ぐあまり途中で脱げてしまったのか、マリアンヌが裸足のまま走ってきた。
侍女たちに両脇を支えられながらリリアンも来た。
駆けつけた全員の顔をゆっくりと見ながらティナが口を開いた。
「産まれそうなの・・・お医者様を呼んで?」
それからの一日は怒涛の如く流れていく。
ナサーリアはハロッズ侯爵に支えられながら力の限り聖力を流し込み、ハーベストはまるで自分が産んでいるかの如くいきんでいた。
リリアンに抱かれたアーレントは力いっぱい拳を握りしめ神に祈りを捧げた。
「おぎゃぁぁぁぁぁ」
産声に城中が歓喜に湧いた。
関係各国に早馬が出され、ティナロアの意識が戻ったことと、ほぼ同時に出産したことが伝えられた。
続々と祝いの品が届く中、ティナはまだ指先しか自力では動かせていなかった。
ハーベストは産まれた赤子にマーガレットという名前をつけた。
それはハーベストがティナに初めて贈った花束に使われた花の名前だった。
母乳を与えられないティナに代わって、国中の若い母親たちが母乳を捧げにやってくる。
ハーベストは身分に関係なく、喜んで貰い乳を受け入れた。
マーガレットは標準より少し小さく生まれたが、勢いよく乳を吸う元気な赤子だった。
それから半月ほど経ったころ、まだ自力では歩けないティナがハーベストに話しかけた。
「ねえアル・・・聞いてほしいことがあるの」
「なんだい?ティナの為ならこの命だって差し出すよ」
「ふふふ・・・ありがとうね。実は結婚式のことなんだけど」
「ああ、必ず挙げるぞ」
「うん。でもね、正直なところあまり時間が無いの」
「・・・ティナ?」
「アル・・・愛してるわ。アーレントもマーガレットも。心から愛してる。離れたくない・・・でも、もう寿命が尽きちゃうのよ」
「そんな・・・」
「アル、お願いだから冷静に聞いて。本当なら出産もできない状態だったの、でもね神様にお願いして戻ってきたのよ?でもこれ以上は引き延ばせないの・・・大丈夫?」
「だ・・・大丈夫・・・なわけ・・・ないだろ」
「そうね、辛いよね。だから思い出を作ろう?結婚式しよう?約束したじゃない」
「ああ・・・そうだね・・・約束したね」
「四人で祭壇の前に立とうね。でも私は歩けないから・・・」
「心配するな。ティナは俺が抱いているよ」
「アーレントは?」
「あの子は一人で歩ける歳だ。マーガレットは・・・マーガレットはアーレントに抱かせよう」
「大丈夫かしら」
「大丈夫、いつも抱かせってろうるさい位だから。お兄ちゃんの自覚が出てきてる」
「うん・・・多分・・・あと十日くらいしか時間が無いと思う」
「そんな!」
「ハーベスト、あの子たちをお願いね。そしてあなたは皇帝として正妃を迎えるのよ?」
「それは・・・無理だ」
「ハーベスト?」
「それだけは絶対に嫌だ。俺はもうティナしか愛せない。愛したくない。ティナじゃないなら誰もいらない」
「うん。わかった。ありがとうね。私もずっと愛しているからね」
「約束だ。ティナとの約束は全部守るよ。結婚式はすぐに挙げよう。一週間で準備する。ウェディングドレスは俺の好みで良いだろう?」
「もちろんよ。嬉しいわ」
「ティナ・・・俺からも頼みがある」
「なあに?」
「ちょっとだけ・・・このまま・・・泣かせてくれ」
ティナは黙ってハーベストの頭を胸に抱いて、優しく髪を撫で続ける。
ハーベストは声を殺して泣いた。
『ねえアル。これから私ってどうなるの?』
『うん・・・本来ならお前は即死してたんだ。今は俺がお前の命を繋いでいるし、ナサーリアが胎児の命を繋いでいるっていう状況だな。お前が事故に遭った時よりヤバい状況だ』
『じゃあ回復の見込みは無いのね?』
『うん。正直に言うとそうだ。お前がもういいっていえばそこであの体の命は尽きる』
『これって寿命だよね?自死じゃないよね?』
『そうだな。多少拡大解釈にはなるが自死とは言えない。まあ、寿命だな』
『じゃあ死んじゃうっていう選択をしたらここにずっといられるの?』
『ああ、お前の葬儀が我らの結婚式となるな』
『じゃあもう諦めるからさあ。ひとつだけお願いを聞いてくれない?』
『なんだ?』
『私、赤ちゃんをちゃんと産みたいの。そしてハーベストとの約束も守りたい。アーレントをもう一度抱きしめたい・・・ダメ?』
『・・・そうだな。でもあの体で出産すると、その瞬間に死ぬぞ?』
『だから頼んでいるんじゃない。一か月だけ意識を戻してほしいの。その間に全部片づけてくるから』
『一か月の間で出産してハーベストと結婚式を挙げるのか?』
『うん。今のままじゃ誰も前に進めない・・・そう思うの』
『そうだな・・・ハーベストにも悪いことしてたしな・・・なんとか頑張るか』
『神様でもそんなに大変なの?』
『そりゃそうだが・・・まあ心配するな。そうなると早い方がいい。お腹の子が心配だ』
『じゃあちょっくら戻ってくるわ』
ティナは明るく立ち上がり、アルにキスをしてすたすたと歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
眠り続けているティナの手を握っていたハーベストは、指先にほんの少し違和感を覚えた。
「ティナ?」
ティナの顔を覗き込むと、瞼がゆっくりと開いていくのが分かった。
「ナサーリア!来てくれ!ティナが・・・」
部屋に詰めていた使用人たちがあたふたと動き出す。
ソファで疲れ切って眠っていたナサーリアが飛び起きて駆けてきた。
「ティナ様・・・ああ・・・神よ・・・感謝します」
そう言うとナサーリアは持てる力の全てをティナに注ぎ込んだ。
ハーベストはアーレントを抱きしめてその光景を見守っている。
「アル?アーレント?・・・ああ・・・サーリ様」
「ティナ!」
ハーベストが駆け寄った。
「アル・・・ごめんね?心配かけちゃった・・・アーレントも、ごめんね?」
ティナの顔に顔を擦り付けてハーベストとアーレントは何度もティナの名前を呼んでいた。
バタバタという足音をたてながらキリウスが駆け込んでくる。
急ぐあまり途中で脱げてしまったのか、マリアンヌが裸足のまま走ってきた。
侍女たちに両脇を支えられながらリリアンも来た。
駆けつけた全員の顔をゆっくりと見ながらティナが口を開いた。
「産まれそうなの・・・お医者様を呼んで?」
それからの一日は怒涛の如く流れていく。
ナサーリアはハロッズ侯爵に支えられながら力の限り聖力を流し込み、ハーベストはまるで自分が産んでいるかの如くいきんでいた。
リリアンに抱かれたアーレントは力いっぱい拳を握りしめ神に祈りを捧げた。
「おぎゃぁぁぁぁぁ」
産声に城中が歓喜に湧いた。
関係各国に早馬が出され、ティナロアの意識が戻ったことと、ほぼ同時に出産したことが伝えられた。
続々と祝いの品が届く中、ティナはまだ指先しか自力では動かせていなかった。
ハーベストは産まれた赤子にマーガレットという名前をつけた。
それはハーベストがティナに初めて贈った花束に使われた花の名前だった。
母乳を与えられないティナに代わって、国中の若い母親たちが母乳を捧げにやってくる。
ハーベストは身分に関係なく、喜んで貰い乳を受け入れた。
マーガレットは標準より少し小さく生まれたが、勢いよく乳を吸う元気な赤子だった。
それから半月ほど経ったころ、まだ自力では歩けないティナがハーベストに話しかけた。
「ねえアル・・・聞いてほしいことがあるの」
「なんだい?ティナの為ならこの命だって差し出すよ」
「ふふふ・・・ありがとうね。実は結婚式のことなんだけど」
「ああ、必ず挙げるぞ」
「うん。でもね、正直なところあまり時間が無いの」
「・・・ティナ?」
「アル・・・愛してるわ。アーレントもマーガレットも。心から愛してる。離れたくない・・・でも、もう寿命が尽きちゃうのよ」
「そんな・・・」
「アル、お願いだから冷静に聞いて。本当なら出産もできない状態だったの、でもね神様にお願いして戻ってきたのよ?でもこれ以上は引き延ばせないの・・・大丈夫?」
「だ・・・大丈夫・・・なわけ・・・ないだろ」
「そうね、辛いよね。だから思い出を作ろう?結婚式しよう?約束したじゃない」
「ああ・・・そうだね・・・約束したね」
「四人で祭壇の前に立とうね。でも私は歩けないから・・・」
「心配するな。ティナは俺が抱いているよ」
「アーレントは?」
「あの子は一人で歩ける歳だ。マーガレットは・・・マーガレットはアーレントに抱かせよう」
「大丈夫かしら」
「大丈夫、いつも抱かせってろうるさい位だから。お兄ちゃんの自覚が出てきてる」
「うん・・・多分・・・あと十日くらいしか時間が無いと思う」
「そんな!」
「ハーベスト、あの子たちをお願いね。そしてあなたは皇帝として正妃を迎えるのよ?」
「それは・・・無理だ」
「ハーベスト?」
「それだけは絶対に嫌だ。俺はもうティナしか愛せない。愛したくない。ティナじゃないなら誰もいらない」
「うん。わかった。ありがとうね。私もずっと愛しているからね」
「約束だ。ティナとの約束は全部守るよ。結婚式はすぐに挙げよう。一週間で準備する。ウェディングドレスは俺の好みで良いだろう?」
「もちろんよ。嬉しいわ」
「ティナ・・・俺からも頼みがある」
「なあに?」
「ちょっとだけ・・・このまま・・・泣かせてくれ」
ティナは黙ってハーベストの頭を胸に抱いて、優しく髪を撫で続ける。
ハーベストは声を殺して泣いた。
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